2 15という数字

 長野駅に降り立つと五月なのに涼しい風が流れていた。夜は肌寒いに違いない。

 改札近くまで行くと、爺さんの指示書通り、出迎えの奴がいた。

「はじめまして、知一郎様」

 挨拶の言葉を発したのは、人間でなくて猫だった。


「どうやらこのあたりでは、猫が案内人を務めるようだな」

 俺は、上手に二本足で立っているキジトラ猫を見ながら言った。

「ハイ、こういう場合、猫が案内したほうがなにかと便利なので。お爺様には父の代から、たいへんご厄介になりました」

「ふん、爺さんの顔が広いことは知っていたが、猫にまで知り合いがいたとは驚きだ。ともかくガイドがいるに越したことはない。道中、世話になるぞ。ところで猫よ、名前はなんと言う」

「ハイ、味之助あじのすけと申します」

「けったいな名前だが、まあよい。行くぞ、味之助」


 改札口を出ようとすると、味之助が言った。

「ちょっと切符を拝見」

 味之助のもふもふした手の上に切符を乗せてやると、

「ふうむ」と言ったきり、黙ってしまった。


「何かおかしなところでもあるのか?」

「これはひょっとすると来てますな」

「なにが」

「これをご覧下さい」

 味之助は切符を俺に見せながら言った。

「座席が15号車15番Aです」

「それがどうかしたか。爺さんの言いつけにそむいてグランクラスに乗ったのがまずかったか?」

「グランクラスですと!?」

「ああ。グリーン車よりハイグレードな席だわ。飛行機の座席シートのようだった」


 俺の言葉を聞くと、味之助は目をぐるぐるさせて、こう言った。

「北陸新幹線のグランクラス車両は12号車固定です!そしてグランクラスの席は1両に6列しかないんですよ!15番なんてあるはずがない」

「なんだと!」

 確かに座席は6列しか無かった。

 だが、一番端の俺の席には、まぎれもなく15番の座席表示が記されていた。

 よく考えれば、6列しかない車両に15番の席があるはずがない。

 何の疑問もなく座っていた俺はただの阿呆である。油断どころの話ではない。

「これは一波乱ありそうです」

 味之助の細い瞳が鋭く光った。

「15という数字には、くれぐれもお気をつけください。15は不吉な数字ですから」


 どうやら俺の道中を邪魔しようとする奴がいるらしい。

 爺さんの話によると、今までもいろんな奴が、呪法力を狙いにやってきたという。似たような輩がどうやら潜んでいるらしい。


 爺さんは、敵から身を守るための呪術をいくつか教えてくれた。しかし、なにをやっても適当な俺のこと、結局、爺さん直伝の呪術はすべて半端な完成度をもって俺の中にある。まあいざとなったら逃げ足だけは速いから、ラスボス級の魔女みたいのが現れない限り、なんとかなるだろう。

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