2回目:黒須叡山<孤高の戦士>
女神である私が異世界転生術を行使するのは2回目だ。
彼は高い身体能力と強力な魔術を扱う才能を持ち、この異世界に存在する、ありとあらゆる言語を習得している。
「なるほど。これが噂に聞く異世界転生というやつか」
すぐに自分の置かれた状況を察してくれる。
異世界転生への理解度は、転生者を選ぶ上で重要な項目のひとつだ。
「はははっ、なるほど。これはいい」
叡山は軽く腕を振って自分の体の調子を確認する。
さらには右手に意識を集中させ、念じる。
「我が意思に従い姿を現せ!紅蓮の炎
天に掲げた手のひらから炎が出現する。
炎の魔術を使ったのだ。
まあ、その呪文詠唱はなくても使えるんだけど、そこは個人の自由かな。
「では、近くの街に向かうとしよう。本当は街中から始まるのがセオリーだと思うがな」
それはちょっとした手違いだ。許してほしい。
何はともあれ、叡山は異世界に転生した当初から視界に入っていた街へ向かった。
王都グランヴュリエーデ。建国500年の大国だ。
叡山は街の入り口にたどり着き、そびえ立つ高い壁を見上げた。
「これが俺の旅の出発地点となる街か。くくっ、悪くない」
開け放たれた門をくぐる。
「さあ、まずは旅の仲間でも探そうか」
そう言って街中へ足を踏み出すが、そこで叡山は人々の異変に気が付いた。
皆が眉をひそめて叡山を見ている。
一体何事だろうか。
「なんだ?よそ者がめずらしいとでもいうのか?」
ヒソヒソとした話し声が聞こえる。
だが叡山は気にしなかった。街の中央通りを進んでいく。
叡山が近付くと、人々は示し合わせたように彼から遠ざかっていく。その様子は、まるで彼のために道を譲っているかのようにも見て取れた。
「ふん。ずいぶんと嫌われたものだな」
だが、しばらく歩いていると、今までとは逆に叡山に近付く者たちが現れた。
それぞれが剣や斧を携帯している。この世界の冒険者たちだ。
道を塞がれた叡山は足を止める。そして相手の言葉を待った。
「おいてめえ。なんなんだてめえはよ」
粗野な言葉遣いだ。盛り上がった筋肉にスキンヘッドの大男は傷跡のある顔に怒りの形相を浮かべている。
「俺は黒須叡山。いずれ、この世界を救済する者だ」
「んなこたあ聞いてねえんだよ。クロスっつったか。てめえはよ」
「ああ、そうだ。俺に何の用かな。仲間になりたいなら歓迎しようか」
「いらねえよ!それよりどういうつもりなんだって聞いてんだよ!」
叡山には男が怒っている理由がわからない。
「どういうつもりとは、どういうことだ。わかるように説明してほしい」
叡山がそう問いかけると、男は怒りの形相をさらに歪ませる。
「てめえ、自分で気が付いてねえのかよ!」
気が付かないうちに何か失礼なことをしてしまったのだろうか。
「てめえ、……すごく臭いんだよ!!」
「な、なに……?」
予想もしなかった答えに叡山はたじろいだ。
うーん。異世界転生術は完璧だったと思ったんだけど、何か失敗してたかな。
「とにかく、すぐに街をでていけ!てめえに居座られると迷惑なんだよ」
男の言葉に周囲の人々も頷き同意する。
「ぬ、ぬぐ……」
叡山は納得のいかない様子だったが、やがて人々の疎ましげなものを見る視線に耐えられなくなり、
この後、彼はいくつもの街や村を転々とするが、人々の反応はどこでも似たようなものだった。そのうち、彼の行方は誰にもわからないものとなった。
私にもわからない。途中で彼の行く末を見届けるのが面倒になったから、ということは秘密にしておこうと思った。
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