23回目:倉端定光<最後の戦い>

「世界を救ってくれ? ……ああ、いいぜ。ただし、条件がある」


 英雄召喚の儀により現れた男の名は倉端くらはし定光さだみつ。足をくじいて階段から転げ落ちた結果に命を落とした彼は、私の女神の祝福を受けて異世界に転生した。


「はい、サダミツ様。どのような条件であっても受け入れましょう」


 定光さだみつの前にひざまずきながら答えた金髪の美人は、英雄召喚の儀をり行った巫女である。定光さだみつは巫女の答えに満足気な笑みを浮かべながら、英雄として有るまじき一言を言い放った。


「たった今から、おまえのすべては俺のものだ」


「え……あ、はい」


 定光さだみつの要求に戸惑いながらも巫女は頷く。定光さだみつの力を借りるには、世界を救うためには、それしか方法がないのだから。そんな巫女の様子を気にすることなどなく、薄笑いを浮かべながら巫女へと近付いていく定光さだみつだったが、その時、儀式の間の扉を開けて一人の兵士が部屋へと駆け込んできた。


「大変です! 魔物の軍勢が! ……西の国境の砦を突破されました!」


 兵士の切羽せっぱつまった様子に定光さだみつは舌打ちをする。そして、面倒臭そうに頭をきながら兵士に向かって言った。


「俺を案内しろ。そいつらは俺が片付けてやる」




 首都を出て馬車で西へ向かうこと三時間、遠目に魔物の軍勢がこちらへと行進しているのが見えてきた。


「よし、ここまででいい。あとは俺一人で十分だ」


 そう言って馬車を降りた定光さだみつは、改めて魔物たちへと目を向ける。山のような大きさを誇る一つ目の巨人サイクロプスが三匹に、それの半分程度の大きさの、魔法生物の岩人形ストーンゴーレムが五体、空には飛竜ワイバーンが四匹、他には醜悪な小鬼ゴブリンオークの群れに骸骨兵スケルトン首無し騎士デュラハンまで揃っている。


「とりあえず、先制攻撃をさせてもらう」


 そう言って弓を引くような構えを取った定光さだみつは、静かに目を閉じて精神を集中し始めた。


「開け冥界の門、闇斫の刃振るいし終焉の者、汝は我、我は汝なり、渾沌と絶望の狭間に漂いし幻想の射手、集いて力となれ、我が行く手を遮る愚鈍なる者どもに、神々の鉄槌を下し給え……フォイルニスドンナーシュヴァイゲンプファイル!!」


 まるで意味のわからない呪文を口走った定光さだみつであったが、当然ながら何も起こるはずがない。私は、人選を間違えたのだと、激しく後悔した。


「……む。そうか、俺は戦士系だったのか。ならば仕方ない」


 いや、キミは戦士としてだけでなく、ちゃんと魔力を扱う才能もあるからね。そんな私の心の声も虚しく、定光さだみつは素手で魔物に立ち向かうのであった。


 振り下ろされる短刀を持つ小鬼ゴブリンの腕を掴み取って投げ飛ばし、その際に奪った短刀で小鬼ゴブリンの首を切り裂いていく。一つ目の巨人サイクロプスの巨大な棍棒が地面を穿うがてば、定光さだみつは棍棒を駆け上がり、一つ目の巨人サイクロプスの目に短刀を投げつける。岩人形ストーンゴーレムが放ってきた火炎弾を空高くに蹴り上げて飛竜ワイバーンを撃ち落とし、オークを片っ端から殴り飛ばす。


 本人も無意識のうちに使っている魔力が定光さだみつの身体能力を引き上げていた。そして、またたく間に魔物の軍勢は数を減らしていったのである。


「これで最後、っと。……可愛い女の子モンスターの一匹でもいれば、お持ち帰りするんだけどなぁ。まあ、これからに期待するか。それより早く戻って巫女と……ぐふふ」


 気持ち悪いセリフとともに気持ち悪い笑顔を浮かべる定光さだみつだが、……何か勘違いをしているような……、うん、まあ、いいけどね。




 その日の夜、定光さだみつに割り当てられた部屋に呼び出された巫女は、緊張の面持ちでベッドの上に腰を下ろしていた。定光さだみつは後ろから巫女の金色の髪を撫で、露出の高い服を着た白い肌に手をわせていく。


「あ……サダミツ様」


 頬を紅く染め、息を荒くする巫女は、抵抗する気などないような僅かな力で定光さだみつの腕を掴むが、その腕は巫女の起伏のない胸から腹部へ、そして、足の付け根を蹂躙していく。だが定光さだみつは、そこに奇妙な感触を感じた。


「ん? あ、なんだ、これ?」


「ん、はぁ……、そ、それは、私で、ございます」


 定光さだみつは眉をひそめながら奇妙な感触の正体を確認した。そこにあったモノは……。


「お、おまえ……お、おとこ、だった、のか」


 うん、やっぱり、気が付いていなかったようだ。そうである。この金髪の巫女は男である。


「は、はい。……この国では、代々、国で最も美しいとされる男が巫女という大役を」


「いや、そんなことはどうでもいい! くそっ! ふざけんなっての!」


 悪態をついて巫女から体を離す定光さだみつであったが、巫女の表情はどこか残念そうだ。


「サダミツ様……? 続きは、してくださらないのですか?」


「ああ? そんなのあたりま」


「ああ、なるほど! ……サダミツ様は、受け側のお方でいらっしゃるのですね。大丈夫です。私は、どちらでも、いけますから、ね」


「は? おまえ、なにを……って、おい、近付くな! おい!! ……ッアー!」


 この時の定光さだみつの絶叫は国中に響き渡ったと言われている。そして、二人の激しいアレコレは朝まで続いたのであった。



 翌朝、二人の様子を見に来た兵士たちは、その惨状を見て驚愕した。異世界から来た英雄は、その体、の一部も、そして精神も、壊れてしまっていたのだから。


「み、巫女様、これは一体……」


「あはは……、やりすぎちゃった。てへ」


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