勇者ハンターにごようじん

ちびまるフォイ

フルパワー勇者 vs フルパワー魔物

「はぁ……今日も客はゼロか……」


さびれた村の宿屋のカウンターで1日中座っているだけの簡単な仕事。

でも給料はなし。


だって誰も泊まりに来ない。


「いまどきの勇者は転生時にチートやら特殊能力あるからねぇ。

 昔みたいにボロボロになって旅を続ける人もいない。

 宿屋なんて今のご時世もうからないよ」


と、鍛冶屋の店主は言っていたっけ。

それでもほかに仕事もないのでダンジョンにもぐってチラシを配ることに。


「誰かいませんかーー。この近くの村でやってる宿屋でーーす。

 宿屋に泊まれば全回復。安心して旅が続けられますよ――」


諦めながらダンジョンをうろつく。

最近じゃ勇者がレベル上げに根こそぎ狩るものだから魔物もいない。

ますます宿屋は客が来なくなるばかり。


「……ん? 血……?」


ふと、足元を見ると血がてんてんと続いているのが見えた。

近くに落ちていた剣を拾って血をたどっていく。


血痕の源には勇者が倒れていた。

装備を見る限りかけだしの勇者だろう。もう息がない。


「おい! こっちだ!!」


そのとき、ダンジョンの奥から声が聞こえる。

逃げようにも足がすくんで動かない。


ダンジョンの奥からやって来たのは武装した集団だった。

もしかして、この勇者の仲間だろうか。


「おい、お前。その剣……」


「あ、あのっ……ちが……ちがうんです……僕は殺して……」


「お前がやったのか!」


どうして剣を持ってきてしまったのか。

後悔しても遅く、この状況を見る限りどう見ても俺が倒したようにしか見えない。


「ちがっ――」


「「「 よくやった!! 」」」



「……え?」


「なんだ、お前も勇者ハンターのようだな。同業者なら先にそう言え。

 一瞬、勇者の仲間かと思ってひやひやしたぞ。

 その武装を見る限り勇者一行じゃないとわかったがな」


「勇者……ハンター……?」


「最近じゃ勇者は魔物を殺し続けて商売あがったりだからな。

 裏では勇者に懸賞金がかけられてるほどさ。

 そいつは最近俺らが狙っていた勇者で手を焼いていたんだ」


勇者ハンターたちは、倒れている勇者を顎でしゃくった。


「懸賞金はギルドの裏入り口から入ればもらえるぜ。またな」


勇者ハンターたちが去っていった後も、頭の中は真っ白だった。

後日、裏ギルドより渡された報酬金額を見て俺は心を決めた。


「よし……これからはこれで生計を立てよう」


昼は宿屋の店主。

夜は勇者ハンターの二重生活が始まった。



<勇者ハンターの鉄則>

1、けして勇者に真正面から挑んではならない。



「うぎゃああああ!!」


「ふん、盗賊ごときか。我々勇者に襲い掛かるなど片腹痛い」


目の前で別の勇者ハンターが返り討ちにあっていた。


「こ、怖ぇぇぇ……」




<勇者ハンターの鉄則>

2、装備は限りなく軽くせよ。



「いたぞ! あの装備は間違いない! 勇者だ!!!」


ダンジョンにいた重装備の勇者ハンターが勇者と誤解され、

勇者ハンターが勇者ハンターに狩られていた。


勇者狩りの成功率を高めるためとはいえ、これじゃ元も子もない。




<勇者ハンターの鉄則>

3、1番乗りできなければ諦める。



とある勇者ハンターが勇者を狩り終えたハンターを襲っていた。


「てめぇ! 手柄を横取りする気か!!」

「うるせぇ! 生き残ったやつが真実なんだよ!!」


お互いにお互いを傷つけあって多数の死傷者をだした。

横取りして得られる報酬よりも、これじゃ損害の方が多い。


「き、気を付けなくちゃな……」




以上、勇者ハンターを続けていくにあたっての俺が気付いた3ヶ条だった。


俺はこれを日々守って確実に勇者を狩っては生計を立てていた。



「聞いたか? また勇者が全滅したんだってよ」

「このあたりのダンジョンは危険なのかな」

「宿屋で回復して万全の状態で挑もうぜ」


勇者ハンターの影響はぐんぐんと不安感をあおって、宿屋の売り上げは大きく伸びた。


「またのご利用、お待ちしております」


さびれていた村は勇者が武器や防具を買いに訪れて活気を取り戻した。

まさに順風満帆。

これがひとえに勇者ハンターである俺の活躍あってこそだと気付く人は誰もいない。


「おい、あんた」


「いらっしゃいませ。4名様で宿泊ですか?」


「ちがう。俺たちは宿泊客じゃない。勇者ハンターのあんたと話をしに来た」


誰もいないはずだった。



――最初に出会った勇者ハンターたち以外には。



「最近、ダンジョンで勇者を倒してるみたいじゃねぇか」


「な、なんのことかさっぱり……」


「あんたは個人でハンターしているからわからないかもしれないがな。

 こっちは組織で動いているんだ。勝手なことをされちゃ困るんだよ」


言いたいことはすぐにわかった。


"ここらのダンジョンは俺らのテリトリーだから手を引け"

そう言いたいんだろう。


「もし……もし、僕が勇者ハンターだとして……もし断ったら……?」


「宿屋の店主でも回復しきれないほどの重症になるだけだ。

 もちろん、二度と勇者ハンターはできなくなるだろうな」


「…………」


「で、どうする? 二択から選べ。

 1:俺たちに協力する。

 2:俺たちに全力で協力する」



「……わかりました」


「よし。それじゃ、ここら辺の勇者情報を教えな。

 宿屋の店主ともなれば、どんな勇者がどこのダンジョンに挑戦するのか。

 それくらいの情報はつかんでるんだろう?」


なにもかもお見通しか。

俺が勇者ハンターとして成り上がれたのも、

勇者のダンジョン情報を把握できる宿屋の店主だからこそだった。


「……北の洞窟に、王族直属の勇者騎士団がドラゴン退治に向かうそうです。泊りにも来ました」


「ヒュウ♪ 上玉じゃねぇか。ドラゴンとの戦闘後ともなれば瀕死だろう。

 いくら強い騎士団とはいえ、確実に狩れるぜ。ありがとな!」


勇者ハンターたちは高笑いしながら去っていった。

でも、彼らはまだ考えもしなかっただろう。


ドラゴンがいるという情報源の正しさを。




その夜、勇者ハンターの準備を整えてダンジョンに向かった。

ダンジョンの奥からは悲鳴が聞こえてきた。


「ぐあああああ!!」


覗いてみると、ちょうど勇者一行がハンターを返り討ちにしていた。


「まったく、ドラゴンがいるという情報を宿屋の店主から聞いてみれば

 いたのはドラゴンではなく夜盗だとはな」


勇者が去ったのを確認して、ハンターたちの様子を見に行く。

まだ1人だけ息があった。


「て、てめぇ……ドラゴンがいる……なんて……うそか……最初から……」


「ああ、最初から同業者の君たちを排除するために嘘を教えたんだ。

 全回復している勇者一行を相手取るなんて、あんたらはアホだな」



<勇者ハンターの鉄則>

1、けして勇者に真正面から挑んではならない。



集団で行動しているこいつらは気が大きくなっていたんだろう。

俺だったらこんなヘマはしない。


「お疲れさま、二流ハンターさん。

 ここら辺のダンジョンは俺のテリトリーだ。わかったな……ってもう死んでるか」


俺もダンジョンを出ようと立ち上がった時、ギラリと光る瞳に背筋が凍った。

恐る恐る振り返ると、そこにはバカでかいドラゴンが鎮座していた。


「キサマ、どうやって我がここにいると知った?」


ドラゴンは口に火を溜めている。

勇者でもない俺がかなう相手ではなかった。


「ほ、ほんとうにドラゴンがいたのか……!?」


「まぁいい。ここで死ね、ニンゲン」


ドラゴンが口を開いた。

俺はせめて安らかな死が迎えられるようにと目をつむって祈った。




「大丈夫か!!」


その声に目を開けると、勇者が身をていしてかばっていた。

他の仲間はドラゴンと必死に戦っている。


ドラゴンの撃退に成功したころになって、自分が勇者に救われたことを理解できた。


「あ、ありがとうございます……俺……」


「どうして宿屋の店主がこんなダンジョンの奥にいるんだ?」


「それは……」


勇者ハンターだから、とは言えなかった。

でも、自分を守ってくれた人達を俺は狩ろうとしていた。


宿屋をもっと繁盛させるために。


「助けてくれてありがとうございます。おかげで目が覚めました!」


「? まぁ、なんにせよ大丈夫そうでよかったよ」


勇者ハンターの卒業を決めた。

俺はこれからは宿屋いっぽんで進んでいこう。


堅く心に誓って俺はダンジョンを後にした。


「知ってるか? ここら辺のダンジョンは魔物が強いんだってよ」

「フルパワーで襲ってくるんだもんな。恐ろしいよ」

「しっかり宿屋で休んで万全の態勢で挑もうぜ」


「毎度、ありがとうございます」


それからしばらくして、宿屋の客足は増え続けた。

勇者ハンターはもう辞めた。


これからは宿屋いっぽんだ。


「よし、日も落ちたな」


夜になると宿屋を出てダンジョンへと向かう。



今度はダンジョンにある宿屋のカウンターに立つ。

すると、ぼろぼろになった魔物たちが列をなしてやってきた。


「やれやれ……最近、勇者のやつらやけに多くね?」

「毎回フルパワーで襲てくるんだもん。やってられないよ」

「死なないように魔物宿屋でしっかり休んで明日に備えよう」


「毎度、ありがとうございまーーす」


俺は魔物たちの体力を回復した。



もう完全に勇者ハンターはやめた。


だって、もっと確実な商売が見つかったのだから……。

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