22回目:緋山咲耶<月明かりの狂想曲>
「……ひ、……いやああぁぁぁぁ!!!」
「やあ、お嬢さん。俺の名はカプリス。キミのその力、キミも女神の祝福を授かった転生者なんだろ?」
なるほど。まるでボディビルダーのような外見のカプリスと名乗ったこの男が、女神トレーネが祝福を授けた異世界転生者ということか。
トレーネとは女神アカデミーの同期生で、私の数少ない友人の一人だ。今回は彼女と協力して、各々の選んだ転生者を同じ世界の同じ場所に送り込んだというわけだ。
「……は?」
しかし、私が転生させた
カプリスは逆三角形の上半身を強調するかのように腰の辺りに手を当てて立っている。パンツ以外は何も身に付けていない全身は何故か黒光りしていて、体毛は髪の毛を含めて一本たりとも生えていない。……普段から筋肉最高と豪語しているようなトレーネだったが、なるほど、彼女はこういうのが好きなのか。でも、この格好で旅をするのはどうかと思うのだけれど。
「……いちおう、話はわかった、気がするけど、……ええと、私は
おずおずと右手を差し出す
「ああ、サクヤ。これからよろしくな!」
こうして二人の旅は始まったわけだが、
街に着けばパンツ一丁のカプリスが衛兵に連れて行かれそうになったり、パンツから取り出した金貨で旅の支度を整えたり、冒険者ギルドに立ち寄って情報収集したりと大忙しだ。
しかし、カプリスが購入した水や食料をパンツの中に収納していたが、あれはどういう仕組みなのだろうか……?
「はあ。なんかよくわからないけど今日は疲れた。……ただ、病気は治ってるみたいだし、外をあんなふうに歩き回れるなんて思ってもみなかったな」
冒険者ギルドで紹介された宿に備え付けられた露天風呂に浸かりながら、
露天風呂付きの宿となれば請求される金額もそれなりだったが、カプリスは平然とした様子で支払いを済ませていた。女神トレーネが転生者に授けているのは戦うための能力だけではないらしい。
「明日からはもっと歩き回ることになる。今日はゆっくりと休むといいさ」
「うん、そうだね。……え?」
一糸纏わぬ姿の
「ねえ、なんでここにいるの?」
「ん?なんでって、ここは混浴だからな。俺がここにいても不思議はないさ」
確かにその通りなのだが、混浴であることを知らなかった
「あ、え、えっと、わ、私、出るねっ」
混乱した
「あ、あ、あ……いやあああああぁぁ!!」
恥ずかしさの頂点に達した
「あーあ、これはやばいなぁ。衛兵に捕まったら旅なんて続けられないぞ」
至近距離で魔力の暴走に巻き込まれながらも平然としているカプリスは、全ての魔力を使い果たして気を失った
「サイドチェストぉぉ!!」
カプリスの胸の筋肉が発光して放たれたエネルギーの塊が、大空を舞う
「カプリス、これで魔王四天王はすべて倒したのね」
「ああ、これで魔王が待ち構える浮遊要塞の結界が消滅したはずだ。ついに、俺達の旅が終わるときが来たんだな」
「それを言うのはまだ早いわ。最後まで筋肉を引き締めるのよ」
「ハハハ、それもそうだな。……サクヤ」
「ん、どうしたの?」
「魔王を倒して世界が平和になったら、俺と……いや、今はやめておこう」
「何よ、気になるわね」
「あとで、必ず言うさ。だから、勝つぞ、サクヤ」
「ええ!」
グレイフェリア王国の王宮に招かれていた
「サクヤ、しっかり捕まってろよ!」
カプリスの言葉に
月夜の光に照らされて、腕を組んだ筋肉男が錐揉み状に回転しながら星空の下を横断する。浮遊要塞から放たれる魔力粒子砲が二人を襲うが、筋肉と魔力が一体となった今の二人を止められるものなど存在しない。
そのままの勢いで浮遊要塞に突撃した二人は、壁に大穴を開けて魔王ブルートの目の前に降り立った。結論を言ってしまうが、魔王は倒された。しかし、その戦いは凄まじいものだった。
ついに、私は世界を救済することに成功した。女神トレーネとの協力によって為し得たことであるが、とにかく嬉しい。早速、転生執行官を取りまとめる女神転生本部に報告を入れた。ああ、これで特別手当をもらったら、どこへ旅行に行こうかな。
だが、本部から送られてきた返信に私は
「これで、終わったのね」
「ああ、……サクヤは、これからどうするか、何か考えてるのか?」
「うーん、特に何も考えてなかったなぁ。ゆっくりと世界を見て回るのもいいし、世界中の温泉でも巡ってみようかな。カプリスはどうするの?」
「俺は、そうだな……。サクヤ、ちょっといいか」
「ん、なに、カプリス」
「サクヤ、俺と、……俺と一緒に、生きてほしい」
「カプリス……」
星空の下、ふたつの影が重なり合った。
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