ブラッド・オブ・プリンセス 

澄ヶ峰空

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0.1 新宿区天使防衛作戦

第0・1法 僕は軍人 彼女は皇女

……ああついてない。零機はそう思った。今日は軍人として、そのなかでも少佐として宮廷から呼び出しを喰らったのだ。一応自分は日本軍 桐谷零機少佐、という責任ある立場に置かれているのだ。高い地位にいるものには、それ相応の責任がいる。零機がそのことに頭を悩ませていると、宮廷についた。


「おい、お前は何者だ?」

「はっ、日本軍 桐谷零機少佐であります。宮廷からの命令にてここに来ました」

「少佐っ……、この若造が!?」

「はい。そうなんですよね……」

「も、申し訳ありませんでした。以後気をつけます桐谷少佐」

「こちらこそすいません」


 そう、零機はまだ16歳である。軍服を着ているが、周りの軍人に比べてヒョロヒョロのせいでよくこういうことがある。自分は若干気が弱いため今まで問題に成ったことはないが。

 宮廷の門番に話を通してもらい、宮廷のなかを進む。何回か来た事がある場所だが、、いまだにここには慣れない。宮廷内は天皇や皇族が暮らしている。そのため、綺麗な物や華やか過ぎるものが多いのである。自分の暮らす軍人用の舎はこんなものが何一つないために、ここに来ると自分が浮いてる気がしてならないのだ。


「でも、一体なんの用事なんだろう。僕の部下が何かやらかしたって言うのは聞いてないし。なにか任務の話かな?でも、わざわざここまで呼び出すか、普通に考えて」


 零機は一通り考えてみたが答えは出なかった。第一、自分のようなただの軍人はまず呼び出されないはずなのである。

 そんなことを考えていると戦皇陛下のいる応接間まで来た。


「失礼します。桐谷零機少佐、今ここに参上しました」


 零機はドアをノックした後、敬礼をしてそう告げ、視線をほとんど動かさずに状況把握に努めた。ここでの無礼な行為は首が飛びかねないからだ。


「うむ、よくぞ参った」

「よくお越しになりました」


 零機は思った、とてつもなく面倒なことになりそうだ、と。なにせ戦皇夫妻として二人でいるのだ。大変なことになると思ってまず間違いはないだろう。


「はっ、有難きお言葉。それで私を呼び出した理由を早急にお聞きになってもよろしいでしょうか」

「こ、こら、言葉を慎め桐谷少佐」

「いえ、いいのです。大木大和上級大佐」 

「ですが……」

「桐谷少佐、私たちはあなたに任務を任せたいのです。戦皇夫妻の命として」

「で、でもなんで僕みたいな普通の軍人になんでしょうか?」

「ははは、普通、ね」

「大木大佐、彼の経歴書を読んで差し上げてください」

「はっ、経歴書。氏名 桐谷零機。軍の階級は15歳の若さにて少佐に昇格。現在の年齢は16歳。十二歳にて軍学校に入学、三ヶ月で異例の主席卒業。そこからは軍人として活躍し、陸軍、海軍、空軍の三つの軍にて作戦の経験あり。今は特殊任務専用部隊、『叛逆の翼』の指揮官を務める。その巧みな戦術や状況判断で数々の死闘を掻い潜り、隊員の死亡者数は全体のなかでも一番少ない」

「どうだね、これでも君は普通か?」


 今、大木大佐が読み上げた経歴書は確かに零機のものであり、客観的に聞くとそれなりにすごいことだと思う。でも、零機が少佐になったのは単純に指揮官が足りておらず、戦況が悪くなったときの臨時的なものだったのが、気づいたら正式にそうなっていただけの話なのだが、こうなってしまったら仕方がない。


「それで、自分への任務とは?」

「うむ、それはだな、皇女の護衛を勤めてもらいたいんだ」

「はー、それはいいですけど。いつまででしょうか?」

「ん、無期限的に」

「は?」


 軍人にも案外護衛任務はある。あるのだが……、


「なんで無期限なんですか?というか皇女様って非公開人物なんじゃ?」

「まあそうなんだがな、だからこそ、うちの皇女には都合がいいのだよ」

「は?」

「いやな、うちの皇女な、今年で十六歳なんだよね~」

「あなた、素が出てますよ」

「あ、ああ。桐谷少佐、君は今年で十七歳、つまり高校生だろう」


 そう、零機は年齢的には高校生である。まあ、中学生をすっ飛ばしてしまっているが。


「はい、そうですが。正確には高校二年生になりますね」

「なら都合がいい。君には、うちの皇女と一緒に高校生として通ってもらう」


 正直零機には言って意味がわからなかった。なぜ軍人の僕が皇女の護衛を勤めるのだろうか?


「でも、僕、座学とかは……」

「なにを言っている。軍学校で、高校卒業までの勉強は仕込まれてるはずだろう。君は三ヶ月で主席卒業なんだから」

「ご存知でしたか。まあ、そこはいいですし、学生の生活をしてみたいとは思っていましたが、僕の軍役はどうすれば……?」


 軍人には軍役というものが課せられている。その分の軍役を終えないといけないのだが、零機の軍役はあと何年も残ってる。


「護衛を三年間っていうのが軍役でいいだろう。それに両親や妹さんとも会いたいだろう」

「はぁ……。でも、なんで僕みたいな一般兵士なんですか?それに、皇女ってことは東雲家の監察の学校に行くんでしょう?なら、日本帝国軍の僕より、東雲協議審問会が護衛のほうがいいのでは?」

「いや、彼らの監察の学校に行かせるわけにはいかない事情があってね。任務とは関係ないことだが、聞きたいかい?」

「いえ、わかりました。両親や妹のことを気にしてくださってありがとうございます。それでは、僕は失礼させて頂きます」


 そうして零機は応接間の扉へと歩き、そこに手を掛け、扉を開いた。そこで、


「明日、皇女様と君を引き合わせる。今日と同じ時間にここに来てくれ。心の準備をして置けよ」

「はっ、わかりました。失礼します」


 最後に大木上級大佐から声がかった。零機は『心の準備』という意味がわからなかったが、このことを適当に聞き流したのを明日、後悔することになる。

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