第41話:毎日新聞の人生相談から

「8年間、公私ともにパートナーだった人に新しく良い人ができました。仕事はそのままで、と言われて続けています。彼との時間は今も大切ですが、彼が他の人を大事にしていることは、とてもつらいし切ないです。仕事は芸術系で、2人だから創り上げてこられたもので、すぐにはやめません。でも、寂しさを胸に仕事に向かい、次のプライベートの相手をみつけるのは何だか違う気がするのです。(47歳・女性)」


 という相談である。


 返答を全部引用するのはさすがに躊躇われるので、二箇所のみ、少し引用する。



「若さを、美しさを、健康を、感覚の鋭さを、あなたは失ってゆくでしょう。では、それは、耐えられない苦しみしか生まないのでしょうか。そうではないことをあなたは知っているはずですね。」


「一枚の絵、一つの曲、一篇(いっぺん)の詩、一冊の小説、どれも作り手たちが、何かを失うこととひきかえに作り出されたものばかりです。喝采を受けず、冷たく無視されても、作り手たちは後悔しないでしょう。なぜなら、作り出すこと自体が、彼ら自身への幸せな贈り物でもあることを知っているからです。あなたもまた、ずっと前からその世界の住人だったではありませんか。」



「作り出すこと自体」が「自身への贈り物」という観点は、大抵の創作指南書ではもはや触れられていない。


 ちなみにこの回答者は高橋源一郎である。


 https://mainichi.jp/articles/20171030/ddm/013/070/016000c



 これと並べてみたい文章が、金井美恵子の「カストロの尻」収録のある短編の最後の一文にあって、それは、


(きみの言うように、これは、どこから読んでも、どこでページを閉じても、いつでも友達に話しかけられているような、本ですね。)


 というもの。


 小説や文章とは、自分自身への「贈り物」として書かれてもよいもので、同時に「いつでも友達に話しかけられているような本」であることもできる。

 そのような可能性を常に忘れずにいたい。

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