リアルJK
rainyfriend
里穂
放課後の教室には「じゃあねの雨」が降っている。
部活に行く人、まっすぐ家に帰る人、まっすぐ家に帰るとみせかけてちゃっかり図書室で勉強しちゃってる人もいる。そんなにぎやかな教室のドアの前で私は一人深呼吸をした。よし、と心で呟いて教室を出る。
決戦の時がきた
「部長にならないでください」
きのう筆箱の中に入っていた言葉が胸に突き刺さる。私、何かしたかな。なんでこんなことになっちゃったんだろう。
私が所属している演劇部では学年リーダーが次期部長になるっていうしきたりみたいなものがある。私は1年の頃から学年リーダーをやっていてしきたりでは次期部長だ。みんなも納得してくれてるって思ってた。だか、きのうあんなメモを入れられた。犯人は大体わかっている。はなしかそんなことをやる人はいない。
「里穂ちゃん」
部活着に着替えた彩はいつもより3倍くらい元気にみえる。小さな体には似合わない大きなバッグを抱えて元気に走ってくる。
……妹キャラ全開
こっそり毒づいてみる。いつもははしゃいでいる彩をみるとこっちもたのしくなってくけど、今日はそんな気分になれない。いいなあ。幸せそう。ちょっと妬ましいかも。
でもソフトボール部に入っている彩は1軍の子達にもまれて人間関係はこわいんだろうな。いや、今の私よりましか。
「部活?」
昼休みにあれだけ愚痴ったのに、すっかり忘れてる。やっぱバカだ。彩のくりくりした幼い目はこれから部活だという喜びに満ちている。その目、ずるいよ。まああっちに悪気はないし、なんていうか可愛い子って女子校でも得だよな〜 なんて考えちゃう。私は考えてる事を全部引っ込めて頷く。
その瞬間だった。本当にほんの一瞬。彩の目がクリクリしたまま幼さを失った。あっ。今私の心読んだな。まあ私の気持ちが伝わったんだからそれはそれでいいか。
「頑張って。ガッツだ!」
しっかり目を見て言われた。
「ありがとう」
満面の笑みで返しながらやっぱりって思う。彩はバカっぽいけど意外と賢い。こういうのをあざといっていうのかな。まあ今のは普通に嬉しかったけど。
廊下を歩きながら家で書いてきたメモを見る。
・学年リーダーとして今まで頑張ってきたことを伝える。
・私の至らないところはこれから直したいから指摘してほしい。
・ひそひそ話して筆箱の中にメモを入れるようなことをしなくても、相手に言いたいことが言えるような部活にしたい。
・もうすでに先輩からある程度仕事の引き継ぎみたいなものをしているから今さら変えられない。
言えるかな。ってか言わなきゃダメだ。彩にもこのメモを見せた。彩は微笑んでいたと思う。確か「頑張って」って言ってくれた気がする。あの子は天使みたいだから。夏実にも言ったけどあの子はあんまり聞いてくれなかった気がする。まああの子はそういう子だ。夏実にも悪気はないし夏実はやることが多すぎて多くのことにかまっちゃいられないのだろう。
「こんにちは」
後輩たちの元気な挨拶に適当に返しながら私は密かに心拍数が上がっていることに気づく。胃が痛い。酸っぱいものさえ感じる。落ち着け自分。同い年の子に意見を言うだけなのになんでこんなに緊張してるんだ。とりあえずリュックを置いてメモに集中する。本当は台本に集中するべきなんだけど。
はなと未来の笑い声が近づいてくる。
ああ、来ないで。お願いだから。無理なお願いをしてみる。
……来ちゃった……から言わなきゃ。すぅっと息を吸ったとき、頭がくらっとしていつの間にか意識を失ってしまった。
「大丈夫?」
保健室の先生が顔を覗き込んでくる。ここはどこだろう。あっ保健室か。ってかメモがない。やばい。はなたちに見られたよ。絶対。今頃私の悪口大会になってるに違いない。あーもう最悪。今日占い1位だったのに。なんなんだよ。ほんとに。メモだけ残して倒れるとか漫画じゃあるまいし。
「大丈夫?帰れる?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございました。」
「あのさ。」
「はい…?」
「もし嫌なことがあったらいつでも来てね。」
先生知ってたんですね、心の中で返事をした。
「……失礼しました。」
私、いじめられてるみたいじゃん。私、ぼっちじゃないんでって訂正したいかも。たまたま部活でうまくいってないだけで、いや、ちょっと前までは部活でもうまくやってたし。そんなこと考えてる方がぼっちっぽいな。やめよやめよ。ってかこの後どうしよう。絶対暗い顔してるよ、私。このまま帰ったら弟に根掘り葉掘り聞かれるよなー。とりあえず、どっかの空き教室でも入るか。1-Aが空いている。ラッキー。とりあえず荷物を置いて適当に席に座る。ふと後ろを向いて後ろの黒板と目があったときだった。
元気と笑顔
なにこの学年目標。ってかなんでこんなに目が合う位置にあるわけ。ほんと意味わかんない。鼻が痛い。あっダメだ。もうダメ。涙腺崩壊。私、ヤダ、なにやってるんだろう。絶対目真っ赤じゃん。なんでこんなにいうこと聞けないの、私の目、もうバカ。嗚咽が止まらない。
ひとしきり泣いて恥ずかしいけど、スッキリした。嫌なことをシャワーで流してるみたいだ。もういいじゃん。今日はいいよ。こんな日だってあるって。気づいたらスキップして教室を出でいる自分がいた。明日頑張ろ!うん。頑張れるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます