第19話 三人の笑顔

〜学校、校長室〜


 ナチュラル・ビジョンの天井の下、パー校長が椅子に座らず部屋の中をうろついていた。


パー「果心様は何故メルの事を気にかけておるのだろう?」

  

 パー校長の脳裏に浮かぶのは少し前の事だ。

 

 ~回想~


果心「メルが早退した?」

パー「ええ、そのようです。

 どうしましょうか?」


果心は人差し指をくわえて少し考えた後、


果心「いえ、大丈夫です。

 それより、少しお願いがあるのですが」

パー「はい」

果心「午後から少し生徒をお借りしてよろしいでしょうか?

 少し、保険の為に必要なのです」

パー「何だ、そんな事・・。

 いいですよ、ご自由にどうぞ」

果心「ありがとう」


 ~回想終了~


パー「分かりません。果心様は一体何をするつもりなのか・・。

 しかし、このK・K・パーはいつまでも果心様について行きますぞ!」


 齢八十を越えた老人はフッと笑った。

 皺だらけの顔をニヤリと歪ませて。

 老人は楽しそうに笑った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 メルヘン・メロディ・ゴート、通称メルは目をパチリと開けた。


メル「あ、あれ?どこ、ここ?」


 そして青い瞳で辺りを見渡す。

 茶色い土に赤黒い空以外には何も無い。  

 まるで地獄に来たような感覚をメルは覚えて、そして理解した。


メル「これは・・夢か。

 そっか、僕、さっき日にやられて気を失ったんだ。それで今夢を見てるんだな」


 そんな景色を眺めているうちに、これは夢だと納得するメル。

 先ほどまで住宅街を歩いていた自分が何故こんな寂しい所で突っ立っていないといけないのだろう。

 夢ならさっさと覚めて欲しい・・。


ズドオオオン!!


 突如メルの後ろで何かが爆発した。

 急いで振り返ると、そこには何か大きな物体が落ちたような穴が現れていた。


メル「さっきまでこんなの無かったよね? 一体何が」


ヒュルルルルルルルル


 何かが落ちる音が聞こえる。

 メルが見上げると、何かとてつもないモノがこちら目掛けて突っ込んで来た。


メル「え」


ドガアアアアアアン!!


 それはメルの手前に落ち、強力な爆音と爆発がメルを襲う。


メル「うわああああああ!!!

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・あれ?」


 メルは思わず大声を出したが、やがて異変に気づいた。

 熱くないのだ。痛みも衝撃も感じない。  

 それどころか、あれだけの強力な爆発にも関わらず自分は一歩も動いていない。


メル「何ともない?

 夢だからか?いや、それにしてはリアル過ぎるが・・」


 夢とは言えこのまま突っ立っているだけでは何も起きない。

 メルは軽い気持ちで歩き出した。

 すると今までの緊張が嘘のように体がフワリと浮き始める。

 メルが一歩歩くだけで3メートル程飛び上がる メルは初めキョトンとして自分の体を見ると、あることに気がつく。

 自分の体が半透明に透けているのだ。


メル「ハハッ、そうか、これはやっぱり夢だ。 体がフワフワと浮いているし、透けてるもの」


 メルが一歩歩く度に体がフワフワと浮き上がり、まるでトランポリンの上を歩いているような感じがして、メルはだんだん楽しくなって来た。


メル「ハハッ、凄いや。

 何処までも行けそうだぞ」


 金髪の少年は楽しそうに、ハハハと笑った。 そしてしばらく夢を楽しもうと決める。

 軽い体はフワフワと浮かび、本当に何処までも行けそうだった。



◆   ◆



ピンク色の布団の上でメルは静かに寝ていた。そのメルの額に冷たいタオルが置かれる。



スス「これで良しっと」

黒山羊『大丈夫?』


 ススがメルの応急処置を終えたその頃、黒山羊が様子を見にきた。

 あの後廊下から寝室に移したのはいいが、  

 メルが目を覚ます様子は一向にない。


スス「・・脈も呼吸も安定してる。

 しばらくここで安静にしていれば目を覚ます筈よ。

 とりあえずは安心していいわ」

黒山羊『・・安心・・』


 黒山羊は楕円形の瞳をパチクリとさせてこちらを見る。

 いくら相手がロボットとは言え、

 上半身裸の山羊男が女性の顔を見つめるのは非常にシュールなだ。

 ススは目を背けたかったが、それをすることの方が嫌だった。

 ススは根本的に逃げる、という選択肢を選ぶのが苦手なのだ。


スス「・・何かしら?」

黒山羊『意外。 超意外』


 ススが、冷えた声で話しかけるのに関わらず、黒山羊は見つめてくる。


黒山羊『貴様、何故、医術習得?』

スス「・・ああ、そっちね」


ススはガクッと肩を落とした。


スス(てっきり、何で助けたんだーとか面倒な事を聞かれるのかと思ったわ)

黒山羊『何?』

スス「何でもないわ。

 それよりその質問の答えだけど、」


 ススは一歩黒山羊から離れる。

 ススにとって、この話題は心の準備が必要なのだ。


スス「学校で医術を叩き込まれたからよ」

黒山羊『学校?医術学校?』


 黒山羊は右に頭を傾げる。

 ススは軽く頭をかいた後、話を続けた。


スス「あー・・

 違うわ。天才から見れば戦闘訓練所って呼ばれてる所。

 長いから私達は『学校』って呼んでるけどね。」

黒山羊『戦闘訓練所?私達?』


黒山羊は左に頭を傾げる。

ススはそんな黒山羊を見つめ、フッと笑った。


スス(やはりロボットね。

 半世紀も続いた戦争の事をあまり理解してないなんて・・)


 それは図らずもススにとって好都合だった。

 戦争を知っている人が同じ事を聞けば、絶対そんな表情はしない。


スス(どうせメルヘン君が覚めるまで暇だし、黒山羊も私を襲う気無さそうだし、少しここでくっちゃべるとしますか。

 何も知らずに事を起こすのも、気が引けるしね)

スス「あなた、どうやら戦争の事も理解してないみたいね」

黒山羊『戦争??

 貴様、一体?

 我、話、理解不能』


 黒山羊は首をカックンカックン揺らす。

 ススはクスッと笑った。


スス「それじゃ、分からないアナタの為に授業してあげる。半世紀も続き、終焉した戦争について」


褐色の少女は楽しそうに、クスリと笑った。

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