第59話 魔剣

 メイデンには、霊力研鑽会の本部がある。そして十霊仙の1人武帝たけみかどセツナがいると予想されていた。


 各地に広がった支部は30箇所を超え、相当な数の門下生を抱えていた。


「霊力研鑽会の門下生は、数が多いとしても戦力としてはそれ程でもないでしょう。厄介なのは影との繋がりがある事なのです」


 小村丸は、その為に十霊仙となり組織の力を借りようとしているのだ。本人としては望ましい事ではないのだが今回の件では相応の覚悟が必要なのだ。


「影と妖刀使いに対抗する戦力は、期待出来るんですか、先生」

 イオリは、出来る事ならユリネを巻き込みたくなかったのだ、生き死にを掛けることになるであろうこの戦いに


「それはまだ、はっきりしませんが妖刀使いと渡り合える者がそうそういる訳が無いとは思っています。飛び抜けた力を持つ霊界師若しくはイオリ殿のような妖刀使い、それ以外では……」


 小村丸は、少し躊躇ったように間を開けたがやがて口を開いた。


「魔剣の一族ならあるいは妖刀と渡り合えるかも知れません」


「魔剣ですか? それは妖刀とは違う物なんですか」

 イオリの質問に小村丸は、自身の解釈を踏まえて答えた。


「妖刀に関してはイオリ殿も良く知っているかと思うのですが魔剣に関しては知られていない事も多く、伝説若しくは神の剣に値する物だと思って下さい。製作者は不確かで魔剣の一族は、その剣を代々守る事を使命としているのです。神器と呼ばれるこの剣は主に神社に祀られているのが通例と考えられますがそれ故に使い手は、ほぼ存在しないと言えるでしょう」


 小村丸の言葉にイオリは一瞬ユリネの事を思い浮かべたのだが流石に考え過ぎだと思いそれを振り払った。


「わかりました先生、魔剣の使い手が現れるのは難しい様ですね。だったら先のふたつの可能性に絞って考えましょう」


 イオリは、先程の自身の考えを消し去るように、そう答えた……



 メイデンへの潜入は、少し先送りにしてまず体制を整える事が先決との判断に纏まった。



 ◆◇◆◇


 数日後、準備の整った小村丸は、十霊仙の本部のある帝都に向かうことになった。勿論、転送術をフル活用するつもりだ。今回は、イオリと数人の門下生が同行する事になった。


 この流れに不満を抱く者はいなかった、ただ一人を除いて……


「なんであたしが置いてきぼりなの!」

 激おこなのは勿論ミツキであった。


 イオリは、やれやれとばかりにミツキの両肩を掴んだ。驚くミツキ


「なあ、ミツキ、お前がここを離れたら誰がみんなを守るんだ。クダンさん一人で凌げない程の敵が現れたらこの屋敷は壊滅するかもしれないんだぞ。そうなったらきっとクダンさんが恨んで化けて出るぞ!」


 ミツキは、ハッとしてクダンを見た。

 クダンは手を前に垂れて幽霊の格好をした。


「えええっ!」

 ミツキの顔色が変わった。怪談話は、ミツキの弱点なのだ。


「それに、お前の事信用して残ってもらうんだからな」


「わ、わかったよ、わかったからクダンさん、その手やめてよー」


 流石のミツキも今回は、諦めざるを得なかった。クダンが懐に用意していた三角の額紙を使う必要もなかったのだ。


「さあ、先生転送術を……って早っ」

 イオリが言い終わらぬ内に転送陣は完成した。


「ふふふっ、こう見えても十霊仙候補なのですよ、私は」

 小村丸は、何処までも底の知れない男だった。

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