第7話
第七章〔新しい物語の始まり〕
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!お兄ちゃん!ってば!もうお昼過ぎだよ。」
妹のカワイイ声で目が覚めた。
「ん~?、もう少し寝かせてくれよ~」
俺は、昨日の会えなかった絶望感と疲労で、ぐったりしていた。
「んも~、だらしないなぁ、明菜ちゃんが遊びに来てるんだから、ちゃんとしてよ。」
「へ~、明菜ちゃん来てるんだ。」
「それにね、それにね。」
なんだか妹が嬉しそうだ。
「なんだよ、やけに嬉しそうだな。」
「えへへ、今日は明菜ちゃんのお姉さんも来てるんだ。」
妹がニコニコしながら言った。
「そ~いえば、2コ上のお姉さんが居るって、言ってたっけ?」
「うん、今年大学生になったみたい。綺麗なんだよ~。今、夏休みだから、帰って来てるんだって。」
「へ~、そんなに綺麗なんだ。挨拶してこうかな。」
俺は、冗談混じりに言ってみた。
「アハハ、ムリムリ。お兄ちゃんとじゃ、月とスッポン。美女と野獣だよ~」
相変わらず、カワイイ顔して、言うことはキツイ。
「それにね、詩織さんには好きな人が居るんだって、年下のカワイイ男の子。」
「ふ~ん、詩織さんて言うんだ。
でも大丈夫、俺にだって、好きな人ぐらい居るんだよ、
いくら可愛くても、俺より年下だろ?
年下はお前だけで十分だ。
それに、俺の好きなのは年上のカワイイお姉さんだから。
昨日だって会いに…」
俺は少し言葉を濁した。
「知ってるよ、去年の昨日、海で会った泣き虫のお姉さんでしょ。
それで、昨日、会いに行ったけど、会えなかったと。」
「お、お前、なぜそれを?!」
「わかるよ~、それぐらい、
だって、お兄ちゃん、昨日死にそうな顔して帰って来たし、
頼んでもいないのに、タイヤキいっぱい買って来てたし。」
「お前は名探偵か。」
俺は、妹の頭にこぶしをコツンと当て、思わずツッコンだ。
「エヘッ」
妹は舌を出して、はにかむ。
「きっと、海の神様が、彼女の居ないお兄ちゃんを、可哀相と思って、幻を見せたんだよ。」
「幻?」
「そう、そう、幻、幻…
あ~あ、こんなボロボロのお兄ちゃんより、詩織さんみたいに、ステキなお姉さんが欲しかったなぁ~」
妹が遠い目をして言う。
「こら、ボロボロ言うな!」
「ウソ、ウソ、冗談よ。お兄ちゃん大好き!」
「お、おう。」
俺は少し照れながら、答えた。
「とにかく、外見だけはキチンとしてね。
中身は、どうしようもないんだから。」
ウインクして、はしゃぎながら、妹は自分の部屋に入っていった。
「まったく、どこまでが冗談なんだか…」
とりあえず、俺は顔を洗いに一階の洗面所に向かった。
行く途中、妹の部屋の前を通ると、中から「キャッ、キャッ」と楽しそうな声がいくつも聞こえる。
これが女子会というものか。
俺は納得しながら、階段を下りていった。
洗面所で顔を洗い、自分の部屋に帰ろうとすると、トイレから見知らぬ女性が出て来た。
「あ、この人が明菜ちゃんのお姉さんか。」
一瞬、目が合ったが、すぐに反らし、
「あ、ども。」
愛想なく、横を通り過ぎようとした。
その瞬間、
「あ~~~~~~っ!!!」
彼女が悲鳴ともとれる、とんでもない声を発した。
ビクッとして、俺は彼女の方を振り向いた。
そのただならぬ声に、妹達が部屋から飛び出して来た。
「何?何?どうしたの?」
「どうしたの?お姉ちゃん?」
明菜ちゃんもビックリしてるようだ。
しかし彼女は妹達に気付いた様子もなく、俺を指差し、
「あ、あなた、海の、オートバイの、タイヤキの…」
「え?」
俺の中で、その3つの単語がすぐに繋がった。
「あ~~~~~~~~っ!!!!」
今度は俺が、とんでもない声を出した。
今度は妹達がビクッとした。
何がなんだか、わからない様子だ。
俺がすぐにわからなかったのもムリもない。
彼女と海で会った時は、大人びたオシャレな衣装にバッチリメイク、
しかも夕暮れ。
しかし今日は、普段のカジュアルな服装にナチュラルメイク。
どうみても若く見える。
俺がポカ~ンとしてると、
「なんで、あなたがこんな所に居るの?」
「い、いや、ここ俺の家だし…」
今度は、彼女がポカ~ンとする。
すると、すべてを察知した妹が、
「あ~、もしかして、詩織さんが、お兄ちゃんの言ってた「泣き虫で年上のお姉さん?」
詩織さんは、一瞬、妹を見て、すぐ俺の方を向き
「泣いてなんかない!」
顔は真っ赤になってる。
今度は明菜ちゃんが、
「それじゃ、お兄さんが、お姉ちゃんの言ってた、オドオドした年下の生意気な彼?」
「オドオド~?年下~?」
今度は俺が、詩織さんを見た。
「だって、オドオドしてたし。」
「あ、あれは詩織さんが怒鳴ったから…」
「ど、怒鳴ってなんかないよ~、ちょっと注意しただけ。ナンパかと思って…
そんな事より、昨日、あの場所に行ったんだよ。
会え…、ハンカチ返そうと思って…」
「えっ?、俺も昨日行ったよ、あの夕日見た場所でしょ?
詩織さん居なかったじゃん。」
「ウッソ~!私、夕日が沈むまで待ってたんだから。」
「お、俺はちょっと遅くなって、夕日は沈んでたけど…、タイヤキ屋が混んでて…」
「え~!タイヤキ並んでて遅くなったの?!
私とタイヤキ、どっちが大切なのよ。」
たじろぐ俺を尻目に、妹が
「二人の会話って、まるで恋人どうしみたい。」
それを聞いた、俺と詩織さんは同時に、
「恋人じゃない!」
「まだ、恋人じゃない!」
「え?「まだ」?」
俺は詩織さんの方を見た、
微妙にセリフが違ってたのである。
詩織さんは、自分の言ったセリフに気付いて、真っ赤になっていた。
「そ、そんな事より、年上って何よ!私、そんなに老けてないよ。」
話をそらした。
「い、いやだって、化粧してたし、服もオシャレだったし、なにより暗かったし……綺麗だった…し…」
「え~、じゃあ今は綺麗じゃないって事?」
「い、いや、今も綺麗だし…」
俺も真っ赤になっていた。
「まあ、まあ、痴話喧嘩はそれぐらいにして。」
妹がニコニコしながら、口を挟む。
それを聞いた俺と詩織さんは、
「痴話喧嘩じゃない!」
「痴話喧嘩じゃない!」
今度はハモった。
すると、明菜ちゃんが。
「息、ピッタリ~」
俺と詩織さんは顔を見合わせ、お互い真っ赤になった。
「それじゃあさ、お兄ちゃんと詩織さんの再会を、お祝いして、これからタイヤキパーティーしよ。」
「しよ、しよ。」
明菜ちゃんも、ノリノリだ。
「いいよね、詩織さん。いや、詩織お姉ちゃん。」
甘えたような声で、妹が言った。
「わ、私は別に、あなたがいいなら…」
上目遣いで、俺の方を見る。
「お、俺は別にいいけど…」
「じゃあ、決まり。と、いうこで、お兄ちゃんタイヤキお願いね。」
でた、妹のウインク攻撃。
「はいはい、わかりました。」
俺は嫌々そうに答えた。
が、その時、昨日タイヤキを買って来た事を思い出した。
「ん?ちょっと待て、昨日、タイヤキ買って来たはずだが。」
チラッと妹の方を見る。
「もう、ないよ~、みんなで食べちゃった。」
「ね~」
「ね~」
「ね~」
3人、顔を合わせて微笑む。
「と、いうわけで、よろしくね、お兄ちゃん。」
妹の言葉に合わせるかのように、ほかの二人も
「よろしくね、お兄さん。」
3人同時にウインク攻撃。
思わず顔が、にやける。
カワイイ妹が3人になったようだ。
「わかったよ。買って来てやるよ。」
俺は喜びを悟られないように、ぶっきらぼうに返事をした。
急いで、オートバイに乗り、タイヤキ屋に向かった。
いつもは重い感じのオートバイの音が、今日はなんだか軽やかに聞こえる。
俺は、彼女がタイヤキを食べる笑顔を思い浮かべながら、アクセルを開けた。
恋の神様は、意地悪だ。
恋する二人に試練を与える。
しかし、時には思いもよらないプレゼントをしてくれる。
まるで、二人の恋を応援するかのように…
去年の夏に始まった、二人の物語は、新たなステージに突入した。
今度はお互いの家族を巻き込んで、新しい物語が始まりそうだ。
おわり
夏の終わりの物語 じんべい @invoke
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