プロジェクション・マジック
悶太
1
溜息を吐く度に、申し訳程度に残った前髪が揺れる。
白髪こそ生える事は無かったが、どうやら神の恵みも髪の恵みも無いまま俺は年を取ったんだなぁと改めて思う。
無機質で小綺麗な教室、無駄に広く生徒を見渡せる教壇。
自分が子供の頃とは違う学び舎は、懐かしいとも何とも思わない。
生活の為にここに立っているだけ。
生徒に教養や、モラルを教えよう等と微塵も思っていない。
そもそも俺、職業訓練指導員だし。
気を取り直して、教材の内容が映し出された画面に向き直る。
巨大なタッチパネル式の黒板を、何度も右手でスライドしようとするが、画面が切り替わらない。
軽く舌打ちをすると、指紋拭き取り用の黒板消しで軽く画面を撫でる。
反応を改めて確かめると、ページが切り替わったので胸を撫で下ろすと、生徒に向き直った。
生徒数、七人。
少子化が進んだのもあるのだろうが、これでも多い方だ。
学歴社会から解き放たれた時代とはいえ、専門校の生徒数がこれでは、昔アホみたいに建てまくった校舎は、更地か、パチンコ屋になっている事が多い。
これっぽっちも学習する素振りを見せない生徒達に再び溜息を吐くと、俺はレーザーポインターで黒板に表示された教材を指す。
「それじゃあ、ここを見て」
2040年、夏。
俺は58になり、頭はハゲ散らかし、授業を聞くどころか、コミュニケーション能力が欠落した糞ガキ共相手を生業にする今を生きていた。
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