Last NAME 閃光の英雄と闇の奏者 第八章

精霊玉

建国と闇の胎動

 それから三年後。


凛珠は『闇夜』の軍勢を殲滅することに成功し、どこに国の首都を置くかで考えあぐねていた。そして……凛珠は修一と出会ったあの場所に首都を置くことに決めた。そして城をそこに建設させた。自分は千尋たちに協力してもらいつつ法の整備やらなんやらで忙しい日々を過ごしていた。そんなころ、ようやく起き上がれるようになった燈華が凛珠を訪ねてきた。




三年ぶりに会う燈華は、あのころと変わらぬ柔らかい微笑みを浮かべていた。

「お久しぶりです。凛珠陛下(’’)」

燈華の呼び方に対して凛珠は言った。

「正式な即位の礼は挙げていないし、建国もしていない。そういうのはつけないでくれ。そもそも俺は、お前にそんな風に呼んでほしくない」

その言葉に燈華は虚を突かれたような顔をした。

「……体の調子は、もういいのか?」

凛珠の燈華をいたわるような言葉に彼女は頷いた。

「はい。おかげさまで、もう大丈夫です」

「そうか、それは良かった」

凛珠はめった浮かべない笑みを顔に浮かべた。

「……本当に、王になられるつもりですか?」

燈華の静かな問い。それに凛珠はすべてを受け入れた目をして言った。

「本気だ。『柱』がこの世からなくなるためには俺の力が必要なんだ。……誰かを犠牲にするくらいならば、俺は今打てる中で一番後悔しないものを選ぶ」

燈華は何も言えなくなった。凛珠の中にある、覚悟と、決意、そして、思いがわかってしまったから。

「燈華……お前は、これからどうするつもりだ?」

凛珠は尋ねた。

「しばらくまた……世界を回ろうと思います」

燈華はいった。

「そうか。……そのあとは、ちゃんと帰ってこいよ。お前が帰ってきたら、伝えたいことがあるから」

凛珠は言った。

「伝えたいこと?」

燈華は尋ねた。

「そうだ。だから、ちゃんと帰ってきてほしい」




 部屋の中に正装に身を包んだ千尋が部屋に入ってきた。

「いよいよだね。ソウ。準備はいいかい?」

千尋が部屋の中にいる人物に声をかけた。窓の外を見ていた人物は振り返って言った。

「ああ……。時間か?」

その言葉に千尋は頷く。部屋の中にいた他の者たちはめいめいに服装の最終チェックをした。

「そうか。……では、行こう」

凛珠はばさりとマントを翻し部屋を出て行った。即位の礼が行われる玉座の間へと。



 その年の三月二十五日。


神風界にて


 玉京国、初代国王蒼天華凛珠により建国



玉京国建国より、八年後

     玉京国首都にある地翔城(王城)


 ある夜、蒼天華 凛珠は玉座の間で目を閉じていた。玉京国の全域の様子を『視』ていた。しばらくして凛珠は目を開けたがその表情は厳しい。

――『闇夜』め。まだ活動をしているか。あの時すべてを消してやったはずなのに。

かつて玉京国建国時に打ち祓った筈の闇がここにきて増長し始めていた。建国から八年。自分が玉座にいることで制しているはずの闇が再びこの世を覆い始めた。そして、人の心もまた闇にのまれるものが出てきている。

―――……覚えておけ。人というものは弱く脆い。些細なきっかけで闇に堕ち、そう簡単に戻ることすらできない。そして、時に堕ちたことそのものに気づかないことだってあるのだ。人というものは弱くて、隙だらけで些細なきっかけで闇に堕ちる。そのことを、決して忘れるな。

 かつて会った父親……空の神の血をひく男は人というものをつぶさに見てきていた。

―――だが、その闇を打ち祓うのもまた人だ。堕ちたものをすくいあげるのもまた人。人は弱いが、驚くべき力も同時に持っている。忘れるな、凛珠。人でありたいと思うならば、人たる誇りを忘れるな。

 不意に凛珠はすぐそばにいる相棒に尋ねた。

「ヒロ、お前の『千里眼』ではどう視えている?」

狭間 千尋は闇から姿を現し、言った。

「僕には闇がこの国を、世界を覆い始めているのが見えるけどね。きみだってそうじゃないのかい?」

凛珠はその言葉にうなずく。

「俺もだ。……『闇夜』の残党がまだいたようだな」

凛珠の言葉に千尋の表情が厳しいものに変わる。

「まだ残っていたというよりも、あの手の連中は簡単に増えるものさ。根気良くつぶしていくしかないね。……そういえばスバルが話があるって言っていたけど」

その言葉に凛珠はいぶかしげに言った。

「スバルが?……なんだ」

原埜 昴は今、玉京国の諜報部門を一手に握っている。昼間はよく会うが夜間はよほどのことがない限り急に呼び出すということはない。

「『闇夜』のことで厄介な情報が入ったんだって。緊急性が高いって言っていたけど」

千尋のその言葉に凛珠は眉をひそめたがため息をつくと立ち上がった。

「……スバルは調査室だな。行くぞ、ヒロ」






調査室には真夜中だというのに煌々と明かりがともっていた。凛珠はノックもなしにドアを開け部屋に入った。部屋の中には昴ただ一人。

「おや、陛下。早いですね」

昴が凛珠が入ったことに気づき、手元の資料から顔をあげた。

「話とはなんだ?」

凛珠果手近にあった椅子にどかっと座り尋ねた。

「さっき入ってきたものなんですが、ちょっと見てください」

そう言って昴は分厚い書類の束を取り出した。凛珠はそれを受け取ると中を見て険しい表情になった。

「あと、これの……ここですね。地図も合わせてみてください」

昴が地図上のある場所を示した。そこは……。

「神の森の一部、リジェルヴィンとライズ・ヴェイラか」

凛珠は苦々しげに言った。場所的に最悪だ。なぜならばあそこは……。

「即急に手を打たねば厄介なことになるね。どうする?」

千尋は言った。その言葉に凛珠はしばらく資料を読んでいたが、不意に言った。

「……ヒロ、シュウを呼び戻せ。それと他の者たちに朝一で会議を招集すると」

千尋は頷くとそのまま踵を返し部屋を出て言った。

「スバル、この件に関する情報収集を続けてくれ。あと美沙都をたたき起してこの件に関する資料の作成を」

「わかりました」

昴が了承すると凛珠はすぐさま部屋を出て行った。




 葉月一族本邸。葉月静覇は自室で瞑想していた。

――やはり、凛珠では制しきれぬほどの闇の増長か。

静覇は眼を開けた。強大な『光』の神力を持つ凛珠の力をもってしても抑えきれぬほどの闇。

「背後に、何かいるな、どう考えてもおかしすぎる」

静覇はつぶやいた。凛珠の『光』の神力は今生きているものたちの中で最も強大だ。そして今なお伸び続けている神力に抑えられぬものなどないはずなのに。

―――だが、光は闇を呼び寄せる。闇もまた、光を呼び寄せる。しかもこの状況。どう考えても凛珠のそばにいるな。『闇』の神力を持つものが。

 それがだれかはわからない。しかし予想はできる。かつて出会った三人のうちの一人。確実にその中にいる。

 光の創造神『コスモス』と対をなす

闇の創造神『カオス』の子供が。




 次の日の朝、玉座の間には国を支える凛珠の廷臣たちが集まっていた。

「さて、みな。資料は読んできたな?」

凛珠が問うと廷臣たちはみな頷いた。

「陛下。いかがなさるおつもりですか?」

紅陽一族の連絡役であり、今は千尋の妻でもある愛紀那は尋ねた。

「即急に対処せねばあるまい。しかし場所の問題がある」

凛珠の言葉に皆一様に黙りこくった。『神の森』の中でもあの場所は最悪の部類に入る。常人ならば絶対に入りたくないようなたぐいの場所だ。

「ここは我々のうちの誰かから行くのが最善の手だと思うけど」

航也が言った。

「……問題は誰が行くがではないのか?」

凛珠の言葉に全員が黙った。そう、そこが問題なのだ。ここにいるメンバーの力ならば誰がでもいけるがそれだと国の防衛に穴が必ず生じてしまう。

「……今回ばかりは考える時間が必要だね。みんなだってそうじゃないのかい?」

ずっと黙っていた千尋が言った。その言葉に皆はバラバラに賛同した。即急に手を打たねばまずいが、だからと言って下手な手を打つわけにはいかないのだ。対処を間違えば昔に逆戻りしかねない。それは最悪の事態だ。

「だな。それでは一時解散とする。……あとで招集をかける。それまでにみな、他の方法について考えておけ」

凛珠のその言葉で会議はお開きとなった。




「シュウ」

修一は廊下を歩いていて千尋に呼び止められた。

「ヒロ、なんだよ」

修一は言った。千尋は周りを見てほかに誰もいないのを確認するといった。

「悪いんだけど、キミがライズ・ヴェイラに行ってほしい。このままだとソウのやつが勝手に一人で行きかねないから」

「……」

千尋のその言葉に修一は全くの同意見だった。凛珠が王位に就いてから8年。凛珠はよくふらりと姿を消しては勝手に事件に首を突っ込んでいた。そのため周りの者たちは毎回毎回……。

「遠征から帰ってきたばかりの君には悪いと思ってるよ。でも航也や昴、順史には頼めないんだよ。もちろん他の人にもね」

千尋の言葉は完全に彼の本音だった。今回ばかりは危険すぎてほかのものでは無理だろう。紅陽一族や『蒼き鳥』にも今回は頼めない。彼らにそういうことをやってほしくないから、こういうのは自分たちが引き受けたのだから。

「まあいいけどさ。て言うかあいつにはどうすんだ?」

修一のその言葉に千尋はにっこりと笑っていった。

「ああそれ?徹底的に隠蔽工作してあいつにばれないようにするから」

修一はその言葉にぞっとした。千尋の隠蔽工作技術は桁が違う。ある事実を完璧に隠してしまうその怖さ。

「……なら、大丈夫なんだな?」

修一の念押しに千尋は言った。

「僕のは絶対にばれない。安心して行って来い」

こうして修一は最も闇の増大が激しいところ……『神の森』ライズ・ヴェイラへと向かうこととなった。

 そしてそれが、自らに眠る『血』を呼び覚ましてしまうことも知らずに。

 凛珠たちとの決定的な決別を招くことも




 二日後

 凛珠は自室で不機嫌だった。修一は国内視察だとかで(これは千尋が言ったもので、別に間違っているというわけではない……が)今現在いない。千尋は千尋で彼自身の雑務に追われていてめったに顔を合わせることもない。

「妙に、不機嫌ですね。気分転換に庭でも散策なさったらいかがですか?」

燈華が部屋に入ってきて言った。現在は凛珠と結婚し、(凛珠が口説きに口説いて結婚した)王妃となっている。ただ彼女はめったに国政に口出しはしない。

「燈華……悪いが、そんな気分じゃない。ヒロのバカがあの件に対してはもう手を打つ必要はないとか言っていてな。……どんな手を打ったのか教えてくれない。俺が王だからというのはわかるが、だからって話してくれてもよさそうなのに」

凛珠は不満を口にした。凛珠は今では燈華にしか不満や弱音を言わなくなっていた。どんなにつらくても、千尋や修一に話すことはない。彼の中では徐々に彼らに対する意識が変化しつつあった。

「あなたの手をわずらわせたくはないから……ではないのですか?」

凛珠の様子を見て、燈華は言った。燈華はずっと凛珠や他の者たちとずっと一緒にいた。ずっと見てきたのだ。だからどうしてそんな行動をとったのかが分かる。

「あなたは王です。他の者たちにとっては守るべき存在なのです。きっと……時が来れば、話してくれますよ」

燈華はそういうと凛珠を抱きしめた。王となってから、凛珠は常に孤独を抱えている。燈華はそれがわかったからこそ、凛珠のそばにいることを選択したのだ。その孤独を少しでも癒すために。

「……そうか。たぶん、そうだな……」

凛珠はそういった。

「やはり庭でも散策しましょう?気分転換に」

その言葉に凛珠は頷いた。




 玉京国首都から見て南東の方角にある『蒼き鳥』本部内。そこのある部屋に二人の人物はいた。

「戩漓。修一に関する話。あれは本当なのか?」

詞華 夏澄は向かいに座る双 戩漓に尋ねた。

「本当だ。俺はまさかとは思ったが……。凛珠のやつには今回ばかりは教えられんな。教えたら教えたであいつがどれほどの衝撃を受けることになるか」

戩漓はため息をついた。戩漓もつい最近まで修一の素姓に関してはほとんど知らなかったが、最近ようやく探索部門の連中が修一に関する報告書をあげてきた。それを読んだ戩漓は即座に調べた連中に厳重に口止めをし、情報が漏れないようにした。修一の素性は凛珠に匹敵するほどやばかったのだ。

「玖翠 修一……。やつは闇の創造神『カオス』の息子。しかもあいつはその事実を知らない。もしもあいつが『闇夜』の連中が本拠を置いているライズ・ヴェイラに行ったらならば……」

「完全に『闇』の神力に飲み込まれてしまうということだな?」

夏澄が戩漓の言葉を引き継いでいった。

「ああ、そういうことになるな。『光』とは違い『闇』は使うものの自我を乗っ取ってしまう。それは『創造主』が世界創造の時に光と闇を分離した時に与えられてしまった性質。……俺たちにはどうする事も出来ん」

戩漓は言った。彼の表情は苦渋に彩られている。『闇』の血を受け継いだものは必ずその『血』の力にのみこまれてしまう。結局のところ遅かれ早かれ修一は自らの受け継いだ『血』の力にのみこまれてしまうということ。その事実は凛珠に伝えるにはあまりにも残酷すぎる。

「凛珠には伝えないつもりか?」

夏澄は尋ねた。その言葉に戩漓は頷く。

「今のあいつはただでさえさまざまな問題を抱えている。ここに修一のことを伝えたらどうなってしまうかさっぱり予測できん。……我ながら甘いとは思うが」

戩漓の言葉に夏澄は首を振った。

「今の凛珠には伝えられないでしょう。……ただ」

「ただ?」

夏澄は言いにくそうだったが、言った。

「千尋に関して言えばあいつは修一の素姓に関してはつかんでいるだろうな。あいつの『異能』はやばい以外の何物でもない」

千尋の持つ異能。それは『追憶』。その異能はありとあらゆる過去を『視』れるというもの。間違いなく千尋は修一の過去を『視』て、すでに知っているはずだ。そして千尋は凛珠には絶対に伝えてはいないだろう。凛珠の益にならないと判断したならば千尋は凛珠にどれほど重要な情報だろうともいうことはない。凛珠にそこまで背負わせる気は千尋にはないのだ。自分の手でかたをつけられると判断したならば、千尋は自分で決着をつける。そして凛珠には絶対に教えない。

 「……たとえ知っていたとしても千尋は凛珠には話さない。千尋の中には凛珠に話すべきことの区別があまりついていない。まったく、頭がいいとバカなことに走る典型的なパターンだな」

夏澄が何とも言えない顔で言った。

「まあ、凛珠のやつには気をつけるように言っておいたほうがいいだろうな。……さて、誰を行かせるか」

戩漓は言った。普段玉京国との連絡役を務めているものが今現在別の任務でいないため、代役を立てなければならない。

「順史か航也を呼び出したほうがいいとは思うが?」

夏澄の言葉に戩漓は頷いた。

「そうだな。では伝えておけ」

そういうと戩漓は椅子から立ち上がり部屋を出て行った。




同日 夕刻

 夏澄に呼び出された順史と航也は城をこっそりと抜け出し(凛珠に知られると厄介なことになるから)『蒼き鳥』の本部へと来ていた。

「ここに来るのも久しぶりだよな。三年ぶりくらいだっけ?」

航也が順史に言った。

「もう、そんなになるか?お前の口調も随分と子供っぽくなるわけだ。というか、年齢考えた口調にしろバカ」

順史が言った。二人は本部長室へ向かうべく廊下を歩いていた。

「あ~はいはい。わかりましたよ。にしてもさ、陛下にもヒロのやつにも黙ってこいだろう?……なんかあったんだとおもうね」

航也が声をひそめて言った。

「確かにな。今までにそんなことなかったし。厄介なことにならなければいいが」

順史の懸念はこの後的中することになる。




順史と航也が本部長室に入った時、そこには夏澄のほかにもう一人、ここにいるはずのない人物がいた。

「夏澄さーん。この人だれでしたっけ?」

航也が言った。

「こいつは紅陽一族の当主だ。名は秋也」

夏澄がさも面倒そうに言った。

「……ということはヒロの奥さんの実家の当主ってこと?」

ポンと手のひらを打って航也は尋ねた。

「聞くまでもないだろう?」

順史がツッこんだ。

「お前たちは本人を目の前にしてよくもそんなことがいえるな」

ずっと黙っていた秋也が言った。

「すみませんねぇ。ボクらはこういう性格なんで。それで?紅陽一族の当主サマが何の用」

航也の声が冷淡なものに変わる。

「あんたが出てくるときはろくなことがないって陛下がよく言ってたんだけど。そうなの?」

航也が言う。

「……ろくなことがない、か。まあそう言われても仕方がないな。私が今回ここに来たのは修一のことだ」

その言葉に航也と順史の表情が険しくなった。

「あいつのこととはなんだ?」

順史は詰問口調で尋ねた。

「修一の素姓についてだ」

二人とも戸惑いを隠せない表情になった。

「あいつの素姓がどうかしたのか?」

順史は秋也に詰め寄って言った。静覇はあくまでも平静を装って言った。

「玖翠 修一は……闇の創造神『カオス』の息子だ」

「は?」

「なっ」

航也はぽかんとなり、順史は驚愕の表情になった。修一が闇の神の息子ということは二人とも知らなかった。だが、それが意味することは知っている。

「じゃあ、あいつは……?」

航也が震える声で言った。

「そう遠くないうちに『血』の力に飲み込まれ、消える」

静覇の淡々とした声音はさらなる衝撃を二人に与えた。静覇はただ事実のみを伝えた。

「闇の血を受け継いだものはいずれそうなる。しかも修一の力は神力。……今まで修一がのみこまれずに済んだのは凛珠の『光』の神力によるものだ。『光』の力は闇を抑えられる」

「……」

航也と順史は黙りこくった。果たしてこの事実を凛珠のやつに伝えるべきか否か。

「ところで修一は今どこにいる?」

夏澄の問いに二人は顔を見合わせた。二人ともどこにいるのか今は知らないからだ。

「ヒロが言うには、国内視察に行ったとかなんとかって」

航也は言った。千尋の徹底した隠ぺい工作によって千尋以外、誰も修一がどこに行ったのかは知らないのだ。

「国内……視察?」

夏澄が眉を寄せて言った。まさか。

 そのときドアが蹴破られた。そこに立っていたのは。

「二人を呼び出すから何かと思えば……そういうことか」

凛珠が立っていた。




「まさか、聞いていたのか!?」

凛珠がいたことに夏澄が愕然とした様子で言った。その様子に凛珠が憮然とした様子で返す。

「だったらどうした。……シュウが戻ってこない。それが気になっていたし、それに、順史とスバルがお前に呼び出されたのが気になってな。ところで……そのこと、ヒロのやつは知っていたのか?」

凛珠の淡々とした口調はただ事実のみを問う。

「……おそらくは」

夏澄はしばしの沈黙の後言った。凛珠はさらに言う。

「じゃあ、お前たちは?いつから……知っていた?」

夏澄は目を泳がせたが、観念したように言った。

「つい、最近だ」

「……」

夏澄の答えに凛珠は何も言わなかった。夏澄がうそを言っているわけではないことがわかったから。

「……凛珠、お前は修一がどこに行ったか知っているか?」

夏澄のその言葉に凛珠は首を振った。

「いや、知らないな。……『千里眼』、最近はあまり使っていないことだしな」

その言葉に静覇は少し考え込んでから言った。

「凛珠、お前の『千里眼』はどの範囲までだ?」

秋也の言葉に凛珠は虚を突かれたような表情をしたが、少し考えてから言った。

「とりあえずこの国の全域はカバーできるが」

「そうか」

秋也はそういうともっていたカバンの中から奇天烈な形をしたものを取り出した。

「それは何だ?」

凛珠はいぶかしげに言った。まったく見たことのない形をしている。

「これはな『千里眼』の能力に少しアレンジを加えるための道具だな。『千里眼』に少しだけ『追憶』の力を付加する」

凛珠は眉根をひそめて言った。

「それにいったい何の意味がある?」

秋也は少しあきれた様子で言った。

「言ってみれば少しだけ『過去』を遡ってみることができる。音声付でな。ただしこれはある一定以上のレベルの『千里眼』の持ち主にしか使えん。多分、お前なら使えるだろう。試してみるか?」

その言葉に凛珠は考え込んだ。一体いつまでの過去をさかのぼってみることができるのか。

「あくまでも予測だが、お前ならば多分一週間の範囲内であれば自由に『視』れると思うぞ」

秋也の言葉に凛珠は言った。

「ならば、使ってみよう。貸してくれ」

秋也は言われたとおりに凛珠にそれを渡した。凛珠はそれを装着すると『千里眼』を開いた。そして、過去を見た。自分が知りたいのは二日前、何があったのか。

 そこには、最悪の事態が映っていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Last NAME 閃光の英雄と闇の奏者 第八章 精霊玉 @seireidama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る