第8章
初秋に常夏へ
この前はちょっと失敗しちゃったな。
つい、異世界に滞在できる時間制限のことを忘れていたんだよね。
そのせいで、ダイカクさんには迷惑をかけてしまったと思う。今度会うことがあれば、しっかりと謝っておかないと。
実は、あの時代の都にかなり興味があったんだよね。せめて一目、あの時代の都ってやつを実際に見てみたくて、思わず滞在時間制限のことを忘れちゃったんだよ。
今後は気をつけよう。うん。
さて、話は変わるけど。
今、目の前には青く綺麗な海が広がっている。
俺の両隣には香住ちゃんとミレーニアさん。どちらも水着姿だ。もちろん、俺も水着を着ているわけで。
そう。
ここは例のペンギン騎士のいる海洋世界。
俺たちが本来暮らしている世界では、九月も中盤に差し掛かり朝晩はそれなりに涼しくなってきた。当然、海で泳ぐのは難しい季節である。
だけど、ここでは全く関係ない。ここは常夏の世界だからね。
俺の右隣の香住ちゃんは、以前この「小世界」に来た時にも着ていたボトムがミニスカート状になったビキニタイプの水着。いくらバイトしているとはいえ、高校生の香住ちゃんがそう何着も水着を用意できるわけもないから、これは仕方ないだろう。
え? 俺が新しい水着をプレゼントすればいいって? 確かにその通りで香住ちゃんにもそう言ったのだが、はっきりと断られてしまった。
今着ている水着だってまだ真新しいのに、これ以上新しい水着があっても逆に困るらしい。
確かに彼女の言う通りではある。ということで、来年の夏に改めて新しい水着をプレゼントしようと心に決めた俺であった。
まあ、それはまた来年の話。
そして、香住ちゃんとは逆側にいるミレーニアさんだが……実はこっちがちょっと問題だった。
何が問題かって、今彼女が着ている水着が問題なのである。ミレーニアさんが着ているのは、シンプルな黒いビキニ。彼女の日本人にはあり得ない白い肌と実に見事なコントラストを描いている。
だが、その布面積が問題だった。極端に布面積が少なく、白い肌がほとんど露出している。特にお尻なんて丸出しと言っていいだろう。いわゆる、Tバックという奴だ。
トップスもかなり際どく、ミレーニアさんの豊かな胸の膨らみが九割は露出している。辛うじて、胸の先端だけが隠されている状態。
ミレーニアさんも特別巨乳というわけではないのだが、それでも香住ちゃんよりは大きいみたい。更には全体的なプロポーションがかなりスゴイ。日本人離れしたその均整の取れたスタイルは、まるで芸術品のようだ。特に、足が長いものだから余計にスタイルが良く見える。
前回この「小世界」に来た時同様、今回も俺の部屋で水着に着替えたわけだが……もう、その時から衝撃的だったね。
海洋世界へと転移する前に、俺の部屋の浴室で最初に俺が水着に着替え、次に香住ちゃんが着替えた。で、最後にミレーニアさんが着替えたわけだが、浴室から出て来た極小水着を着た彼女を見て、思わず俺は唖然としてしまったよ。
いや、驚いたのは俺だけじゃなかった。香住ちゃんもまた、水着姿のミレーニアさんを見て目を見開いて驚いていたなぁ。
「み、みみみみみ、ミレーニアっ!? な、なんて格好しているのっ!?」
「うふふふ。どうですか、シゲキ様? 似合っていますでしょうか?」
香住ちゃんの問いを丸っきり無視して、ミレーニアさんは俺に問いかけた。その際、どこで覚えたのかせくすぃなポーズを取ったりもする。
当然、際どい水着が更に際どくなって、もう少しで見えてはいけない所が見えてしまいそうだった。
「ああ、シゲキ様の視線がわたくしに刺さっているのがよく分かりますわ!」
「し、茂樹さんっ!! そんなにミレーニアを視姦しないっ!!」
い、いやいやいや! し、視姦なんてしていませんことよっ!? ただ、ちょっと目が離せなくなっちゃっただけでっ!!
「ううううう、茂樹さんのばかぁ……」
ごつごつと香住ちゃんが俺の脇腹を殴る。もちろん、本気で殴っているわけじゃないからそれほど痛くはないが、全く痛くないわけでもない。さすがは剣道少女である。
一方、破廉恥な水着を着た王女様は満面の笑顔。
「マリカ様のおっしゃられた通り、シゲキ様の視線を釘づけにできましたわ!」
て、てんちょうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
一体、何が目的でそんなおかしな知恵をミレーニアさんに伝授してくれちゃってんのっ!?
ミレーニアさんもミレーニアさんで、店長の言うことを鵜呑みにするなってのっ!! 何を言われたのか知らないけど、キミには羞恥心ってものがないのっ!?
「確かに恥ずかしいですが、シゲキ様以外には絶対に見せませんから……わたくしはシゲキ様のものですし……」
突然その美貌を赤く染めながら、もじもじと恥じらい始めるミレーニアさん。
うん、なぜだろうね? 先程までの赤裸々な彼女よりも、今の方が断然魅力的に見えるのは。
やはり、最低限の恥じらいがあってこそ、男の野生に深く突き刺さるってことなのだろう。
ちなみに、元の世界に帰ってから店長に聞いてみた。どうして変な知恵をミレーニアさんに教えたのかを。
「いやあ、最初は冗談のつもりだったんだよ。だけど、どういうわけか彼女が本気にしちゃってねぇ。後から冗談だとも言えずに……ぶっちゃけ君だって、それなりに楽しめたんじゃないのかい?」
ま、まあ、楽しめなかったと言えば嘘になるけどさ。ミレーニアさんほどの美女があんなすけべぇな格好をしていたら、健康な男性なら誰だって楽しくなるだろう。うん。
「茂樹さん……一体、何を考えているんですか……?」
じっとりとした目で、俺を見上げる香住ちゃん。さっきからずっと脇腹を殴られ続けているので、そろそろ痣ができそうだ。
その時、小さな声で彼女が「次に水着を買う時は、もう少し攻めてみよう……」と呟いたのが確かに聞こえた。
う、うん。香住ちゃんが攻めた水着を着るの、楽しみにしていよう。
さてさて。
ミレーニアさんの水着の問題は、まあ、置いておこう。
ここには俺たち三人しかいないし、俺があまりミレーニアさんを見ないようにすればいいだけのことだし。
で、今回この「小世界」へと訪れた理由だが、ミレーニアさんが望んだのである。
実は彼女、これまで海で泳いだことがないそうなのだ。
一応、ミレーニアさんの生まれ故郷であるアルファロ王国にも海はある。だけど、その海は王都からはかなり遠く、王族であるミレーニアさんが簡単に訪れることができる距離ではないそうで。
で、最近転入した高校で、夏休みに海水浴に出かけたクラスメイトの話を聞いたミレーニアさんは、是非自分も行ってみたいと言い出したのだ。
普通であれば、九月の中旬に海水浴へ行くことは不可能だろう。大体、どこの海水浴場も、営業は夏休み中ぐらいだろうし。
もちろん、今の時季でも海に入ること自体は不可能ではない。だけど、気温や水温などの面や、クラゲなどの危険生物の面も合わせて、この時期の日本の海水浴場へ行く気にはなれなかった。もちろん、海外へ行くにも日程などの問題がある。
そこで、俺が提案したわけだ。
この海洋世界であれば、いつでも海水浴ができることを。
この「小世界」にだって、危険は存在する。実際、前回来た時はでっかいゴカイやエイに襲われたしね。
更には、そのゴカイやエイから「害虫」どもが出て来たりもしたし、危険生物という面ではこの「小世界」の方が危険度は上なのは間違なかったりするだろう。だけど、大抵の危険は聖剣で対処できるし。
もちろん、聖剣を過信しるつもりはないし、聖剣の力に頼り切るつもりもない。だけど、少しぐらいはあてにしてもいいよね? 俺たち、永遠の
海洋世界の海に来たもう一つの理由は、この絶好のロケーションだ。
どこまでも続く白い砂浜と、無限に広がる青い海。こんなロケーション、日本ではまず見ることができないだろう。いや、世界中にだって、ここに匹敵するビーチはそうそうないだろう。
しかも、これだけ綺麗で広大なビーチを実質貸し切り状態! これもまた、普通ではあり得ないことだよね。
さて、そんなことよりそろそろ海に入ろうじゃないか。
前回同様、ビーチパラソルやらクーラーボックスやらを設置して、いよいよ海へと向かう。
波打ち際では、既に香住ちゃんとミレーニアさんが波と戯れていた。楽しそうに互いに水を掛け合っ…………あ、あれ?
「ミレーニアは露骨すぎるのよ! 私がどれだけ恥ずかしい気持ちを抑え込んで茂樹さんにアピールしたと思っているの?」
「あら、それはカスミの都合でしてよ? わたくしにはわたくしの戦略というものがありますの」
「ううう……この露出狂!」
「自分に自信がないお子様は引っ込んでいなさい!」
…………全然楽しそうじゃなかった。殺伐としていた。結構マジで水を掛け合っていた。
基本的に、香住ちゃんもミレーニアさんも仲がいいんだよね。でも、時にはああやってライバル心をむき出しにすることがある。
うん、そんな分かったようなことを言っているけど、俺自身が原因なんだよなー。だけど、さすがにあの争いの中に入り込む勇気はありません。
あえて二人から視線を逸らし、改めて大海原を見つめる。
波は穏やかで、空はどこまでも青い。青空に浮かぶ白い蜘蛛が、実に見事なコントラストを描いていた。
あ、あれ?
俺、今、何か変なことを言わなかったか?
もう一度、海と空を見てみる。
青い海。揺れる波間に太陽の光がきらきらと輝いている。
青く広い空には大きな白い蜘蛛。これぞまさに夏の空だ。
……………………うん、やっぱりおかしい。
え、えっと……。
三度、空を見上げれば…………そこには確かに大きな白い蜘蛛が浮かんでいた。
…………うん、さすがは異世界。俺の常識を壊しに来ているようだ。
~~~ 作者より ~~~
突っ込まれる前に言っておこう! もちろんバルーニングは知っているとも!
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