第58話 決断
「ふむ、洋刀の妖刀が存在するのであればちょっと今後厄介な事になりそうですね」
あれから3日後にイオリ達は、イチジョウの街からネネの妹カスミを連れて小村丸先生の屋敷に戻って来ていた。
それで事の経緯を報告したのだが小村丸先生は難しい顔をして考え込んでしまったのだ。
「先生、何で洋刀がそんなに気になるんですか?」
イオリは、小村丸が懸念している本質を計り兼ねていた。
「いえ、洋刀がそんなに心配な訳ではないのですよ。私が心配しているのは、むしろその使い手の存在なのです」
イオリは、小村丸先生が何を言わんとしているかようやく理解した。
「先生、それでは武帝が抱えている妖刀使いの人数がどれ程なのか分からないと言う事なんですね」
「そうですイオリ殿、我々が武帝に相対する為には、正直あまりに脆弱だと言わざるを得ません。しかも宮中での不穏な動きを無視する訳にもいかないでしょう」
そう言って小村丸は、眉間に皺を寄せた。手詰まりの感がこの場に流れた。
「やります!」
誰だっ! いや、ミツキしかいないよね
「おいっ、ミツキ、お前状況分かってんのか」
「分かってるよイオリ、でもあたしは、酷い目にあってる人を見過ごせ無いんだよ」
ミツキが言い出したら決して引かない事をイオリは知っていた。人の命に関わるなら尚更だ。イオリは、ぶれない意志を持つミツキを時に眩しく感じるのだ。
「ふうっ、やれやれ、お前俺が嫌だって言ったらどうするんだよ」
「イオリは、嫌だって言わないよ」
ミツキは、満面の笑みを浮かべた。
どうにも敵わないようだ……
小村丸先生も困った顔をしていた。
ミツキは母であるキリハの血を深く受け継いでいるのだろう。
「先生、何か方策はないんですか」
眼を閉じて考え込んでいた小村丸は、意を決したようにイオリを見据えた。
「私は、十霊仙になります」
「せ、先生、よろしいのですか、あんなに避けていらっしゃったのに」
クダンが、思わず口を開いた。
小村丸は、組織に身を置く事を嫌っていた。そもそも宮中から離れたのもそう言った理由なのだが天才とは、自由を望む物なのだろうか。
「構いませんよ。気ままな生活にも少し飽きてきていたところです。それより今は十霊仙の力を借りる事にしましょう」
クダンには、小村丸の気持ちが良くわかっているのだ。
「承知しました、では準備を進めましょう」
「しかし、そんなに簡単に十霊仙になれるもんなんですか?」
イオリは、素朴な疑問を口にした。
「大丈夫です。今の私の霊力ランキングは第2位だそうですから」
確か現存する十霊仙は高齢の為、力が衰えていると小村丸先生が言っていた事があったが、それにしても第2位とは……
イオリは小村丸と言う男の底知れぬ才に畏敬の念を抱いた。
「先生が2位だと言うことは、もしや1位は……」
「そうです。兄オビトは、十霊仙から外されていますので今の1位は、武帝セツナなのですよ」
" 武帝セツナ "
街をひとつ消し去る事が出来る程の力を秘めた霊界師をイオリ達は、相手にしなければならないのだ。
「ど、どうしよう、イオリっ」
さすがのミツキも動揺を隠せない様子だ。
「あたし、まだ昼ご飯食べてないよ」
「そっちかよ!」
ひとまず、方向性は固まった。
イオリは、未だ見ぬ武帝に、ミツキはお昼ご飯にそれぞれ想いを馳せるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます