第7話 長さは15センチ

「ちょっとデンキ、しっかりしてよ」

「ヤギだって、もっと計算を手伝ってくれよ」


 俺たちは言い争いながら、慌てて校門を駆け抜ける。

 これからジュース、いやアルミ缶を調達するのだ。

 初夏の夕陽は、西の空を赤く染めていた。


 ——15センチ。

 

 これが俺たちの導き出したアンテナの長さだった。

 波長60.3センチの4分の1の長さだ。

 なぜ4分の1なのかはよくわからないが、ネットにそう書いてあった。

 とにかく俺たちは、タイムリミットまでに15センチ以上の長さのアルミ缶を探さなければいけない。


「15センチとなると、500mL缶しかないわね」

 350mL缶の高さは12センチだった。

 そのことを俺たちは、通学路の途中の自動販売機のサンプルで確かめる。

 15センチのアンテナを作ろうとしたら、もっと大きなアルミ缶が必要なのだ。

 ちなみに、その自販機には350mL缶とペットボトルしか置いておらず、500mL缶は売っていなかった。

 だから俺たちはスーパーへ向かう。

 スーパーなら確実に500mL缶が置いてあるだろう。


「あったよ!」

「高さは!?」

「16センチもあるわ!」

「おおっ! やった!」

 定規を手にしながら、スーパーの飲料品売り場をウロウロする高校生というのも、なんだか怪しい存在ではあるが。

 でも、ついに、15センチのアンテナを作ることができるアルミ缶が見つかった!


 しかし、物事はそう簡単には進まない。

「じゃあ、これ買っていくぞ」と俺がその500m缶を手に取った時、にわかに顔をしかめたヤギが待ったをかけたのだ。


「ちょっと待って。それ、炭酸じゃない?」

「そう……みたいだけど?」

「嫌よ、私。炭酸なんて飲めない」

「まだ治ってないのかよ、ヤギの炭酸嫌いは」

「これは一生治らないもん。もう、そんなこと言うならデンキが全部飲めばいいじゃない!」

「うーん、俺も、一人では全部飲めそうにない……」


 仕方が無いので、俺たちは炭酸以外のジュースを探す。

 しかし500mLの飲み物は、ほとんどがペットボトルだった。

 アルミ缶で500mLといったらビールや酎ハイなどの酒類ばかりで、その他は炭酸飲料やスタミナドリンクになってしまうのだ。

 結局スーパーでは、二人が飲めるジュースは調達できなかった。


 続いてコンビニ。ここでも500mL缶は酒類しか置いていない。


「ヤギ、ノンアルコールビールだったら高校生でも買えるかな……?」

「さすがにダメなんじゃない? 一応、酒類のコーナーに置いてあるし。そもそもこれって美味いの? それに、炭酸……だよね?」

「うーん、分からない……」

 結局、俺たちはささやかな冒険に挑戦することもなく、自動販売機を探し回ることに。


「あった!」

「よかった! これでやっとアンテナが作れる!」

 学校を出てから一時間。

 俺たちは手を取り合って小躍りする。

 やっとのことで見つけのは——子供のころよく飲んだカスピルウォーターだった。

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