第53話 名案

「曲者だーーっ、であえ、であえーーっ」

 イオリが大声で叫ぶとわらわらと門下生が飛び出して来た。

 もとよりこの支部を殲滅させるつもりなのだからこの方が手取り早いのだ。


 ユリネは、出て来た門下生達を素早く戦闘不能にしていく、反撃の隙すら与えなかった。


「これ程の腕前とは……」

 クダンは、あきれた様に感心していた。


 ユリネの剣『アオハネ』が振られる度にカマイタチの様な斬撃が飛び門下生達が倒れていく、高速の秘剣" 霧風 "によるものだ。



「クダンさん、ユリネは俺と違って天才なんですよ、俺達の役目は無いかも知れませんね」


「いや、そうでも無さそうですよ、強い霊力を3つ程感じますので」


「!?」「まさかここにも妖刀が……」


「わかりませんが、その可能性は、充分にあります、ご用心なされ」


 と女装した姿で言われても困るんですけど


 ドンとした重厚な威圧感と共にひとりの剣士が俺達の前に立ちはだかった。その出で立ちは剣士と言うよりむしろ鎧武者だった。鎧武者は、長槍をクルクル回した後、俺達の前に突き出す様な形でピタリと止めた。


「やぁやぁ、我こそは、西国一の槍の使い手にして白樺流を極めし者、白樺新右衛門なり」

 白樺と言う男は、恥ずかしげも無くご大層な名乗りを上げたのだが白樺流を極めた白樺さんと言う事は、我流に違いない。



「ならば、私がお相手致しましょう」

 クダンが、ずいと前に出て白樺に向き合った。どこに隠していたのやら、いつの間にか手に槍を構えていた。


「お、女か、いや婦女子といえど手加減する訳には参りませんぞ、それでも宜しいですかな」


 白樺の言葉にクダンは、身に付けていたカツラや着物を脱ぎ去った。顔だけが、オシロイを残す様子は、まるでビジュアル系の様だ。


「な、なんと、騙したなあーーっ」

 白樺は、怒り心頭に達し槍で床をゴンゴン鳴らした。


「まあそう怒る事も無いでしょう。宍戸真槍流免許皆伝 クダンがお相手致す」


 イオリは、正直驚いていた。クダンの腕が立つことは、知っていたが、まさか流派を極めていたとは思わなかったのだ。


「ユリネ、ここはクダンさんに任せよう。俺達は、奥に向かうとしようぜ」


「はい、わかりました。クダン様ご武運を」


 イオリとユリネが、奥に向かう途中、既に粗方倒してしまったのか門下生と出会う事はなかった。であれば先を急ぐ事も無いだろう。ふたりは立ち止まって気配を伺った。


「なあ、ユリネ、どっちにする」


 廊下は、左右に分かれていた為、二手に分かれて行動しようとのイオリの提案だった。


「ふふっ、聞くまでもないでしょう」


「だよな! よし行くぞ」


 ふたりが駆け出した瞬間、ガツンと強い衝撃を受けた。そしてそのまま狭い廊下で折り重なるように倒れ込んだのだ


 イオリは、意図せずユリネを押し倒したような体制になった。


「ななななっ、何をするのですかあぁ!」

 真っ赤な顔をしたユリネの繰り出したストレートは、イオリの顔面を捉え体ごと弾き飛ばした。


 イオリの鼻からは、だらだらと血がたれ流れている。


「いてててっ、なんでユリネも同じ方向に移動してるんだよ」


「な、何をおっしゃいますか! イオリ様こそ、どうして左に……あと、鼻血が出てますよ」


「お前のせいだろうがあぁぁぁぁっ!」


 悪いと思ったのかユリネは、ハンカチを取り出しイオリの鼻血を拭った。大人しく鼻血を拭いて貰っている、その様子は、どこか悪ガキのようにも見えた。


 敵の霊力は、廊下の左右からそれぞれ感じられるのだが、ふたりは、気付いていたのだ。ラスボスは、左の廊下の奥にいる事を……

 そして似た者同士なのだろう、より強者に惹かれるやっかいな性分だった。


「わかった。一緒に行こうか、ユリネ」


「し、しかし、それではあと1人の敵はどうしますか?」


 イオリは、ニヤリと笑った。


「いい考えが、あるんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る