第51話 作戦
「さて、どうしてこうなった?」
イオリは、溜息をついた。
ネネの案内で霊力研鑽会に向かう事になったイオリ達であったが、当初の予定であったミツキ、クダン、ネネに加えてユリネとルリまでもが同行していた。
「今回の件、クダン様の強い要望との事、ならば先般のご恩をお返しする良い機会だと考えました。さらにミツキさんより無断で私の秘剣を使用している者がいると聞いては大人しくしているわけにもまいりません」
「それ、俺の事じゃ無いよね、心あたりはありすぎるけど」
「さあ、どうでしょうか、ただ出来損ないのモノマネ秘剣を本物だと勘違いされては困りますので」
ユリネは、相変わらずの切れ味だった。
「じゃあ、俺は、大丈夫だな、よし!」
と言ったものの、ユリネが愛剣アオハネに手を掛けたのをみたイオリは、慌てて付け加えた。
「さーせん、以後、気を付けます……」
「うっかり、つまらない物を斬るところでした、イオリ様」
ユリネは、ニヤリと笑いながら言った。
世の中には、怒らせてはいけないものがあるのだ。
「しかし、ユリネ、どうしてイチジョウの霊力研鑽会の事は、知られてなかったんだ」
「そもそも霊力研鑽会なる組織がイチジョウでは知られておりません。知らないものは、調べる必要性がありませんから」
霊力研鑽会のイチジョウ支部は、街の外れにあった為、佐々木家でも把握しきれなかったようだ。しかも目立った活動をしていないのもその要因のひとつであった。
イオリ達が、霊力研鑽会イチジョウ支部近くに到達したのは、正刻前であったが、この時間帯であればおとなしく黙っているはずが無い人間がいる。
「イオリっ! そろそろお昼にしないといけないんじゃないかな、ないかな」
「おいミツキ、俺たちはピクニックに来てる訳じゃないんだからな」
「あたしもわかってるんだ、わかっているからこそ、準備を整えて望まないと足元をすくわれかねないと思うんだよ。腹が減ってはなんとやらと言うありがたい言葉もあるのだから……だから……」
「泣くなよ、ミツキっ、昼ごはんにするからなっなっ」
このご時世に腹が減って泣く人間など全く貴重な存在だ。ちょうど今からの作戦会議も兼ねてイオリは、休憩を取ることにした。
「今日のお弁当は、以前お兄様と食べた『タコ焼き』を用意してきました」
「…………そ、そうか、ルリ」
ルリは、重箱にギッシリと並んだタコ焼きを嬉しそうに見せた。当然、タコ焼きは、冷めて固くなっていた。ルリは、それを楊枝で刺してイオリの口元に運んだ。
「はい、あーん、お兄様っ」
「……あ、ありがとう、ルリ」
イオリは、冷たくなったタコ焼きを口に入れた。まあ、食べられない事もないが、よりによって、なぜタコ焼きなんだろうかとイオリが不思議に思っていると今度は、焼き鳥が口に押し込まれた。
「イオリっ、あーん」
ミツキの仕業であった。
「あーんって、もう口に入ってるよ、串刺さってるし」
焼き鳥も当たり前だが、やはり冷めていたのだった。
「ミツキさん、ルリさんの料理は、どちらもお弁当に向かないようですね」
ネネがまともな意見を述べたのだが、これをキッカケにふたりの対抗心に火が付いた。
「ミツキさんの焼き鳥よりは、私のタコ焼きの方がまだ柔らかで食べやすいようですね」
「いやいや、ロリさん、タコ焼きなんて、そもそもおかずにもなりませんから、それに比べて焼き鳥は冷めても固くなりませんし」
「そんな名前ではありません。ミツキさんこそ、焼き鳥なんて宴会でも開かれるおつもりですか」
顔を見合わせたふたりの間に激しい火花が散り、口論はしばらく続いた。
その間に、イオリ達はユリネが用意してきたおにぎりを美味しく食べたのだった。簡単にクダン達と打ち合わせを終えた後、いよいよ敵地に乗り込む事となった。
「さあ、行くぞ、みんな!」
「…………………………」
イオリの掛け声に反応が無い。
「えーーっと、なんでイオリとクダンさんは、女装しているのかな?」
恥ずかしそうなクダンと対照的にイオリは、ただドヤ顔でミツキを見返すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます