第0・2法 僕は軍人 彼女は皇女②
「そういえば、皇女ってどんな人なんだろう。僕らは同い年みたいだし。学校では同級生ってことだ。皇女が後輩っていうのもなんだかなぁ……」
今になって考えれば、零機は全く皇女のことを知らなかった。情報を見つけようとも、情報操作がひどすぎて全く見つけられなかったのである。非公開人物なので当たり前といえば当たり前だが。
「失礼します。桐谷零機少佐、ただいま参上いたしました」
「入れ、桐谷少佐。皇女がお待ちだ」
大木大佐に言われて零機は応接間に入っていく。大木大佐は軍内の零機の親のような存在だ。直属の上官だったこともある。年は大分離れているが、そのわりには話がわかる。零機は大木大佐のそういうところが気に入っていた。
「両陛下、桐谷少佐がみえました」
「うむ、ご苦労である大木大佐よ。皇女を呼びに行ってくれたまえ」
「はっ、わかりました」
大木大佐は軍人のなかで、唯一両陛下の側近を許された者である。そのため、皇女のこともある程度知っているのだろう。
「
「はい、わかりました」
応接間の隣の部屋から大木大佐と、一人の少女が出てきた。
鮮やかな赤色の髪を持つ女の子で、一言で言って美少女だ。
零機はその姿に、若干意識を取られながらも、敬礼する。
「桐谷零機少佐です。桐谷少佐、こちらは、皇族家の第一皇女、
「はっ、承知しております。皇女様、紹介いただきました、桐谷零機と申します。何卒よろし―」
そこで皇女は零機の言葉を切り、いきなりこういった。
「大木、私は強そうな軍人と言いましたよね?それに、こんなヒョロヒョロのガキが少佐とは、いくら私でも嘘だとわかりますよ。大木、もしかして私を馬鹿にしているのですか?」
「い、いえ、そのようなことは決して……!」
「なんですか大佐、この生意気な世間知らずの箱入り娘は。これが皇女様ですか。まさか、馬鹿にしてます?」
大木大佐は困り果てた。前日に、天皇陛下から、燐火の口調が前より悪くなっていると言われたが、いきなり啖呵を切ってしまうとは思ってもいなかった。それに、零機は零機でこの極秘任務に無理やり参加させた形なのだ。
「いいや、大木大佐よ、こうなることはわかっていたからな。いいのだよ。それでだな桐谷少佐、いや、零機君。これは私からの個人的な願いなのだが、家の箱入り娘の教育係も兼ねてはくれないだろうか。いかんせん、まともな講師や側近だとすぐに寝込んでしまうのでね」
零機は身震いした。そもそも、皇族家の教育係りに選ばれるだけでも超一流なのだ。その講師や側近が寝込むって、正直に異常である。
「いやですよ天皇陛下。なんでこっちが頭下げてる途中に馬鹿にしてくる子供の教育係を僕がやらないといけないんですか。無理ですって」
「桐谷少佐、言葉を慎めと何度いったと思ってるんだ……」
既に、大木大佐は消耗していた。そんななか、天皇陛下が零機にある条件を出した。
「もちろん、ただとは言わない。対価は支払わせてもらう。対価は、君の家族の東雲監察の実験の中止でどうかね?」
「本気で言ってるんですか天皇陛下。確かにそれはいい条件ですけど、あいつらは諦めませんよ。なにかしらの理由をつけて実験を再開させる」
「その問題はないよ零機君。こちらの施設で扱うと言えば、さすがの東雲家の者でも直接殴りこみには来れない」
零機は考えた。それが本当にいい条件か、そのあとはどうなるのか。だが、
「わかりました。請け負います。ですが、いくら国のトップが相手でも、僕の家族を、妹を利用したやつは許しません」
「長い付き合いじゃないか零機君。私たちがそんなことすると思っているのかい?」
「過ぎたまねをして申し訳ありません。保険というやつです」
「ふむ、交渉成立だ。燐火、お前も問題はないだろう?」
「はあ?なにを言っているのですかお父様。こんなのが、私の教育係ですって、冗談じゃないですよ」
確かに天皇がそうしてくれるなら有難いが、問題はこの皇女だ、と零機は思う。こちらの利害が一致しても、最終的な決定権は本人にあるのだから。
「どうしますあなた?」
「お前が説得してきてくれると有難いんだが、いいか?」
「いいですよ。少し待っていてください」
そういって皇后陛下は燐火を連れて先ほど燐火と大木大佐が出てきた部屋に戻っていった。それから数分後、二人が一緒に出てきた。
「その、先ほどは無礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。こ、これからよろしくお願いします」
「は、はあ。よろしくお願いします」
零機には、どうやって皇女を皇后陛下が納得させたのか検討もつかなかったが、ひとまずことは落ち着いた。
落ち着いたはずだったが、この二人が一緒に行動することで、徐々に世界は落ち着きを失くしていくのだった。
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