バレンタインデー×勇気

 決意してからというもの、彼を目で追うだけではなく話しかけられるようになりました。恋する乙女は強い、だなんて漫画かドラマの世界だけの話だと私には関係のない話だと思っていましたが、この世界も捨てたものではないのでしょうね。


 だからといって彼との仲が狭まっているわけではなく、私は焦っていました。ただでさえ、映画部長が彼と仲良さそうに話しているところを見かけるのに、春になってしまえば、私たちは2年生になりもちろん後輩である1年生も入ってきます。

 つまり、彼を見染めてしまう可能性のある後輩が入ってきてしまうのです。私のように一目惚れという可能性ですらあるので油断はできません。


 春休み明けの入学式までに何か話しかける以上の行動を起こさなくてはならず、私にはハードルが高すぎるように感じてしまい、どうすることもできずにいました。


 時の流れは残酷な物であり、刻一刻自身で定めた期限が迫ってきているのです。それに怯える私はなんと滑稽なことでしょうか。


 2月に入ったとき部長に言われて思い出しましたが、2月14日はバレンタインデーです。そのときに彼にチョコを渡すことで彼も私のことを意識するようになるという算段を立てましたが、それは算段にしか過ぎず、冬の雪山になんとなく登ろうとしているようなものでした。

 雪山は登り始めるのは簡単ですが登り切るのは難しく、幸いにも料理は苦手ではないのでチョコを作るのは簡単でしたが渡すことはとても難しいものでした。


 私は顔を耳から首まで、最早手渡しする手まで真っ赤にしてチョコを渡しました。その際、何を言ってしまったのか、それは記憶にありませんがきっと碌なことではないでしょう。

 彼は渡されたチョコの味を気に入ってくれたでしょうか。彼は渡されたチョコを迷惑がってはいなかったでしょうか。彼は渡されたチョコを喜んでくれたでしょうか。



 渡すことができた以上を望むべくもないですが、どうしても考えてしまいます。彼は……私のことを意識してくれたでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る