ほめるということ

高津戸ながめ

こどもの頃は何をほめられました?


  子供のころ真っ白い紙に色とりどりのクレヨンで

 ぐるぐるグシャグシャな、なんだかわからない

 奇天烈で抽象的な絵かいていました。


  それを見ると大人たちは、

  「すごく上手にかけているわね」

  「皆より美味いわね」


  と手ばなしでほめてもらえるのがうれしいくて

 又ドンドン書きました。

 必ず誰かがほめるので

 『自分は本当に絵が描くのが美味いのだ!』

 と思っていました。


  おかげでいつも絵を描いていました。

 学年が上がるにつれて

  『誰よりも美味い絵が描ける!

 これだけは誰よりも優れている!』

 と思うようなり

 ますます絵を描くようになりました。


  進路を決める年齢になると

 勉強もイマイチで他のことでパッとするものもなく

 皆がほめてくれる絵の道に進むしかないと思い

 美術学校へ進路を決めてしまいました。


 就職も絵方面の就職しか考えたこともなく

 そのまま絵=デザインの方へ就職を決めました。

  『それしか私に出来る仕事は、ないんだ』と思っていました。


 この世界なら何とかやっていけるはずと……


  しかし、内心では自分のレベルが何となくわかっていました。

 所詮普通の人より少し美味い程度です。

 なにか賞をとったことがあるでもなく、有名大学を出たわけでもなく

 本職の世界に入っていくと自分の低レベル差が身にしみます。


  『でも才能は努力で変わる!』


 と思い寝る間も惜しんでガンガン飛ばして頑張りに頑張ってきました。

 おかげでそれなりの給料も仕事ももらえるようになりましたが

 やはり自分の才能のなさをいつも感じていました。


 なんでこんなものしか作れないんだろう・・」

  「他の人がやったらもっといいものを作るはずなのに・・」


  私なんて日本にいる何百万人ものデザイナーのほんの一部です。

 ちょっとでもつまずいたら自分の居場所がなくなってしまいます。

 どんなにがんばっても上がらない自分の限界を自覚してしまいます。

 せっかくここまで頑張ってきたのに

 なくしたくないのです……。


  でも、そんな無理は続きませんでした。

 無茶な仕事の量を1人でこなし続けた、ある日

 仕事中に突然涙が出て来ました。

 最初は自分で泣いているのに気が付かず

 『目がなんだか見づらいな』と思い目蓋に手で触れると

 ぬれていました。

 段々涙の量が多くなって

 最後には息も出来ないほどの号泣に……

 自分では止められませんでした。

 そんなことが毎日つづいて

 これはおかしいと思い病院にいったら

 うつ病と診断されました。


  結局仕事をやめ私がボーとしている間に

 心配した両親が保育園でちょっとしたアルバイトを見つけてきました。


  いやいや行き始めた保育園でしたが

 保育士さんや子供達の暖かい気持ちに心をいやされました。

 その保育園で最近気づきはじめました。


  「」ということを。


  保育士がやはり私の子供ころと同じく

 なんだかわからない子供の絵を手放しでほめています。

 どの子も同じくらいのぐちゃぐちゃの絵をかいて

 うまい子にもそうでない子にも

 「やっぱり○○ちゃんは美味いわね」

 と、どの子にもほめているのです。

 たとえ美味くなくても大人は、おせいじでほめるのです……


 愕然としました。


  自分と照らし合わせて見て・・・・

 ただ、ほめられたのがうれしくて

 絵をかき続けてきましたが

 大人達は、適当にほめただけで

 絵については、なんとも思っていなかったのです。


  「褒められた」=「自分は凄い」


 と思っていたことは

 作られた偽者でした。

 ちょっと考えれば解ることでした……


 子供は、ほめるとうれしくなります。

 どんなことでもほめられるとうれしいのです。


 「」という先でなにを選ぶかは

 確かにその人の選択の自由で

 どう生きるかもその人の自由です。

 ただ、私はその「ほめる」ということをちょっとオーバーにとり過ぎて

 ちょっとやりすぎてしまったのかもしれません。


 でも「ほめる」ということの意味を大人はちょっと考えほしいと思います。

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ほめるということ 高津戸ながめ @takatudo_nagame

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