Last NAME 閃光の英雄と闇の奏者 第六章
精霊玉
セカイ
ガラスが砕けるような音がして、久弥の創った異空間は壊れた。凛珠は溜めた力を剣に流し込んで一閃させ、異空間と元の世界との間を切ったせいだ。凛珠の剣は『神剣』でそれ自体が強大な力を持っている。それをさらに強力にするため凛珠の桁外れの力を流し込まれれば異空間など簡単に崩壊させられる。
「さてと……この扉、どうするかね」
凛珠は目の前にある巨大な扉を見て眉根を寄せた。厳重にかぎが掛かっていてこじ開けるのは不可能そうだし、だからと言って扉自体を破壊したらしたでとんでもないことが起きそうな気がする。
「かくなるうえは……気がすすまんが」
自分の剣の固有能力。それはありとあらゆる術を無効化する『消滅』の力。それを発動させ、扉に向かってふるう。すると扉に大の男二人がゆうに入れるほどの穴が開いた。
「まったく、こいつは相変わらず神力の消費量が多いな……」
凛珠の息は上がっていた。ほぼ無敵の能力である代わりに、発動に必要な神力の量は多い。凛珠ほどの神力の力の持ち主ですらこうなのだから、他の連中では発動できないだろう。
「さてと……入るか」
凛珠はそういうと扉に開けた穴から中へ入って行った。
「て言うかほんとにここどうなってるんだよ!千尋、次はどっちだ!!」
邸の廊下を修一が猛烈なスピードで走りながら言った。
「次は、左!すぐに右!」
千尋は『千里眼』で前方の構造を『視』ながら言った。
「ここの当主ってすっげ―悪趣味!!なんだよこの仕掛けの数は!!」
修一が半分涙目で言った。後ろからは巨大な鉄球が迫っている。千尋は修一の言葉を無視し、修一と愛紀那の腕をひっつかむと廊下の突き当たりを左に飛びこみ、さらにそこから右に曲がった。さらに二人の腕をつかんだまま走る。
「しゃべってる暇があったら走れ!!ここから抜け出せなくなりたいのか!?」
千尋が怒鳴った。刻一刻と内部が改変される邸内部では脱出ルートが時間ごとに変化していく。千尋は『千里眼』で変化する邸内部を『視』て最適な移動ルートを割り出しているが、『異能』を休みなく使い続けるというのは、体に大きな負担がかかるのだ。
「ヒロ、お前そろそろやばいんじゃないのか?」
修一が心配そうに言った。
「やばいね」
千尋は即答した。
「そうか。……かくなるうえは!」
修一は天井に向けて超強力な破壊術を放った。確かに天井に大穴があいて脱出はできるが……。
「このバカ!いきなりなんの警告もなしに天井を壊すな!!僕ら全員埋める気だった!?」
千尋がとっさに防御の結界を張っていなければ三人ともがれきに埋まっていただろう。
「あーわりィ。そこまで考えてなかった」
修一の態度に千尋はブちぎれた。
「……いい加減にしろ!!」
部屋の中に入った凛珠は、中央に横たわっている燈華の姿を目にした。
「燈華!?」
凛珠は燈華に駆け寄って抱き起した。燈華には意識がなかった。
「……この感じ、すっごく嫌だな。さてと、燈華救出したし、とっとと出るか」
そう言って燈華を抱え上げようとした時だった。
「それは無理だな」
後ろから突然聞こえた声に凛珠ははじかれたように振り向いた。そこには一人の男が立っていた。
「……あんたが、葉月の当主か?」
男を睨みつけ凛珠が冷たい声音で言った。
「よくわかったな。蒼天華 凛珠。戩漓の後継者」
凛珠がその言葉に冷ややかな笑みを浮かべた。
「燈華は置いていってもらおうか」
「断る」
凛珠は男の言葉に即言った。
「にべもないな」
男の言葉に凛珠は言った。
「だったらどうした?……お前の名は、確か、静覇だったか。まあ少し訊きたいのだが、お前、自分の一族がやっていることが正しいとでも思っているのか?」
凛珠は尋ねた。
「セカイが成り立つには犠牲は必須ではないのか?私は、わが一族から世界を支える『柱』を輩出できることは、名誉なことだと考えるが」
「お前、頭がくるっているとしか思えんな。世界を支えるために、みんなが幸せならばひとりの幸せはどうでもいいってことだろう?」
静覇の言葉に対して、凛珠は言った。その言葉に静覇は気分を害したように言った。
「不愉快な気分にさせるな。……お前は単なる異能者にすぎないのにそのような偉そうなことを言うか」
静覇の言葉に凛珠は冷たい笑みを浮かべ、言った。
「俺は単なる異能者ではない。……俺は、光の女神と空の神の血をひく男を親に持つ半神半人の身だ。俺ならば、『柱』のように命を犠牲にしなくても、セカイを支えることができる」
その言葉に静覇は絶句した。
「なんだ……と!?」
「俺の持つ力は、闇を制することができる。『柱』がいなくてもな」
「さすがは創造神の血をひくものか。だが、本質的には私たちの『柱』と変わらんぞ」
凛珠はハッキリといった。
「そんなものは承知の上だ。誰かの命を犠牲にするよりこっちのほうがはるかにましだ」
そういうと凛珠は燈華を抱き上げる。
「燈華は俺が連れていく。もう自由にさせるべきだと思うし、……『柱』はもう、この世界には必要ない。それでいいだろう?違うか?」
静覇は凛珠の言葉にどこか諦めた様子で言った。
「……お前の勝手にするがいい。……さっきはああ言ったが、私も自分の一族に課せられた役目は面白くないと思っていた。ああ言ったのは一族の建前上の思いだ。ああいう風に考えんと、辛くて堪らなくなるからな」
凛珠は静覇の横を通りつつ言った。
「上に立つ者がそう軽々しく口にしていい言葉ではないな、それは。………それで?もう俺は帰らせてもらうぞ。こんな胸くそ悪いところにこれ以上長居はしたくないからな。」
凛珠の言葉に静覇はどこか諦めた様子で言った。
「そうか。ならば一族の者たちは全員ひかせ、手は出さん。あとそうだ。これをお前に渡しておこう」
そう言って静覇は凛珠に何かを投げた。
「これ、神石か。……これ使って帰れと?」
凛珠は胡乱気に静覇を見た。
「そうだ。お前と一緒に来た三人もどうやら力をほぼ使い切ってしまったようだしな。それさえあれば、どこへでも行ける」
凛珠がぼそりと言った。
「……やけに親切だな」
その言葉に静覇は苦笑した。
「そうだな。私らしくもない。……あと、ひとつ訊いてもいいか?」
凛珠は振り返った。
「お前は……いったいどうするつもりだ?」
静覇の問いに凛珠は言った。
「俺は国を創る。創ってこの世界の民たちへ、安寧をやる。そう決めた」
そういうと凛珠の姿は消えた。
修一と千尋は葉月一族の本邸の庭を突っ走っていた。そのとき燈華を抱えた凛珠が突然現れたのだからどうなるかはわかる方もいらっしゃるだろう。驚きのあまりそこに立っていた大木に二人とも走っていた速度を落とすことができずにそろって激突した。愛紀那は少し距離をおいて走っていたので木に激突せずに済んだ。
「いきなり現れんな!!激突したじゃねえか!!」
修一はもろに木に激突した顔を手で押さえながら言った。
「悪かった。ていうかどこぞのマンガみたいな事ってあるんだな」
修一のことをしげしげと見て、凛珠は真顔で言った。
「どういう意味だ!」
修一が言った。さすがに凛珠の言い方は癪に障ったらしい。
「気に障ったならば、謝る。さて……帰ろうか」
千尋が軽く眉をあげた。
「燈華ちゃんも開放したから?だけど、これからどうするんだ?『柱』のいなくなった世界は崩壊するんじゃないのかい?」
千尋が尋ねたが、凛珠はほほ笑んだ。
「そこら辺はすでに考えてある。とりあえず、帰るぞ」
二日後。
『青き鳥』の本部長室には夏澄、凛珠、千尋、修一の姿があった。愛紀那は紅陽の本邸に戻り、燈華は衰弱が激しく、今も医務室のベッドの上だ。
「いつになったら話を始められるんだ?」
凛珠がさすがにいらっときた様子で言った。かれこれ三十分ぐらいこの感じなのだ。
「まあ、待て。もう来る」
夏澄がそう言った時、『あの人』――双 戩漓が入ってきた。戩漓は三人を見て少し、口元に笑みを浮かべる。
「少しの間見なかっただけでこれほど変わるとはな。それで?話とはなんだ」
話というのは、凛珠が葉月地族の本邸への殴り込みから帰ってきて夏澄を通じて戩漓に伝えたことだ。
「軍を挙げて、『闇夜』との本格的な戦いを行いたい。そのために『蒼き鳥』には全面的なバックアップを頼みたい」
凛珠は、言った。
「ほう?それは別に俺としては構わんが、どういう風の吹きまわしだ?」
戩漓の言葉に凛珠は言う。
「俺は、光の女神の息子として『柱』の代わりができる。そのために、闇を一掃し、国を創り俺が王となる。ちなみにこの考えはここの連中にどうしたらいいかで話し合いをしたら、お前が国を創り、王とならばいいと言われたのでな。それに、俺としてはこの世界に生きるものたちに闇に脅えることなく平穏な暮らしを送ってほしいと思う。だから俺は……この世界に巣くう闇を制するために俺の力が必要というならば、俺は国を創り、王となってやる!」
凛珠は宣言した。(話がなんか吹っ飛んだなと思いつつ)修一と千尋はあらかじめ聞いていたので特に反応は見せなかったが、夏澄と戩漓は虚を突かれたような顔をした。そして凛珠の覚悟を見てとり、言った。
「……そうか。それほどの覚悟があるのならば、こちらとしては全面的にバックアップしよう。紅陽一族の秋也にも会いに行って来い。あいつならば、多分協力してくれるだろう。前に渡した霊石はまだあるな?」
「そいつを使って行って来いってことですよね?じゃあ、行くぞ、二人とも」
そういうと凛珠は千尋と修一とともに部屋を出て行った。あとに残された二人は顔を見合わせた。
「ずいぶんとまあ、短時間に変わったことだな、そうは思わないか?」
夏澄が戩漓に尋ねた。戩漓はその言葉に笑って言った。
「まあいい傾向だとは思うがな。それにしてもどこであいつは自分のことを知ったのだろうな。俺は教えていないし……夏澄、お前、教えたか?」
その言葉に夏澄は首を振った。
「いいえ、教えてはいないが。……ですが、凛珠が自分の素姓を知るのは遅かれ早かれ……では?いつまでも隠し通せるわけがない。違う?」
夏澄の問いかけに戩漓はやれやれといった感じで言った。
「まあそう言われればそうとしか言いようがない。……だが、国を創るというのは、あいつ自身の考えだろうが、軍を挙げるというのは千尋の考えだろう。もしかすると、スバルか、航也あたりかもしれんがな。……それにしても、凛珠にはもしかすると王の資質があるのかもしれんな。民のために自らのすべてを捧ぐ……。だが、そこまで行くかはあいつ次第」
戩漓の顔を夏澄は何とも言えない顔で見た。そして、手元の書類に視線をやった。
「では、凛珠のために『蒼き鳥』のメンバーを全員いったん本部へ戻す。そして指揮権をすべて、凛珠へ移してやらねば。よろしいですね?」
「俺はそれでも構わん。だが、果たして他の連中が十五のガキに対して従うかな」
懸念の混じるその言葉に夏澄は沈黙したが、不意に顔を挙げて言った。
「それは凛珠次第。……だが私としては、凛珠は立派に指揮を執れると思うぞ」
夏澄の言葉に戩漓は苦笑して言った。
「多分、そうだろうな」
そう言って戩漓は窓を大きく開けた。
「ここからどうなるかはお前しだいだ、凛珠。……しかし、お前は、王が抱えるものを、理解していったのか……?」
戩漓のつぶやきは風に溶け、誰の耳にも届くことはなかった。
「あー今度は正面に出たね。前はいきなり庭に出ただろ?」
千尋が目の前の門を見て言った。前回はいきなり庭に出たのだった。霊石を使った移動はかなり不安定なのだ。対象範囲内だったらどこに転移をしてもおかしくはない。
「確かにあれはな。……さてと、入るか」
凛珠はそういうと門のチャイムを鳴らした。
紅陽一族本邸の応接室に通された凛珠たちはそこにいた二人のうちの片方の人物を見てぎょっとした。
「私がここにいることを全く予期していなかったようだな」
葉月 静覇だった。
「静覇が相談事できているときに、戩漓のやつからお前たちがここに来ると連絡が来たのでな。こいつに聞いたら、会いたいと言ったのでここに通させたんだ」
秋也の言葉が耳に入っていないらしい。とくに凛珠は。
「……いつまでもたっているのもなんだろう?とっとと座れ」
秋也が言った。凛珠たちはぎくしゃくとおとなしく座ったが、三人の視線は静覇に釘付けだった。
「それで?私に何の用だ」
その言葉に凛珠たちの表情が引き締まった。
「……『闇夜』と戦いをするために、俺は軍を挙げる。それに対する協力を頼みに来た」
秋也はその言葉に目を見張ったが、淡々とした口調で尋ねる。
「軍を挙げて、その後お前はどうするつもりだ?」
その問いに凛珠は少し間をおいていった。
「俺は……この世界に生きるものたちに安寧をあげるために、国を創り、王となることに決めた」
その眼に宿るはゆるぎなき決意と覚悟。王となった後、何が待ち受けているかを理解し、受け入れた目。秋也はそれを凛珠から見てとった。そして言った。
「それほどの覚悟と決意があるのならば我が紅陽一族のすべてをかけ、協力しよう。わが一族は、お前に従う」
そう言って秋屋は凛珠に対して……最高礼をとった。
「それで、具体的に何をするのかは決めているのか?」
秋也の問いに、千尋は言った。
「まずは、『蒼き鳥』からの全面協力を取り付けていますのでそれをもとに軍を挙げます。その後有志を募り、そしてまずは『闇夜』の手薄なところから攻めるというところです。戦力しだいでどういう戦略をとるかは変わりますので具体的なところは今はさすがに申し上げられませんが」
千尋は……何をすればいいのか、わかっていた。
「ですが、あなた方が加わるとなれば最初から多少強引な手を打つことも可能だと思われます。……一般人の方々と異能者の方の一人当たりの戦力はかなり違いますしね」
確実に千尋は頭の中で戦力分析をし始めているだろう。千尋の頭の中には想定される敵の戦力とこちらの戦力のデータが既に入っているのだ。
「そうか。では、具体的にいつ軍を挙げるかが決まったら教えてくれ。こちらも物資なり資金なりの準備があるからな」
その言葉に凛珠は頷いた。
「では、なるべく早めに通知する。……今日は、話はここまで。俺たちは帰らせてもらう。俺たちは俺たちで準備をしなければならないしな」
そう言って三人は立ち上がり部屋を出て行こうとする時だった。
「燈華はどうしている?」
ずっと黙っていた静覇が尋ねた。
「随分衰弱していたからな。今は医務室のベッドの上。医者連中の話だと、元通りのなるには相当かかるだろうってな。ま、……俺は、お前たちを許さんが」
そういうと凛珠は部屋を出て言った。
「嫌われたみたいだな」
秋也の言葉に静覇は憮然とした様子で返す。
「そうらしい。……あの様子じゃ、こちらが協力するといっても聞かないな」
静覇の言葉に秋也は笑って言った。
「そうかい?彼は自分の感情よりも最善の手を取ると思うけどね」
「そうとは思えんが」
静覇はいった。
「へえ、何故そう思う?」
秋也が尋ねた。
「一度熱くなると周りが見えなくなるタイプだと思うがな」
「それは若さ故ってやつじゃないのかい?くく、若いっていいねぇ」
秋也がおもしろそうに言った。静覇はその言葉に黙った。確かに、凛珠の場合はそうだろう。もう少し年を重ねれば、あるいは。
「……まあ、あいつにかけてみよう。秋也」
静覇は椅子から立ち上がり秋也に声をかけた。
「あいよ」
「お前のほうから凛珠のやつにこちらが協力するという旨を伝えておいてくれ。……自分たちの一族の役目から解き放ってくれた礼だと」
そういうと静覇は部屋から出て行った。一人残された秋也はしばらく考え込んでいたがやがて部屋を出て行った。
Last NAME 閃光の英雄と闇の奏者 第六章 精霊玉 @seireidama
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