月夜の帰還

無人駅で降りるひとつの人影

出迎えるものも居ない構内

だけど月は待っていた

灯りひとつない田舎の田園風景

歩いていくひとつの影


どうにもならなかったから帰ってきた

ここに望むものが在るとは思っていない

ただ、ここが最後の場所だった

生まれ育ちそして拒否した場所

懐かしい思い出だけが彼を支えている


変わらない町並み

いや、もう随分と変わっているのか

暗闇に溶けて正しい景色も分からない

自分の記憶だけを頼りに歩いていく


相変わらずだなあ 月よ

お前だけだよ いつも見守ってくれたのは

人はいつだって自分の事ばかり

おいらもようやくそれが身に染みたよ


前もよく見えない暗がりで

月の淡い光だけが頼りで

どうやら何とか辿り着いた

生まれ育ったこの家へ

まるで何もかも変わってないように思える


電気の付いていない扉をたたく

今更受け入れて貰おうなんて思わない

もうこの場所しか残されていないから

何を言われても黙って受け入れようと


顔を出した年老いた両親の目には

溢れんばかりの涙が頬を伝っていた

どれほど心配させていたのだろう

どれほど迷惑させていたのだろう


小さな田舎の小さな物語

まだ物語は始まったばかり

月は見ていた

月だけが優しく見守っていた

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