第14話 結界
一つ前の話は怪異かどうかわからない話だったが、ついでにもう一つ思い出した話がある。これも怪異ではない。確実に。
私の知人の女性から聞いた話だ。
彼女は母親から聞いた。
ある日、職場の同僚からこんな話を聞いたのだという。
「親戚が霊感商法のようなのに騙されているのだけど、止め方がわからない」
その親戚には拒食症を患った娘がいるそうだ。失恋がきっかけで抑うつ状態になり、次第に拒食症状が出た。その両親とも精神疾患に理解がなく、そんなことくらいでいつまでもメソメソしているのはおかしい、と責めていたそうだ。だから拒食になっても「当てつけのつもりだろう」「いつまで続くか」と意地の張り合いになった。
恐らく、もともとこの親子は上手く関係を築けていなかった。
娘が倒れた時に両親は気持ちの持って行き場がわからなかった。そこを霊感商法にすくい取られた、ということだった。
「あなた達は間違っている。あなた達は娘さんを不幸にしている。認めなさい、って責めるんですって。でも、そうなってしまった原因はあなた達にはなくって、前世からの因縁とか土地の気が悪いから、魂を清めて一つずつ解決していけば大丈夫、って言うんですってさ。それで娘さんは一番その悪い気が溜まってるから、とか」
「普通に病院行ったほうがいいわよ」
「そりゃそうなんだけど、なんかヒーリングみたいなのしたら身体の調子がよくなってね、腰痛とか治ったんですって。だからもう信じちゃって」
言ってもダメなら無理にでも止めるしかないんじゃないの? と言うことしかできなかった。
それからひと月ほど後、結局無理にでも引き剥がすことにしたという話を聞いた。
二百万近くお布施をしているということがわかったからだ。一族総出で説得し、親戚のいる岩手に転居させることになった。
またそれから二月した頃。
「お葬式になっちゃって」
と言う。
結局、そのオカルトに染まった精神は治らなかった。むしろ独自の妄想に進んでいく。悪霊に攻撃されているに違いないと思い込んだ。餓死した子供の霊が襲ってくるのだと。
「餓鬼」は黒い。
だから部屋を清めるために一切のものを白く塗った。完全に真っ白な部屋を作り上げると、寝室の真ん中に塩の山を作った。
そこが娘の生活圏内になった。つまり、動けない。排泄はオムツで食事は白米と水だけ。当然、運動不足と栄養不足になる。
そして倒れる。
家族は結界を強くする必要を感じた。
白く塗り清められたものを娘のまわりに並べた。バービー人形、ウルトラマンのソフビ、虫眼鏡、コカ・コーラ、アンパンマンの空気人形、プラレール、レゴ、日本人形、石、木の枝、バット、サッカーボール、図鑑……諸々。
そして、倒れた娘を塩で隠した。
三日三晩の祈祷の末に気付いた。
「餓鬼」は去っていったと。
ぐったりした娘を塩の中から引っ張り出した。急いで救急車を呼ぶ、もう悪霊は去ったのだ。
「体重が三十キロまで減った人間を三日間も塩漬けにしたらどうなってると思う? それをどうしたらまだ生きてるもんだと思い込めるの?」
なんとも答えようがなかったということだ。
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