第88話:「落ち」の型あれこれ

よくある「落ち」の型をいくつか挙げてみよう。



・語り手型 


実は語り手が◎◎だった! というもの。


これはカクヨムでもよく見かけるし、変わった対象を見つければすぐに書けそうな、手ごろな感じもある。


しかし、なかなかそれを最後に明かして「落ち」ですよというのは……、それをスパッと決めるのは難しい。


発展1.語り手が途中で◎◎だと推測される(ミスリード)、しかし実は△△だった! ……と、このように二重性くらいを持たせないとまずいかもしれない。


発展2.語り手が◎◎なはずだが、まるで別の語り手△△であるかのように話が進み、しかも◇◇として着地する。 ……と、このように捻りに捻りを足さないと、間がもたないかもしれない。


発展3.語り手が◎◎であるとすぐに分かり、◎◎ならではの論理や感性の延長線上に意外なヴィジョン、構想、目的、手段が最終的に浮かび上がる。このくらいが、まあまあ、そこそこ「引き分け」くらいには持ち込めそうな線ではないだろうか。




・由来話型 


話の最後で、有名な何かの由来・来歴の源流になるようなエピソードであったと判明する。

これは落語でよくある。

自分はこれがメッチャ好きなので、現実の世界の偉人のエピソードに結び付けたり、漫画の設定や登場人物に結び付けたり、色々とやっている。

途中が大ウソで出鱈目でも、何となくすっきりとまとまる(気がする)。


よく考えると「竹取物語」の最後もこのパターンである。




・ループ型  


空間上や理屈上の前進が、結果として最初に戻るようなタイプ。あるいは、場面がグルッと一周して、冒頭に出て来たセリフになる、というだけでもいい。


この種の終わり方は掌編に特有のもので、星新一の有名な作品をいくつか読めば、それでほぼその先はなく終わりのはずだが、あれこれと今でも書かれている。




・ダジャレ型 


落語的なやつ。

最後の一行がダジャレ、というのは喜ぶ人は喜ぶが、あまりお勧めできない。


自分は少し発展させて「クラリネット→カラリネット、キラリネット、ケラリネット」と言った調子で延々と続けたことがある。それも一種のダジャレのようなものか。


筒井康隆のショートショートで「男の中の男でございます」というのがあったが、ダジャレ以外でも「うまいフレーズ」を上手に入れすぎると、悪い意味で妙に落語っぽくなってしまう。




・真相型 


ミステリ的にきれいに真相が提示される。謎と解決型。これは短く書きすぎると推理クイズになるし、長めに書くと結末に物足りなさが残る。


「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」の中に、家族の持ち物がどんどん消えてしまう話があって、これなどは理想的な「短さと結末のバランス」がとれている。




・価値観や視点の変転型


価値観や、もっと平易に言うと「ものの見方」が変わること、物事を見直すことが鍵になるような結末を指す。


これはアーサー・ポージスの「1ドル98セント」という有名な作品がある。しかし、こういう内容ですよ! と詳しく紹介は出来ないので、気になる人は探して下さい。




他にもあるかもしれないが「落ち」をつけようと試みているだけまだ良い方で、ショートショート・掌編に限らず、短編の最も多い結末は「特に何もない」ではないかと考えている。


幽霊のようなものが見えてしまう! → 特に理由や謎の解明はなく、ふわっと終わる


昔、こんなことがあったっけなあ → だから何? と言いたくなるスレスレで教訓や因果応報的な意味をやや残しつつ、ふわっと終わる


娘の結婚式で感慨深げな父親……。→ 特に何らかの秘密が明らかにもならず、ふわっと終わる


娘の結婚式だが、実は父親の正体は……。→ 思わせぶりに引っ張って、多少のほのめかしでふわっと終わる



ふわっと終わってばっかり……、これが私の考える標準的な、落ちの無い、特に何もない終わり方である。


作文の授業や創作講座では、この型を意識して、まずはふわっと終わらせる書き方を教えるべきではないか? と、逆説的に思うほどである。




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