君に出会って思うこと

詩渚

一話 〖出会い〗

ここは、もはや戦場だ。教師という敵が、次々と爆弾を投下していく。それを受けまいと、生徒達もそれぞれの持っている知識で、爆弾を壊すなり、避けるなりする。だが進めば進むほど、爆弾というものは重くなり、複雑になる。

「くそっ!何で壊れねぇんだよ!」

「おっさきーっ!」

なかなか先に進めない生徒、次々と爆弾を攻略していく生徒。様々なスタイルがある。

「これは、後でも壊せる!」

難しい爆弾を後回しにして、簡単な爆弾から壊していく生徒もいる。これも、戦略だ。


「な、何あれ……!?」

「こんなの……分かるはずがない!」

最後に待ち構えたのは、最高にデカくて複雑な爆弾。順調にやってきた生徒達でさえ、後ずさりをする。

「解いてやる!」

一人の男子生徒が、自分の目の前にある爆弾に飛びかかった。爆弾を壊すために、試行錯誤を繰り返す。しかし、爆弾はなかなか壊れない。

「何で!?習ったのに……この公式、確かに習ったのに!」

「無茶するな、柴原!」

諦めきった中澤の声に、思わず跪いた。

「ねえ、見てあれ!」

女子生徒が叫んだ。生徒達は、彼女が指差した方を見る。それを見て、柴原は目を丸くした。そこには、爆弾に近づく男子生徒の姿が。そしてその生徒は、黙々と爆弾に向かって、簡単に壊してしまった。そのセンスに、思わず呆気を取られる。

「嘘だろ……?」

「あの問題を、解いた……?」

それは、他の生徒も同じだ。

「ねえ、君……!」

柴原は彼に声をかけた。だが、その男子生徒は振り向くことも無く、さっさと戦場からはけていった。

また、知ることができなかった…。柴原がガックリと肩を落とすと、戦争が終わるチャイムがなった。






「この間のテスト、丸つけしたから返すぞー!」

1年3組の担任である笹野が、たくさんの解答用紙で膨らんでいる封筒をプラプラと降った。軽く言っている笹野とは裏腹に、向かい合わせになっている生徒達には緊張が走る。

「はい、赤西!」

「はい!」

元気よく返事をし、教卓の前に行った赤西。

「お前にしては、いい点数を採れたようだな。しかし!こんな点数で満足するなよ。」

頭を思い切り鷲掴みされた赤西は、照れくさそうに席へと戻った。

「どんどん呼ぶぞ!はい、粟野!」

「はい!」


「はい、柴原!」

「はい!」

柴原春馬が教卓に行くと、笹野はニッコリ笑った。

「お前は優秀だ。この次も、この調子で結果を残すように!以上!」

「ありがとうございます。」

柴原がそう言って頭を下げると、周りの生徒は一斉に拍手をした。当然のことをした…柴原は、そう思った。






クラスで一番の成績を収めた柴原の周りには、女子生徒が湧いていた。

「春馬くん、ホンット凄いよね!だって、94点だよ!?他の教科も、ほぼ90点代じゃん!」

「90点代じゃないとしても、他80点代じゃん!絶対将来、エリートになるよ!!」

そんな女子生徒達を見て、柴原は思っていた。

当たり前だろう?だって、僕には才能があるから。

すると、廊下から隣のクラスの女子生徒が叫ぶ。

「みんな!王子様が来たよー。」

その言葉に女子生徒達は目を輝かせ、足早に出ていった。

女子生徒達がはけると、今度は男子生徒達が柴原の周りに湧いた。

「相変わらずモテモテですねー、柴原君は。」

中澤が嫌味っぽく言った。

「お前、それで顔までよかったら、本当に大変なことになってたよ?」

「……それじゃあまるで、僕の顔が良くないみたいじゃないか。」

赤西の言葉に、柴原は噛み付いた。


柴原春馬 高校一年生。学年上位の成績を誇る優等生である。頭のいい柴原は、特別顔がイケメンで無くても、女子からモテモテである。

そんな柴原が一番に誇りに思っているものは、〝両親〟である。彼の両親は、俗に言うエリートである。医者とカフェの看板娘である女性から生まれた彼は、いつでも自信をたっぷり持っている。


「なあ、柴原!カラオケ行こうぜ!」

「赤西……君は、カラオケに行ってる場合なのかい?」

「悲しいこと言うなよ、柴原~。」

「そもそも赤西。君は、採れる点数を…。」

「また始まったよ。柴原の説教!」

放課後、そんな馬鹿みたいなことを言いながら、中澤や赤西と外を歩く柴原。

廊下に出た瞬間、異様な臭いがする。

「なあ、なんか臭くね?雑巾みたいな臭い。」

赤西がそう呟いた直後、柴原の背中に誰かがぶつかった。

「うわっ!」

柴原は、思わずよろけてしまった。ぶつかってきた主も、前のめりによろける。

「君、大丈夫?!」

柴原が心配して駆け寄ると、彼は何も言わずに見つめてから、さっさと歩いていってしまった。そんな彼の背中を見て、中澤がため息をついた。

「なんだよアイツ。ごめんくらい、言えばいいのに。つーかアイツだよ!くせぇの!」

確かに、彼の通った後に臭いが充満した。しかし、柴原には彼の背中が悲しそうに見えた。

「アイツ?」

彼を知らない柴原が、中澤に訊ねた。

「蒼汰だよ。斎賀蒼汰!」

「……え!?」

柴原は、駆け出した。何故なら彼は、柴原が最も追いかけていた存在だからだ。

中澤と赤西は、柴原が斎賀を追いかけている理由が分からなかった。

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