第15話 罪悪感

 彼は夜中のランニングを日課にしてた。

 途中に公園がある。

 その公園の樹の下でサラリーマンがぽつんと立って空をみあげていた。

 悲しそうな顔をしてる。そしてうなづく。

 酔ってるのかなぁ、と思って通り過ぎる。

 それからときどき見かけるようになった。

 いつも上を向いてから、うなづいている。

 あるとき不意に思いたって話しかけてみた。

 サラリーマンはぼんやりした顔で首を振った。そしてまた上を見上げる。

 視線の先にはマンションがあった。人がいる。

 その人が落ちた。

 あっ、と声が出て思わず駆け出した。が、駆けた足が止まる。音がしない。落ちた音が、しない。

 振り返るとサラリーマンが見上げている。また、うなづく。

 彼は急いで家に戻った。

 うなづいてるんじゃない、目で追ってたんだ。

 聞いたことがある。自殺した人間が、何度も同じ死の瞬間を繰り返すって。

「どうしたの?」

 青くなった彼に妻が問うたので、今見たものをどもりながら話した。

「あんた知らなかったの、あそこで人亡くなったの。出るって噂も? やだぁ、見ちゃったんだ。高校生の女の子が飛び降りたのよ」

「そうなんだ。それ、ずっと見てる人がいるんだよ。時々見かけるんだけど。もしかしたら父親だったりするのかなぁ。なんか切ないなぁ」

「それはないでしょ。だってお父さんが自殺しちゃって、それが原因で娘さんも色々あってさ。そのお父さんがあそこの公園の樹の下で首吊っちゃったんだよ」

「うそだろ、じゃあアレ誰だよ」

「知らないわよ」

 確認はしなかった。マラソンのコースを変えた。

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