第5話 かの罪の名前は『暴食』

ゴブリンズアジト コンピュータールーム


 アイとルトーはUSBをパソコンに取り付け、データを開いていた。



アイ「さて、開けてみるぞ!」

ルトー「何が出てくるかな?」

ルトー「六十年前のUSBでもまだ使えるんだね」

アイ「会社が厳重に保管していたからな。

さあ、ついにGチップの手掛かりの手掛かりが見られるぞ」

ルトー「早く早く!」

アイ「焦るな焦るな」(さあ今切符を改札口に入れるぞ。 何が来ても俺は必ず……!)


 アイははやる気持ちを抑え、銀色の義手でマウスを操作し、画面の中の矢印を動かしてフォルダボタンを開く。

 少しの間、画面に「DOWNLOAD」と映った後、「トオル研究所日記」というタイトルが映った。

 トオルはGチップ開発者の名前だ。


アイ「うし!」

ルトー「やったッス!」


 だがすぐに画面が切り替わり、 可愛らしい女の子の映像が映し出される。


『ニバリちゃんの三分クッキング〜!』



アイ「何これ?」

ニバリ『この番組はニバリちゃんが三分間の間においしい料理を作るんだよ!!』


 二人の疑問に画面の向こうの女の子が答える。 ルトーはアイをじろっと睨み付ける。


ルトー「もしかしてハズレ?」

アイ「う〜ん、そんな筈ないと思うが。

情報会社の秘密データだぞ」

ニバリ『なお、トオル研究所日記はニバリちゃんの番組の後にやるよ!

その時に今回の料理を題材にした問題が出るから、しっかりチェックしてね!!』


ルトー「なるほど、この番組はパスワードを解く為の鍵なんだ。」

アイ「これは見ないと大変だな。いやーハズレじゃない、よな。うん」

ルトー「バカリーダー・・」


ニバリ『さあさあテレビの前の皆さん、よぉく見てね!

 今回の料理はぁ…』


そういうとニバリは後ろに下がり、都合良く置いてあった椅子に腰かける。


ニバリ『人間一人フルコース!!』

ルトー「は?」


 ジャジャーンというBGMと共にニバリの前に海パン一丁の男性が歩いて来た。

 だがその男の口はタオルで縛られ、目は糸で縫い付けられている。

 その異様な男を、ニバリはにこにこ笑いながら話を続ける。


ニバリ『この人を料理しま〜す!

シェフ〜!』


 そういって画面に出て来たのはコックの服を来たマスクで顔を覆った男性だ。

 だが白い服の腹の部分は血で赤く染まり、マスクから覗く目は血走っている。

どう見ても正気の人間のそれではない。

そして右手には2メートルはある大きな包丁。


ニバリ『さあシェフ!

この人を』


ブツン!!


急に画面が暗くなり、何も映らなくなった。

 この後何が起こるのか理解した ルトーが、パソコンの電源を強制的に切ったのだ。


アイ「あ……ルトー!」

ルトー「無理。

僕これ無理!!

人肉は無理!!」

アイ「ルトー!そこをどくんだ!」

ルトー「無理だよ!あんな恐そうな映像僕は無理!」

アイ「気持ちは分かるが消しちゃダメだ!

大丈夫、落ち着いて見れば大丈夫だ!

 いや、見ないなら俺一人で見るから!

 だからもう一度・・」

ルトー「駄目ったらダメ!!」


 ルトーはついに駄々っ子のように首をぶんぶんと横に降り否定する。

 一瞬、アイは自分一人で映像を見ようかと思ったが彼はパソコンの使い方を知らない。

 アイは怒りを抑えて溜め息をついた後、ドカッとルトーの近くに座り込む。


アイ「ルトー」

ルトー「……!」(ぶんぶん)


 ルトーは目をきつく閉ざして必死に首を横に降る。

 アイはもう一度声をかける。


アイ「ルトー。

これが見えるか?」


 ルトーはしばらく目を閉じていたが、そっと目を開ける。

 そこにはアイの両腕があった。

 銀色の金属で出来た義腕が。


ルトー「!」

アイ「どうして両腕を失ったか、知ってるよな」

ルトー「戦争・・」


 答えるルトーの声は、とても小さかった。

 アイはルトーを真っ直ぐ見たまま話を続ける。


アイ「そうだ。少し前まで能力者と天才の間で起きた戦争が原因でこの両腕を失った。

 戦争の理由は天才と能力者からの差別が理由だが、そもそも天才と能力者なんて区別を作ったのはGチップだ」


 アイは右手を握りしめる。強く強くにぎりしめる。しかしその腕にわずかな痛みもなく、金属が擦れる音が響くだけだ。


アイ「Gチップはナノサイズの小さなチップだ。

そんなクズみたいなチップの為に人間同士が半世紀以上も戦争し、俺は両腕を失った。

 戦争は終わったが、 この先の未来で待っているのはGチップに頼った人間達の時代になる。

 『未来を創る』名目でGチップに頼った人間が鬼のように暴れる時代。

俺はそんな時代を見るのは嫌なんだ」


 アイは右腕を開き、ゆっくりとルトーの肩に近づける。 ルトーは震える事なく、アイの右腕をただ見続けていた。


アイ「だから俺はGチップの設計図を見つけ、消去させたい。

二度とGチップなんてゴミに頼らない時代を創りたいんだ」


そして、ガッシリとルトーの肩を掴んだ。


ルトー「!」

アイ「どうして俺がこんなにGチップの設計図を求めてるか、分かったかルトー」

ルトー「……」


 ルトーは静かに頷き、アイは軽く笑みを浮かべる。それからルトーと一緒に立ち上がった。


アイ「よし!じゃあもう一度見る」

「何をしてるの?」


 アイのセリフに誰かが割って入る。

 二人が見ると部屋の入り口にシティ、ダンク、ススが立っていた。


ダンク「おいおい、何語ってるんだアイ?」

スス「私達に黙って、楽しそうなの見てるじゃない」

シティ「私はスリルサスペンス好きなのよ!」

アイ「お前ら・・」

スス「リーダー、私達はあんたについていくわ!だから一緒に見せて!」

アイ「ふ、悪戯好きな悪ガキどもが。

 将来、苦労するだろうな」



 こうしてゴブリンズは動き出し、全員がパソコンを見始める。

 そして、数十分後。


ニバリ『せいかーい!

貴方は日記を閲覧する事が出来まーす』


 パソコンの画面の中で可愛らしい女の子が楽しそうに喜んでいる。

 それを椅子に座って見ていた女性も同じ様に楽しそうに笑った。


シティ「やった、正解だわ。

楽しかったー!

でも残念、これであの映像は見れないのね。

また見たかったなー」

アイ「…………………お前な……………」


 椅子の後ろからアイが立ち上がる。

 顔色は真っ青で生気がない。


アイ「自分で見ようぜ言いながらいうのもなんだがな・・。

 よくあんな残酷映像を楽しそうに眺められたな!周りを見ろよ!」

シティ「え?」


シティが周囲を見渡すと、生気を無くし体育座りをしながらブツブツと喋る、 ほとんど死者に成り果てたススとルトーの姿があった。

 ダンクに至っては「人間怖い、人間怖い」とぶつぶつ呟きながら部屋の隅で ガタガタ震えていた。


シティ「情けないわねー。この程度のスプラッタ映像で…」

アイ「俺はあんたが恐ろしいよ。

 いや、自分で見ようって言ったんだけどさ・・・」

シティ「そんな事より、日記を閲覧出来るわ。

見ましょうよ」


 アイはシティにもう一言いいたかったが、結局は日記の方を優先した。


アイ「日記のページ…あれ?

一日しか日記が書いてないぞ?」

シティ「見てみましょう」


 マウスをクリックすると、日記が開いた。

 そして、アイとシティは内容を見た。

 一文一句、見忘れないよう必死に見た。

そして見終わると、アイはたった一言呟く。

 その一言しか、感想を言えなかった。


アイ「・・これは・・日記じゃない」


 アイが見た内容は、以下の通りである。





 私はここにある真実を書こうと思う。

 理由は私の罪深い毎日を書くためでも、罪深い毎日に贖罪するためでもない。

 私の空腹をほんの僅かでも満たす為だ。

 私は罪を食べたのだ、もう他の物を口に入れる事は出来ない。

 私の罪は人を食べた……暴食の罪だ。

 私は人を騙した……ペテンの罪だ。

 更に、私は未来ある全人類を騙し食した。

 もはや私が許される事は地獄に堕ちても永遠にないだろう。

 私は友人であり私の罪の最初の被害者である、オーケストラ・メロディ・ゴートをその口で騙し、彼の発明したGチップを私の物として発表した。

 そして全人類は『私』の発明したGチップなおかげで進化した。

 そして皆、私を讃えるようになった。

 私は有名人になれた訳だ。

 だが、違う!

 これは私の発明ではない!

 私の『口』が嘘を言ったのだ!

 私は悪くない!

 もう数日、水も食事も口にしてはいない。

食欲が、生きたいという意思が私を襲うが、私はこれに操られる事はない。

 何故ならこれは私の口の罰なのだ。

私の口はもう開かない。 開かせてたまるものか。

 例えこの身が朽ち果て、

 この魂が地獄に堕ち、

 他人や親しい者が慟哭や阿鼻叫喚の悲鳴を幾ら上げても、

 この私の口が開く事は、永遠にない。

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