第5話 OH作戦一 奇襲

 一二月八日一時三〇分-現地時刻 七日六時-日本海軍機動部隊から、第一波攻撃隊が発進した。

 零式艦戦四三機

 九九艦爆五一機

 九七艦攻八九機

 計一八三機である。

 そして二時四五分、第二波攻撃隊も発進。

 零式艦戦三六機

 九九艦爆八一機

 九七艦攻四九機

 計一六六機である。

 その数は合計三四九機にもなり、機動部隊の殆ど全力であった。


 真珠湾にはこの時米海軍太平洋艦隊の主力艦がほぼ全て揃っていた。

 コロラド級戦艦『ウェストヴァージニア』『メリーランド』

 テネシー級戦艦『テネシー』『カリホルニア』

 ペンシルヴァニア級戦艦『ペンシルヴァニア』『アリゾナ』

 ネヴァダ級戦艦『ネヴァダ』『オクラホマ』

 以上の戦艦八隻の他にも重巡二隻、軽巡六隻、駆逐艦三〇隻が肩を並べていた。


 日本海軍が攻撃を開始した時刻はハワイ時刻では一二月七日七時日曜日のことであった。更には合衆国の誰もが仮に日本人が襲ってくるとすればフィリピン辺りだろうと楽観していた。その為ハワイにいる米軍人は休みを享受しつつ、余命幾許もない平和を実感していた。

 オアフ島北端のオパナでは電探raderが稼働しており、それは北より迫り来る日本軍機を捉えていたが、米軍は友軍機と誤認し、見逃すという失態さえ演じていた。この時点で日本軍機の奇襲の成功は約束されたも同然であった。


 三時二〇分、第一波攻撃隊は真珠湾上空に到達。攻撃隊長である淵田美津雄中佐は『ト連送-全軍突撃』を発信させた。そして『赤城』にあて、『トラ・トラ・トラ-我奇襲ニ成功セリ』と打電した。


 日本機の来襲に飛び立とうとした米戦闘機もいたが、忽ち零戦に堕とされてしまった。空に敵のいなくなった制空隊は飛行場を銃撃。駐機していた航空機を、次々と炎に包ませていった。

 七時五七分、村田重治少佐の雷撃隊が戦艦群への雷撃を開始した。この攻撃で『オクラホマ』が転覆沈没、『ウェストヴァージニア』『カリホルニア』が海底に沈座した。

 雷撃が終了した三時三四分、淵田中佐率いる水平爆撃隊が攻撃を敢行した。水平爆撃隊はこの時長門型の主砲を改造した八〇〇kilogram徹甲爆弾を装備していた。この攻撃で『メリーランド』『テネシー』が中破、『アリゾナ』が火薬庫の直撃を受け、轟沈した。

 攻撃を終えた第一波攻撃隊が帰路に付く九時頃それと入れ替わりとなる形で島崎少佐が指揮する第二派攻撃隊がオアフ島へ到達した。第一派攻撃隊の攻撃を凌いでいた『ネヴァダ』は湾口水道へと向かっていた。そこを急降下爆撃隊に狙われ、『ネヴァダ』は湾口手前の海岸に乗り上げることと成った。乾ドックに入渠していた『ペンシルヴァニア』は第一波攻撃を免れていたが、第二波攻撃隊の急降下爆撃を受け中破した。

 これらの攻撃により、米軍は戦艦四隻沈没、一隻大破、三隻中破の損害を負った。それに対して日本海軍は僅か二九機の航空機が撃墜されたにとどまり、誰が見ても日本海軍に軍配が上がっていた。しかし攻撃はまだ始まったばかりであった。


 第一波攻撃隊は僅かに九機が撃墜された已で、被弾機も殆ど無かった。その為直ぐさま爆弾を取り付け、第三派攻撃隊として放つことと成った。更にそれと前後して水偵と少数の艦攻によって付近海域の索敵が行われる事が決まった。源田中佐は艦攻まで使用すると攻撃力が低下すると主張したが、樋端少佐が譲らなかった。


 第三派攻撃隊は以下の編成となった。

 零式艦戦三九機

 九九艦爆四八機

 九七艦攻八〇機

 計一六七機である。

 これ以降に発艦を行うと、夜間着艦となる可能性があり、その場合は危険性が増大する為、第四次攻撃は見送られた。

 第三派攻撃隊は七時一二分、再び大空へと駆け上がった。


 真珠湾は黒煙に包まれていた。

「ヒ……被害は、生き残った戦艦はいるのかね?」

 キンメル大将の言葉に答える者はいなかった。

 だが、明らかに真珠湾にいた太平洋艦隊主力艦は壊滅の憂き目に遭っており、この戦闘―と呼べるかどうかも分からない一方的な攻撃―によって米軍は日本によって致命的といっても良い程の損害を受けた。それはハワイにいた軍人の誰もが理解していた。

 しかし誰の脳裏にも、もう日本軍の攻撃は終了したという根拠のない安心感があった。だが、それを突き崩す発動機の轟音がオアフ島に響き渡った。

 日本海軍の第三波攻撃隊は、第一波第二波共に艦船への攻撃が主眼であった為に比較的軽微な損害に済んでいた飛行場へと攻撃を開始した。オアフ島の全飛行場は瞬く間に穴だらけになり、損害復旧をしていた兵士にも多数の死者がでた。しかし、米軍の対空砲火は益々熾烈となっており、日本海軍は新たに二四機の損失機を出すこととなったのである。


 同夜一八時二〇分、鈍色の輝きを放つ艦が漆黒の海を駆けていた。その内に四隻の戦艦の姿があった。金剛型戦艦である。この四隻は元々二隻が第一部隊に配備されるよていであったのだが、四隻が配備されたのには理由があった。

「近藤長官、まもなく射撃点です」

 第三艦隊の将旗が翻る『金剛』にて艦長の小柳富次大佐が艦隊司令長官の近藤中将に向けてそう報告する。近藤中将は唯頷いて下命した。

「目標、敵飛行場。弾種、通常弾。〇二分後より各艦斉射開始」

 彼の命令は各艦に伝えられ、『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』の主砲が旋回し右舷側へと向けられた。

「砲撃開始!」

撃ててぇ――っ!」

 四隻の各艦八門、計三二問の三六糎砲弾がオアフ島の飛行場へと向けて放たれた。斉射に伴う炎が四隻の周囲を一瞬照らす。

 この四隻の役目は敵飛行場に夜間の砲撃を加え、息をつかせぬ事であった。それを決定的な物とするために、もっと言えば敵の反撃が加えられても一隻程度なら作戦行動不能になっても続行出来るように、四隻がこの作戦に参加していたのであった。


 これを半ば強引に組み込んだのは神中佐であった。ここに仮定であろうと艦の喪失を嫌う海軍首脳部と彼の明白な違いがあった。ある種合理的な人物である神中佐は、大規模な作戦の実施に伴う艦の喪失を当たり前に思っていた。しかし、それによって受ける損害よりも得られる恩恵の方が多ければ十分に実行の余地があるとの考えも持っていた。そこが山本大将の目に止まり、彼を連合艦隊に引き抜くに至ったのである。山本大将は米軍に勝利を治めるには常人一辺倒の策では無理であると思っており、先任参謀もその考えに則り仙人参謀とも呼ばれる黒島大佐となっている。


 近藤中将はその後艦隊を『金剛』『比叡』と『榛名』『霧島』、それぞれが基幹となる部隊に分け、東西からオアフ島に砲撃を行った。これには砲撃時間を短縮することで夜明け前には確実に機動部隊の元へ戻るためであった。

 金剛型戦艦四隻の砲撃によって、オアフ島の飛行場は再び火に包まれる事となった。損害は飛行場だけに留まらず、明日の日本軍機襲来に備えて飛行場の周囲に配置されていた機銃迄もが悉く破壊されていった。この攻撃は戦術的奇襲となり、米軍は真面な反撃も出来ずに、第三艦隊に何ら損害を与えぬまま、悠々と帰路につかせてしまった。

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