乙女の海上護衛戦記

第四章 束の間の休息

夜明け 一一月一三日（航海九日目） 〇八三〇時

　リチャード・アーサー少佐はラッタルを駆けあがり、上空を仰ぎ見ると思わず目を細くした。薄暗い照明しかない艦内から外に出た後では、冬の曇り空であっても朝日が眩しく感じられる。徹夜明けとなれば尚更だ。

　駆逐艦〈リヴィングストン〉の羅針艦橋に到達した彼は、あくびを噛み殺すと周囲に視線を巡らせた。

　艦内は通常の勤務体制に復しているため、この場にいるのは一〇名ほどであった。一見する限り、その様子は昨日の同じ時間帯とそう変わりない。リチャードは座席にすわる上官の姿を確認すると、ゆっくりとした足取りで彼女のもとへ向かっていった。

「おはようございます、艦長」

　リチャードは敬礼しながらそう言うと、いつものように腰の書類ケースへ手を伸ばした。「巡回報告書をお持ちしました。確認をお願いいたします」

　ホレイシア・ヒース中佐は無言で頷くと書類を受け取り、朝の艦内巡回の結果を確かめはじめる。ページを数枚めくると、彼女は手を止めてぽつりと呟いた。

「爆雷は残り三六発、少ないわね」

「全力投射四回分と少し。これを使い切れば、我が艦は敵潜水艦に対してほぼ何もできなくなります」

　上官の言葉に、リチャードは表情を曇らせながら頷いた。

　昨日の昼に行われた最初の襲撃以降も、帝国軍によるＮＡ一七船団への攻勢は続いていった。そのため第一〇一護衛戦隊の各艦は、物心の両面で多大な消耗を強いられてしまっている。爆雷も、〈リヴィングストン〉は定数いっぱいの一一〇を搭載していたのが現在ではその三割ほどにまで搭載数を減らしていた。他の艦艇からも、同様の報告があがっている。

　ホレイシアは目を閉じ、左手の指でしばらく揉んだあと溜息をついて言った。

「次からは、一回あたりの投射数を抑えなきゃいけないわね。僚艦にもそう伝えておくわ」

　ホレイシアはそれから更にページをめくり、リチャードへいくつか質問をした。乗組員の体調や燃料の残り具合など、その内容は多岐にわたる。ひと通り話を聞き終えると、彼女は報告書の末尾に署名をしたためた。

　ホレイシアは署名を終え、報告書を手渡しながらリチャードに言った。

「副長、三時間ほど休んできなさい。昨夜は徹夜だったし、少しは寝ておきたいでしょ」

「艦長はよろしいのですか？」

　リチャードが不安げな声で応じると、ホレイシアは疲労の溜まった顔で笑いながら答えた。

「夜明け前にシャワーと朝食は済ませたから、私はまだ大丈夫よ」

「……分かりました。では、お言葉に甘えさせていただきます」

　リチャードはそう答えると、失礼しますと言ってホレイシアに敬礼した。上官の返礼を見て踵を返した彼は、ラッタルのほうへ歩き出す前に再び周囲へ視線を向ける。

　艦橋要員の配置は既に述べたとおり、昨日の朝と同様だ。だが、個々の将兵が漂わせる雰囲気は大きな変化を見せている。

　乗組員は階級や年齢の上下に関係なく、みな一様に憔悴しきっていた。与えられた任務をまじめにこなしてはいるが、瞳はよどみ表情は暗い。どことなく、はき出している吐息もいつもより荒いように感じられる。一週間を越える長い航海の疲れが出ているのかもしれないが、多少は余裕があるように見えた前日と比べるとその落差があまりにも大きすぎた。

「無理もないな」

　自身も表情に疲労感をにじませて、リチャードはそう小さく呟いた。彼女たちはほぼ一晩に渡った激戦を経て、身も心もボロボロになっているのだ。

　リチャードは昨日の出来事を思い出しながら、艦橋を後にすべくラッタルのほうへと歩いて行った。

　第一〇一護衛戦隊の各艦がレーダー上に不審な反応を認めたのは、ＮＡ一七船団に対する最初の襲撃が終わってすぐの一四五〇時のことである。右舷側から一〇機ほどの航空機が接近しており、ホレイシアは戦隊全艦と船団本隊に対して警報を発した。極北地帯のため、既に太陽は水平線の向こうに沈もうとしていた。

　反応の正体が判明したのは、目視が可能になった二〇分後のことであった。低空を高速で進む機体は『コンドル』と呼ばれる帝国軍の四発爆撃機であり、その数は総勢一五機。発見直後に二手に分かれ船団へと向かう敵機に対し、戦隊の各艦はまず主砲による対空射撃を開始する。敵編隊は弾幕の中をひるむことなく進んでいった。

　船団司令官は回避運動の実施を指示し、各船舶はすぐさま増速しつつ任意の方向に舵をきった。主砲だけでなく機関砲――護衛艦艇だけでなく、商船にも自衛のため搭載されている――も火を噴かせながら、陣形を解いたフネが蜘蛛の子を散らす如くバラバラに動く。敵機はすれ違いざまに続々と爆弾を放り投げるが、幸いなことにこれらが船団に被害を与えることはなかった。

　爆撃機の群れは投弾を終えるとすぐに退散し、戦闘は対空射撃の開始から一五分ほどで終了した。長時間の対峙を強いられる対潜戦闘とは、まったく様相が異なる戦いである。

　船団は一五四〇時ごろから再集結を開始し、隊列を組み直しつつ航海を再開した。

　日没が近いこともあって、空襲はこの一度だけであった。だが、それは船団が危地を脱したことを意味するわけではない。

　日没後の一九一四時、左翼を警戒するコルベット〈ガーリー〉が突如として「敵潜水艦発見」を報じた。既に魚雷は発射された後であり、商船一隻が被雷して船団はパニック状態に陥ってしまう。

　前触れなしの奇襲を成し遂げた敵艦に対し、ホレイシアは左翼に展開する〈ガーリー〉と駆逐艦〈レスリー〉へ迎撃を命じる。だが直後に正面からも二隻の潜水艦が来襲し、第一〇一戦隊は全艦艇を投じることを余儀なくされた。

　途中で入れ替わりつつ、最終的には延べ六隻の潜水艦が船団に牙を向けて襲い掛かった。〈リヴィングストン〉他の艦艇は奮闘したが果たせず、確認できたものだけでも一〇回の雷撃を敵に許してしまう。周囲から敵が姿を消したのは、日付をまたいだ〇二〇〇時のことである。実に七時間にも及ぶ長期戦であった。

　この襲撃によりＮＡ一七船団は七隻の商船を喪失し、昼と合わせて計一〇隻の損害を被った。同盟国へ引き渡されるはずだった各種の物資が失われ、またそれぞれのフネに乗る船員たちも、少なくない数が救助されず命を落としている。対して第一〇一戦隊は二隻の潜水艦を撃沈したが（そのうち一隻は〈リヴィングストン〉によるもの）、大きな被害の前にして素直に喜べるものではない。

　また船団本隊だけでなく、護衛側も駆逐艦〈レスリー〉に魚雷が命中するという被害を受けた。不良品であったのか幸い爆発することはなく、死者も皆無だったが一〇名ほどの負傷者が発生。そのうえ浸水によって〈レスリー〉の船体は前方に大きく傾き、発揮可能な速力も一二ノットにまで低下してしまった。

　その後、船団は暗闇の中で航海を続けたが、戦闘によって植えつけられた恐怖と緊張感は参加する者の心に悪影響をもたらした。小さな波や僚艦の影を敵と誤認する事態が度々発生したのだ。ようやく戦闘配置が解除され、ホレイシアが一息つこうと艦長室に向かったとき、時計の針は〇五〇〇時を指していた。

　羅針艦橋を後にしたリチャードだが、その二層下にある自室へすぐには入らなかった。仮眠をとる前に一服でもしようと、更にラッタルを降りて士官室へと足を運んでいく。

　士官室は艦橋構造物の真下に設けられた一室である。士官同士の打ち合わせや食事、あるいは非番中の休息などに用いられるレクリエーションルームだ。特に個室を与えられず、三段ベッドとロッカーしかない狭いスペースに押し込められて寝起きする少尉たちにとっては貴重な憩いの場となっている。

　リチャードが入室したとき、そこを利用しているのは一人だけであった。昨夜の戦闘による疲労で、非番の者はみな自室で眠っているのだろう。彼はコートを脱いで備え付けのハンガーにかけると、テーブルで読書を楽しんでいるその士官のもとに歩いていった。

「大尉、失礼するよ」

　士官は手にした本から視線を逸らし、リチャードのほうをみた。

「あ、はい。どうぞ」

　その士官――対潜長のフレデリカ・パークス大尉はにこやかな声で応じた。疲れが溜まっているのか、目の下が僅かに黒ずんでいるように見える。リチャードは彼女の向かい側にある椅子に腰を下ろすと、懐から煙草のパッケージを取り出した。

「紅茶を頼む、砂糖を多めで」士官室付きの従兵にそう注文すると、彼は煙草に火を着ける。「何を読んでいるんだ？」

　リチャードはパークス大尉に尋ねた。何度も繰り返し読んでいるのか、彼女の手にある本はページがよれよれで表紙も少し汚れている。

　上官が興味深げに眺めているのを見ると、パークス大尉は恥ずかしそうにはにかみながら本を閉じてタイトルを口にした。その名前はリチャードも聞き覚えがある。人間がまだ風だけを頼りに海を駆けていた時代、すなわち帆船の全盛期を題材にした海洋冒険小説であった。

「確か、一〇年くらい前に流行した作品だね」

「元々は、兄が子供の頃に買ったものです」パークス大尉は頷いた。「読ませてもらううちに私も虜になっちゃって、入隊したときに無理を言って貸してもらいました」

　おそらく幼い頃の記憶を噛みしめているのだろう、パークス大尉はどこか遠くを眺めるような目で答えた。

　そんな部下の様子を見たリチャードは、再び訪ねた。

「海軍に入ったのは、その本の世界に憧れてなのかい？」

「少なくとも、志願した理由の大部分を占めているのは確かです」

「なるほどね」

　リチャードは口許に微笑を浮かべ、咥えている煙草から煙を立ち上らせながらそう言った。純粋な憧れから人生の選択肢をえらんだ彼女に、かつて同様の気持ちで士官学校の門を叩いた自分のことを重ねている。

　その時、紅茶を淹れたカップを持って、従兵が彼に声をかけてきた。

　従兵がカップを置いて立ち去ると、煙草を灰皿に置いたリチャードはそれを両手で抱え上げた。熱々の紅茶に息を吹きかけてから口をつけ、その味をしばらく楽しむとパークス大尉に告げる。

「話は変わるが、艦長に爆雷の件を伝えておいた」

　パークス大尉が表情を固くして頷くと、リチャードは続けた。

「次からは――まあ次があるなんて考えたくもないが、一回あたりの投射数を抑えるよう心掛けるようにとのことだ。おそらく、後で改めて話があると思う」

「了解です。……ただ、爆雷の使用に制限があると、どうしても命中率に影響が出ますね」

　パークス大尉は顔をしかめさせながら、そう応じた。

　現在の対潜戦闘は敵がいるらしい地点を中心として、広い範囲に爆雷をばら撒くというかなり大雑把な手法が用いられている。捜索手段であるソナーの性能が不十分で、探知精度がそれほど高くないのが原因だ。一〇〇メートル前後のズレが生じることも珍しくないため、その誤差を爆雷の数でカバーするのである。対潜長が爆雷の制限に不安を感じるのは、当然のことであった。

　リチャードはカップを置いて言った。「そこは相手の動きを先読みして、より精度の高い攻撃を行うしかない。コックス兵曹に相談しておいたほうがいいだろうな」

「分かりました。そうします」

「頼むよ」

　パークス大尉が頷くと、煙草を口にしたリチャードは椅子の背もたれに体を預けた。

「ただし、くれぐれも敵艦の撃沈に固執しないように。損傷を与えて、行動に制約を与えるだけでも十分だ。それに無傷であっても、攻撃によって迂回を強要させて標的への接近を断念させることが出来る。船団の脅威を排除することが、あくまで我々の任務だということを忘れないでくれ」

　リチャードはそう言うと、短くなった煙草を灰皿に押し付けて再びカップを手に取った。

　それからの時間を、リチャードはパークス大尉との雑談に費やした。本の内容や、その持ち主である大尉の兄について尋ね――兵役で陸軍に入隊し、現在は本国の訓練部隊で教官の任についているそうだ――、大尉はそれに嬉しげな表情で答えている。戦闘や任務のことをしばし忘れて、二人は一〇分ほど会話を楽しんだ。

　リチャードが立ち上がったのは、新しく注文した二杯目の紅茶を飲み干した後であった。

「さて。少し寝ておきたいし、そろそろ部屋に戻るよ」

「はい、お疲れ様でした」

　しかし、彼がハンガーに手をかけたとき、その瞬間を見計らったかのように艦内で警報が鳴りだした。同時に『定期変針は中断、対空戦闘用意』のアナウンスもスピーカーから流れてくる。

　リチャードとパークス大尉はそれまでの和やかな雰囲気を振り払い、飛び上がるような勢いでそれぞれの部署へと駆け出していった。

　リチャードは防寒具を手にし、コートに袖を通しつつ間の悪さを罵りながらラッタルを駆け昇る。

　羅針艦橋に辿り着くと、そこでは既に多くの将兵たちが集まっていた。リチャードは水兵のひとりからヘルメットを受け取り、寒気に晒されながら身支度を整えるとすぐさま艦の状況を確認していった。

「艦長、戦闘準備終わりました」

　ホレイシアは副長の報告に頷くと、白い吐息をはきだしながら彼に現在の状況を説明しはじめた。

「レーダーに反応があったわ。今から四分前のことよ」ホレイシアは続けた。「西南西一〇〇キロの地点に、何機かいるみたいね。最初はあさっての方角に進んでいたけど、急に針路を変えてこっちに近づいてきているわ。戦隊各艦と船団には通報済みよ」

「つまり、こちらの存在には気づいている、ということですね」

　リチャードは冷え切った頬を手でこすりながら言うと、ホレイシアに尋ねた。

「高度はどれくらいですか？」

「おおよそ、二〇〇〇メートルだそうよ」

　上官の言葉を聞くと、リチャードは視線を上に向けた。薄暗い灰色がかった雲が、冬の空にほぼ万遍なくひろがっているのが見て取れる。その高さは報告にあった航空機のそれと、ほぼ同じであるようだ。

「レーダー室より。目標は四機編隊の模様。方位二一〇、距離七〇キロにあり」

　電話員の声が響くと、ホレイシアは会敵に備えた指示を出しはじめた。

「各艦は射撃準備のうえ待機。サリーにもそう伝えてちょうだい」

「分かりました」

「了解です」

　電話員たちは上官の命令に頷くと、各々が担当する部署に向けて指示を伝達していく。その声を聞きながら、リチャードは部下たちの様子を眺めてみた。

　昨日の空襲を思い出しているのだろう。艦橋に詰める将兵の表情はどれも固く、彼女たちの視線はその多くが上空に向けられていた。恐怖のあまり、今にも泣きだしそうな顔をしている水兵もいる。だが、持ち場を離れようとしたり、あるいは喚き散らしたりしている者は誰もいない。怖さをこらえて各々の仕事をこなしながら、敵機到来の時を待っていた。

　それからしばらくの間、羅針艦橋は沈黙に包まれた。波風と零度以下の低温に晒されている艦橋要員たちは、無言のまま待機する。聞こえてくるのはレーダー室がもたらした情報を伝える、電話員の声だけだ。そのような状況が、二分ほど続いていく。

「後部見張員より報告。機影を確認、数は四つ。八時方向、距離六〇キロ、高度二〇〇〇メートル」

　電話員の一人がそう伝えると、その場にいる者たちはハッと我に返った。〈リヴィングストン〉の艦尾にある、後部構造物に配置された見張員たちからの報告である。リチャードはすかさず双眼鏡を構え、ホレイシアもそれに続いた。

　一見すると、空には相変わらず分厚い雲以外の何物も存在しないように感じられた。リチャードはだが辛抱強く、報告のあった方角を観察する。すると豆粒――いや、それよりも小さな点のような模様が、時おり雲に隠れながらも見えているのが確認できた。

「目標は飛行艇らしい。高度を下げつつこちらに接近する模様」

　ようやく視認できたのか、リチャードが凝視していると艦橋の見張員がそう知らせてきた。すぐに後部見張員からも、同様の連絡がもたらされる。観察を続けたリチャードは、報告が正しいものだと判断した。機影はまだ遠くにあるが、よく見るとその胴体がフネのような形をしているのが見て取れる。水面での離着水を想定して設計される、飛行艇の典型的なレイアウトだ。

「見えてきたわね」

　ホレイシアが双眼鏡を構えたままそう言うと、リチャードは頷いた。

「そうですね。おそらく、帝国軍の偵察機だと思います」

　基本的に飛行艇という機種は、洋上偵察や遠方海域の哨戒・輸送といた長距離移動を伴う非戦闘任務に用いられる。空軍の大型爆撃機と同程度のものすらある機体容積は燃料の搭載量に余裕があり、一方でその形状から航空機としての性能にどうしても制約が生じるため――船型の胴体は空気抵抗が多くなり、速おや旋回能力に悪影響を与える――、積極的な交戦を必要とせずかつ長時間の滞空が求められる用途に投じられるのだ。（爆弾を搭載することはだいたい可能だが、爆撃は対潜戦闘や緊急時の自衛など限定された状況でしか行われない）

　だが、相手の様子にリチャードは違和感をかんじる。彼がその原因について考えを巡らせていると、見張員が再び報告する。

「目標、更に高度を下げつつ接近中」

「少し、様子がおかしいわね」

「と、言いますと？」

　リチャードが双眼鏡を下ろして尋ねると、ホレイシアは答えた。

「偵察が目的なら遠くから眺めるだけでいいのに、あの編隊は船団に近づいているわ。しかも、雲の中に隠れず高度を下げ続けている。なんだか、自分たちの存在を積極的にアピールしているように見えるわ」

「……確かにそうですね」

　上官の言葉に対し、リチャードは同意の声を漏らした。偵察機であるなら彼女が言った通りの行動をとるはずだし、それ以外の目的――例えば船団への攻撃を企図しているとしても相手の動きはセオリーを外している。対艦攻撃を実施するなら発見されぬよう、可能な限り低空を飛ぶはずだからだ。

「目標はなお接近中。距離五〇キロ、高度一二〇〇メートル」

　二人の内心に生じた疑問が解消されぬ中、レーダー室からの報告がまた艦橋にもたらされた。近づいてくる編隊を凝視し続けるホレイシアに倣って、リチャードも同じ方角に視線を向ける。彼我の距離はまだまだ離れているが、それでも双眼鏡を用いればその姿をはっきり確認できる程度にはなっていた。

「……ん？」

　リチャードがあることに気付いたのは、視界に捉えた機体の外観を子細に眺めたときであった。ホレイシアも同様らしく、ハッとした表情でうめき声をあげている。

「艦長、あれは」

「ええ」

　ホレイシアは副長の言葉を半ばで遮り、疲労の蓄積された顔に満面の笑みを浮かべて断言した。

「あれは味方よ」