一寸ばかりの小話

柊 撫子

鼻眼鏡

 まず、ここに鼻眼鏡が一つある。


 よく眼鏡店に陳列されている黒く艶のある眼鏡のフレーム、人間味のある着色が施された丸いフォルムの鼻。

そして、鼻の下から伸びる髭や眉から、その鼻眼鏡の個性や威厳ある風格が伝わってくる。

そう、鼻眼鏡だ。

 一般的に”鼻眼鏡”と言えば丸いフレームだと思われがちだが、台形を逆さにしたようなフォルムもあり、そこからも鼻眼鏡の個性が見られるだろう。

 個性といえば、中央に位置する鼻も鼻眼鏡の個性として大切な役割を果たしている。

人の顔の各部位を見た時、目に付きやすい部分というのが鼻だと思われる。

もちろん、人によっては目や口をまず見るだろう。

しかし私は、人の顔は”鼻”がある事によって立体的に、特徴的に成り得ると考えている。

その為、鼻眼鏡の鼻部分はとても重要なのだ。

 更には髭や眉の部分、これもまた重要な部位であり、この二つの部分でどのような印象を鼻眼鏡がかける人に与えるか決まる。

 まずは髭部分から見てみよう、美しく弧を描いている二対の髭だ。

人として考えても髭はその人物の威厳を表すもので、その人物の性格なども分かる部位でもある。

人であるなら、髭を完璧に剃る人や少しだけ残す人、ゆったりと長く髭を蓄える人など様々だろう。

鼻眼鏡での髭部分は鼻の下と繋がる部分のゆったりとした膨らみ、そこから先端にかけての鋭さ、そして鼻眼鏡によってはその鋭い先端から優雅な丸みを象った物もある。

更には、鼻の下に長方形にきちんと切り揃えられた髭が置かれる物もある。

そして、鼻眼鏡によっては髭部分がプラスチック製か毛皮の様な素材かで大きな違いがある。

髭部分がプラスチック製の場合、ほとんどの鼻眼鏡がフレームと同じく艶やかで立体的なフォルムであり、毛皮の様な素材の場合、まるで実際に本物の髭が付いているような感覚に浸れるのだ。

 次に眉部分を見てみよう、凛と添えられた眉だ。

鼻眼鏡によってはデザイン上、眉が付いていない物もあるが、それもまた鼻眼鏡の個性として素晴らしいと思う。

そして、眉は髭と同じ素材で作られ、鼻眼鏡全体に一体感が生まれるのだ。

 更に、鼻眼鏡によっては髭と眉が動く物もあり、その動く様はまさに芸術的とも言えるだろう。

髭と眉の動作は単純だが、その上がった髭と眉からは自信と誇りに満ち溢れており、逆に下がった髭と眉では落胆や呆然としいるように見える。

人の表情を判断する際、目や口は勿論だが眉の動きも重要な表情の変化だと言える。

こうして見ていると、命が宿らない鼻眼鏡にも表情があるのが分かる。

 このように鼻眼鏡は無駄の無い完璧なデザインをしており、鼻眼鏡そのものに個性があるのだ。


 次に鼻眼鏡に関してとても重要な事がある。

それは使用状況についてだ。

 鼻眼鏡は一般的に宴会やお笑い、ギャグとして用いられ、その多くが見る人を楽しめる目的で使用されているだろう。

最近ではクリスマスシーズンに合わせて、サンタクロースを思わせる白い髭と眉が付いている物が陳列されるという。

しかしシーズンでなくとも、パーティーグッズとして売られている店も数多く存在する。

 そこで私は鼻眼鏡を祝い事がある時だけかけるのではないと思うのだ。

なぜなら常に色々な場所で売られているものならば、日常的にかけても良いと思っているからだ。

誰かが何かを行う事に誰の迷惑もかけていない場合、その誰かの行動を止める権利は誰にもない。

なので、誰かが鼻眼鏡を日常的にかけるだけで誰の迷惑にもならない為、誰もそれを否定する事は出来ないと考えている。

 しかし、この芸術的な鼻眼鏡を使い、法やモラルに背いた行為をする事は許されない。

法やモラルに背くだけでも罰せられるのに加え、鼻眼鏡の価値を絶壁の様に下げる事になるからだ。

そして、その罪が非道徳的であった場合は、更に痛ましい事になるだろう。

この事に関して私は、鼻眼鏡が関係する悲惨な出来事が起こらない事を祈るばかりだ。

 更に、鼻眼鏡には人体の一部が備わっており、その部分が顔を覆う形で装着される事は周知の事実だろう。

鼻眼鏡をかける事で覆われるのは、主に鼻部分や髭がかかる口元、それからデザインによって備わっているレンズの部分や眉付近だ。

鼻眼鏡が覆う部分は人の顔面のほとんどであり、鼻眼鏡をかける事によって顔面を保護出来るのではないかと思える程である。

その鼻眼鏡を日常的に愛用している場合は人体の一部を鼻眼鏡で補っているとも言える為、鼻眼鏡は人体の一部と言っても過言ではない。

 私個人の意見としては、鼻眼鏡をかける事によって集中力が上がったり、不思議と気分が落ち着くのだ。

これは断じて気のせいや勘違いなどではない。

現にこの文章を書いている今、私は鼻眼鏡をかけている。

鼻眼鏡がもたらす適度な装着した心地が私には丁度良いのだと思う。

 しかし、これが普通の眼鏡などではこういった事は起こらない。

普通の眼鏡では補え切れない部分を包める、それが鼻眼鏡の利点と言えるだろう。


以上の文章を読んで鼻眼鏡の魅力が伝わったのなら、是非とも実際に鼻眼鏡を購入してみる事を勧める。

そして、鼻眼鏡の素晴らしさを堪能して頂きたく思う。


貴方に鼻眼鏡のある充実した良い日常を。

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