十五センチの地デジ作戦

つとむュー

第1話 アンテナ作ってよ

「ねえ、アンテナ作ってよ、地デジの」


 学校に着くなり無茶言われた。

 同級生で幼馴染の女の子に。

 雪野八枝(ゆきの はつえ)。

 名前の漢字が『技』に似ているから、ヤギ(八技)って呼ばれている。


「ちょ、ちょっと、ヤギ。近けぇよ、顔が……」


 二重のクリクリとした瞳が俺を捉えて離さない。

 俺に対してはいつも無愛想なのに、今日に限って不気味だ。

 軽く染めたショートボブの髪から、いい香りが漂ってくる。

 いくら幼馴染とはいえ、この距離はヤバい。クラスの隠れファンから放課後、体育館裏に呼び出されそうだ。


「じゃあ、作ってくれる? 地デジアンテナ。簡単でしょ? デンキなんだから」

「だから俺は『電気』じゃねぇ、『元気』だって言ってんだろ」


 俺の名前は向島元気(むこうじま げんき)。

 名前に反して機械好きインドア派。てなことで、デンキと呼ばれている。

 が、地デジアンテナなんて作ったことなど一度もない。


「そんなのどっちだっていいよ。作るの? 作らないの? まさか、作れないとか? デンキのくせに……」


 目を細めて鼻をヒクヒクさせるヤギ。

 その挑発的な表情に俺はカチンと来た。

 決して、デンキと呼ばれてることを自負したわけじゃない。

 可愛い癖にそんな表情を見せるアンバランスさが許せなかったからだ。

 まあ、俺は毎度こんな風に彼女に操られているわけなんだが。


「作ってやるよ、デンキの名にかけて。それで? タイムリミットはいつ?」


 すると彼女は感謝の気持ちを一ミリも表情に出すことなく、ぬけぬけと言い放った。


「今夜よ」

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