第14話 模擬試合、決勝
準決勝が終わり、フェヴィルが連戦になる私を気遣って少し休憩を取らせてくれていた。
「メイル。そろそろはじめるか」
中庭にできた僅かな日陰に腰を下ろして休憩を取っていた私のもとに、フェヴィルが歩み寄り告げる。
「はい」
短く返事をして立ち上がる。
「決勝は俺も本気でいくから、メイルも遠慮なく戦ってくれ」
フェヴィルは私に肩組みをしてそう言った。
「はい。そのつもりです」
今は、ハルシュ軍で剣の名手であったフェヴィルと手合わせできることが本当に楽しみだった。
団員達に囲まれ、円になった中心に私とフェヴィルが入る。
レンガを敷き合わせた中庭に簡易的に引かれた開始戦。
審判を務めるガランが、最後に円に入ってくる。
ガランが審判の位置につくと、私とフェヴィルが模造剣を構える。
「準備はいいな。それでは、はじめっ!」
「ハッ!」「セヤァッ!」
ガシッ!
始まりと同時に、お互いが斬撃を繰り出し模造剣がぶつかる。
――フェヴィルにはカウンター攻撃は通用しない。私にはこれがはっきりとわかっていた。とにかく、フェヴィルは攻撃にも防御にも隙が無いのだ。だから、待っていても勝機は訪れないと感じていた。それならば、積極的に手数を出すしかない。
お互いの模造剣がぶつかり、押し合う形で間合いを取る。
いつもの料理屋のフェヴィルは、明るく、笑顔が似合う男だが、今、目の前にいるフェヴィルは戦士の顔をしていた。背が高く、がっしりとした体形が更に拍車をかけている。
「ハッ!」「フッ!」「ハッ!」
私は、一気に間合いを詰め、斬撃、突き、斬撃と連続攻撃を繰り出す。
フェヴィルはその全てを完璧に流す。
そして、今度はフェヴィルが鋭い突きや斬撃繰り出して反撃してくる。
フェヴィルの反撃は1つ1つが重く、防ぐだけで精一杯だった。
攻撃で押していたと思えば、あっという間に押し返される。
その後も何度も攻めるが、完璧に防がれてしまう。
――何かないか。この状況を打破する一手が。
頭の中で必死に考える。
――よし。決めた。
私は、一気に間合いを詰める様に前進し、フェヴィルの左肩に斬撃を当てるように模造剣を振り上げる。
すかざす、フェヴィルは左上に模造剣を上げて、防御の構えを取った。
そして、それを見て私は、その振り上げた手を素早くねじり、右脇腹への斬撃へと変える。
私が絞り出した一手は、フェイント攻撃だった。
――よし、いける!
左下から、フェヴィルの右脇腹へ模造剣を素早く振り上げた。
パカンッ! シュッ!
ほぼ同時に2つの音が聞こえた。
1つ目の音。それは私が振り上げた模造剣を、フェヴィルが薙ぎ払い弾いた音。
2つ目の音。それは私の左首に寸止めされたフェヴィルの模造剣の音。
――勝敗は一瞬で決した。
「そこまで! 勝者フェヴィル!」
ガランが叫び、団員達から歓声と拍手が起こる。
負けた。
完敗だ。
「フェイントとはなかなか良い作戦だったが、それだけじゃ、まだ俺には勝てないぞ」
フェヴィルは笑いながら私の肩をポンポンと叩く。
「完敗でした」
私も笑いながら返す。
あの日、王宮の武道大会で見たフェヴィルも凄かったが、今のフェヴィルも全く腕は落ちていない。
負けた事は悔しいが、相手のフェヴィルは剣の名手なのだ。
そんなフェヴィルと試合ができた事は、今後の私にとって大きな収穫だと思う。
その後、3位決定戦をガランとディルシーで行い、ガランが3位、ディルシーは4位という結果になった。
これで、来月の班別対抗武道大会に出る4人の順位が確定した。大会は団体戦と、個人戦があり、団体戦には、班長も出場する決まりなので、この4人とギース班長を入れた5人がこの班の代表になる。
後は、私のイルガード入団が正式に許可され次第、代表者をエントリーするとのことだった。
剣の稽古を終えて、団員達が帰り始める。
私とフェヴィルも帰り支度をして、夜の営業の準備が待つ、料理屋へと帰路についた。
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