第7話 OH作戦三 爆撃

 夜明けと同時に日米両空母は動き始めた。日本空母の甲板には爆装を完了させた艦爆と艦攻がずらりと並んでいた。

 第一波攻撃隊-一

 艦戦二一機

 艦爆三三機

 艦攻六機

 第一波攻撃隊-二

 艦戦一三機

 艦攻三六機

 前日の出撃で六〇機以上が撃墜されたり被弾したりで出撃不可能となっていたが、虫の息のオアフ島を叩くには十分な数であった。


 対する米空母は前日と同じくまず索敵から始めなければならなかった。この時『レキシントン』も『エンタープライズ』も既に機動部隊を射程距離に収める位置にいたが、未だ合流は出来ていなかった。


「敵空母一を含む艦隊を発見」

 ハルゼー中将は現地時刻の六時五〇分にその報告を受け取った。それはTF16の北方僅か一一〇海里先に存在していた。

「いつの間にそんなに近くに」

 ハルゼー中将は少なからず驚いた。夜間の内に接近していたのだろうが、それにしても一隻だけだというのは腑に落ちない。

「オアフ島は昨晩砲撃を受けたとのことですから、それの直掩機を飛ばしに来たのではないでしょうか」

 そう言ったのは参謀長マイルズ・ブローニング大佐であった。

「うむ、ジャップ共の狙いはオアフ島以外にも有るのだしな。きっとそうに違いない」

 ハルゼー中将は彼の言葉に同意して、即座に発艦命令を出した。

 F4Fワイルドキャット戦闘機一八機

 SBDドーントレス爆撃機一八機

 TBDデヴァスティター雷撃機六機

 攻撃隊は七時一六分に発艦を終え、一路敵空母に向かっていった。

 それと同時にハルゼー中将の元に又もやオアフ島が爆撃されているとの連絡が入った。

「どういうことだ?てっきり奴等はハワイ島かミッドウェイにでも向かったと思ったのだがな。だとすればあの空母は何だ?」

「ひょっとすると機関が故障したのかもしれません。どちらにせよ空母を沈める機会には違いありません」

 ブローニング大佐の言葉にハルゼー中将はそうであろうな、と自らを納得させる様に言った。


 『エンタープライズ』から飛び立った攻撃隊は七時三四分に一隻の空母を中心に輪形陣を敷いている艦隊を見つけた。艦爆隊は空母をめがけて急降下を開始した。この時攻撃隊は僅かな時間差を付けて爆撃機、そして雷撃機の順に攻撃をしかけていた。これは先に急降下爆撃で敵艦の機銃を潰し、雷撃の成功率を上げようとしたのである。また擬似的な爆雷同時攻撃になるので米軍機の頑丈さも相まって機体の損耗を抑える目的も伴っていた。

 戦闘機指揮官クラレンス・マクラスキー大尉は違和感を覚えていた。と言うのも敵戦闘機が一向に表れて来ないのである。いくらジャップが愚か者だとしても直掩隊すら出さないというのはあり得ないのではないか。それとも完全に油断をしているのか。どちらにしてもマクラスキー大尉に爆撃隊の指揮権は無く、黙ってみている他に無かった。


「発光信号でも手旗信号でも良い!使えるものは全て使え!」

 『レキシントン』の艦橋にシャーマン少将の声が響き渡った。『レキシントン』は今非常に奇妙な事態に陥っていた。味方の爆撃機に攻撃されようとしているのである。

「ハルゼーの奴め逸りおって」

 シャーマン少将は忌々しそうに呟いた。

 その間にもドーントレスの編隊は『レキシントン』上空へと迫って来る。

「取り舵!躱してくれよ」

 シャーマンは大声で命令した。


 『レキシントン』の右舷に水柱が上がる。ドーントレスの爆撃である。しかし彼女の運も尽きようとしていた。『レキシントン』の正面には急降下をしょうとしているドーントレスの姿があった。


「何⁉︎誤爆だと⁉︎急降下に入ってから知らせても手遅れだよ!」

 バレット少尉の機体にその連絡が来たのは、彼の機体は彼の言葉通り急降下の姿勢に入った後であった。急降下爆撃というものは一旦急降下の姿勢に入れば、爆弾の重さによって上昇することのできない攻撃方法である。又同様の理由で進路を変更することもできない。

「いや、機体が艦の上に到達する前に爆弾を切り離せば……」

 バレット少尉は投下レバーを引いた。


「くっ、今転舵しても間に合わぬ……機関増速!最大速力」

 シャーマン少将の命令は通常の爆撃に対しては有効であった。しかしこの場合は最悪の選択であった。

 バレット少尉機が落とした爆弾は、吸い込まれるように『レキシントン』の甲板へ命中した。この時米軍が使っていたのは一〇〇〇pound-約五〇〇gram-爆弾であり、それは『レキシントン』の甲板を貫くには十分な重さであった。


「誘爆を起こす前に早急に消火せよ!」

 この時『レキシントン』の艦内には、日本艦隊への爆撃に用意した爆弾や魚雷を抱えた爆撃機と雷撃機が、ずらりと並んでいた。命中した位置は艦首付近であった為、機体の置かれていた所からは外れていたものの、もし誘爆すれば、『レキシントン』が沈没する可能性もあり、シャーマン少将のいう通り消火は急がなければいけなかった。


「消火は完了しました。が、甲板の修復には半時間かかります。更に爆撃機三機が一部燃焼した為使用不可能となっています」

 シャーマン少将はその報告に力無く頷いた。しかし一難去ってまた一難、新たな報告が彼の元に入って来た。

「電探に反応あり!日本軍の偵察機と思われます」

「よりによってこんな時に……敵の位置にもよるが、三〇分程度で敵機は来るだろうな。甲板の復旧を急がせろ!同時に戦闘機の発艦準備を整えよ!」

 シャーマン少将は矢継ぎ早に命令を飛ばした。

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