第16話 私/特徴:うそつき
親から嘘を強要されて育った。
家族の雑談など存在しない家だった。交わすのは挨拶のみ。
それでも両親は毎年、温泉地へ家族旅行に連れて行ってくれたけど
雑談しない家族、愚痴しか話さない両親との旅行は
楽しいわけがなく、早く帰りたくてたまらなかった。
(行き先は遊園地でも、だ)
当時の写真では、いつも私は無表情。嫌だなあという顔ばかりだ。
しかし母はいつも私に「楽しいでしょう? そうでしょう!?」と
反論を許さない顔で言ってくるので
私はいつも「うん」と答えていた。
家に帰ったら、子供部屋から出ない。息を潜めて、ずっと机に向かう。
なにをしたらいいのかわからず、ただ、机の整理整頓だけしていた。
それが「手のかからない良い子」だからだ。
寂しいとか、悲しいとかも感じず、子供部屋でじっとしていることは
少なくとも楽しくはなかったことは覚えている。
危険はないが緊張する場所、それが私の知っている「子どものお部屋」。
こんな部屋だけど、平気。
じっとしていればいいから、平気。
嘘じゃないよ。
平気だから。
そう自分に言い聞かせてきたらしい。
それさえ忘れていたと知った。
突然だった。
痛くて、倒れて、苦しくて、
苦痛の理由をたどっていったら
忘れていたことに、気づいた。
でもなにを忘れているのか、わからない。
しばらくして、ひとつだけ、気づいた。
自分に「ヘーキ」とうそをつき続けていた。
平気じゃないのに、言い聞かせていたこと。
本当にヘーキだと思っていただけに、衝撃も大きかった。
それから
自分にうそをつくのはやめようと思った。
わけがわからない激痛で
動けなくなるのは、困る。本当に。
その矢先、本屋で「誕生日の本」を見た。
自分の特性に「うそつき」とあった。
笑った。
大当たり。
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