叶わない復讐に身を染めて

Allen

20XX年

20XX年。時代は機械の時代。国民のありとあらゆるデータが管理局で管理され、大半の仕事は機械任せとなっている。この生活に国民から不満が出ることはない。いや、実際にはごく少数なら不満がでるものである。しかし、不満を抱くのなら構わない。しかし、もしそれを口に出したら…もし、それを他人に聞かれたら…簡単に言えば国民のデータから消されることになる。この国では「死」を意味する。完全に配給制となっているこの国は、管理局管理されているデータをもとに食糧を配分される。また、生活に必要な水、電気、ガス。その類のものも同様だ。

しかし、そんな例はなかなかない。逆に楽をして安定した生活を送れるからという理由でこの国に移住したい……そう思い実際行動する人は後を絶たないが成功した人は一人もいないという。なかなか現実的には移住が難しい現実があるこの世の中。そのなかで国の一番重要な仕事であり、裏の仕事。それは……





警察である。





「おい、母さん!なんで起こしてくれなかったんだよ!今日は、大切な会議があるって何度もいっただろう!」

俺は工藤海。今日は大切な会議、ではなく式がある。また、上の地位に昇任してしまったのだ。それを称えようという式らしい。本当にこんな式をよく考えてくれたものだ。なぜ、素直に喜べないか。分かる人には分かるこれは、また複雑な話なのでたいしたことはいえないのだが、この歳で上の地位に昇任してしまうと周りからの恨みを買ってしまうところだ。

「私も忘れていたのよ。それよりもあなた、18にもなってもまだ自分で起きれないの?だから、あなたはいつまでたっても子供のままなのよ」

と軽く嘲笑いながらいわれ、いつものようにイライラしながら本部に出勤する。朝食はいつものようにそれ専用の機械が用意してくれた。






「工藤!また遅刻か!お前を遅刻の常習犯として逮捕する!」

毎朝このような挨拶……正しくは叱責を受ける。今まで遅刻しないで本部についたのなんて数えるほどしかない。たいていは寝坊である。18になってもいまだに自分で起きれた回数が数回……といいたいところだが、記憶が一度もない。もしかしたら、奇跡的に一度くらいはあったかもしれない。といっても記憶にないのだが。こんな機械の時代だから目覚まし時計とやらもかなりハイテクなのだがそれでも起きられないのだ。

「工藤。早く式の準備をしろ。あと10分しかないぞ。着替えてこい」

「ありがとうございます。失礼します」

そういって足早にかけていく。

急いでいくと、式は始まっていた。一斉に視線がこちらに向いたが気にせず足早にステージに立つ。

「お前、また遅刻か?こういう式の時くらい遅刻はやめろよな」

俺の隣に立っている男、鈴木さんが言う。名前はあると思うが、俺は知らない。パートナーではあるが、相手のことを知る必要はない。任務するときに、必要ないものは切り捨てる。これがモットーである。しかし、この言葉を聞いたのは何回目だろうか。昇任式のたびに言われ続け聞き飽きた。別に、毎回遅刻してるわけではないのに……

「しっかし、お前毎回遅刻してるよなー。いますぐ本部のパソコンを調べて、データみてこようかな」

「す、すいません。それだけはやめてください。認めるのでそれだけはやめて下さい。」

自分の心の中が見破られている。この人こういうところがあるから苦手だ。上司としては素敵だし、任務への忠実さは業界トップクラス(と本人は自称している)。

「何だかんだ言って、お前が俺と同じに役職につくなんてな……まあ、お前の業績は俺の倍以上だしな。お前はまだ若いんだし、もっと子供らしく遊びたいとかはないのか?俺が、お前ぐらいの歳のころは若い女をだな……」

「もう、その話は4219回目です。いい加減聞き飽きました」

本当に鈴木さんは何を考えているのだろう。正直、常識とやらがないと思う。

「ほらほら、話し込まないで君は早くステージに上がりなさいな」

自分で呼び止めておいてそれですか。まあいつものことかな。とりあえず、俺は無言で会釈をし、ステージまで歩く。ステージまでいくときに一人の少女と目があった。見た目がそう見えただけで年齢は我とあんまし変わらないのかもしれない。大人にも見えなくもないが、直感的にそう思ったのだ。この少女との出会いが我の人生を狂わせることにまだ気づかなかった……



昇任式は無事終わった。途中銃を持ったやつらがなぜかやってきたがここは警察のなかの警察がたくさんいるため、すぐに捕えられた。その後の行方などは知らない。まあ、だから無事に終わった。そう、無事に終わった。

「おい、お前銃を持ってきたやつがやってきた時点で無事じゃないだろうに。普段からそういう状況に慣れすぎなんだよ。もう少し危機感を持ちなさいな」

「俺は、慣れてなどいないのだが……ただ、日常的風景すぎて」

銃を持った人など任務中にしょっちゅう出くわすし、今更どうこう言うものではない。

「あっ、今はそんなことはどうでもいいんだよ。それより君のパートナーを紹介するね。桜ちゃんって言うんだ。君より2つ下だったかな……桜ちゃんおいで」

勝手に話を遮られ、しかも昇任早々パートナーを紹介される。よくわからない上司だと思う。しかし、部屋の中から出てきた少女をみて、開いた口が塞がらなかった。

「君は……さっきの女の子だよね」

「あっはい。伊藤桜と申します。年齢は16歳です。今日からあなたのパートナーとして活動していきます。よろしくお願いいたします」

さっき会った時の印象といつもの癖で話すところを観察していたが、とても16歳には見えなかった。話しているときの油断が見えない。普段から警察の仕事をしていく中で色々な人を見ているがなかなかこんな子はいない。そして、なぜか初めて会った気がしないのだ。そう、なぜか思い出せそうで出せなくて……そんなことを頭の中でグルグルと考えを巡らせていると、お構いなしに鈴木さんは話を続ける。

「なんか、ろくでもないことを考えているのかもしれないけど上のお偉いさん方が君たちにいきなり任務だってさ。またまたデモらしいよ。嫌になっちゃうよね。まあ、単なるデモだし銃を使う必要はないだろうから、行ってきなさいな」

「しかし、それだと桜さんが……」

いくら、ただのデモであっても多少の怪我はつきものである。いきなりパートナーになった途端に、任務はつらいと思う。それにまだ何も説明とやらをしていないのである。警察は機械化しているこの世の中で唯一の人間が行う仕事だ。それを入ったばかりの彼女が出来るとは思えない。俺の心配をよそに彼女は口を開く。

「私のことはお気になさらず。銃の使い方もだいたい教わりましたし、自分の命は自分で守ります。それに、自分の身に何かあっても警察に入った以上、仕方のないことだと思います」

俺の心配など気づいているわけもなく彼女はそう言い切った。どうしょうもないくらい潔い子だと思う。いい意味でも悪い意味でも。

「彼女がこう言っているし、早く。車も手配してあるしな。いってらっしゃいな。できればお土産もあるといいな、なんてね。冗談だよ」

「そういうことで、任務行きましょう。私なら、大丈夫。こうしている間にも、事態は深刻化してるかも。ほら、はやく」

そして、桜さんに連れられデモがおこっている場所に向かうことになった……





彼女は教わったから必要ないと言っていたが、多分教わっていないだろうということをここに書き留めておこう。

俺たちこの国の住民は一人一人が国の管理局に管理されていると言ったがそれはどういうことか。簡単に言えば生まれた時に一人一人にチップが埋め込まれているのである。詳しいことはもちろん知らない。いや、きっと知ってはいけないのだと思いあまり明白には俺自身も教えられてないのである。ただ一つ分かることそれは『本当に細部まで管理されている』

ということだけだ。




「これは酷い……」

そう呟いたのを聞いていたのだろう。隣で銃の点検をしていた桜さんが

「そうですね……私は今回の仕事が初めてですがここまで大規模はなかなかないことなのでしょう」

と返してきた。

「俺もここまで大規模なのは初めてだ」

俺はどうにか心に込み上げてくる恐怖を抑え、言葉を吐き出した。

「いくぞ」

「はい」

短い言葉ではあったが、その二つの言葉で二人はパートナーとしての行動を遂行するのであった……

階段を使い急いで、建物の上に上がり、群がっている人に向かっていつものように呼びかけた。

『こちらは警察です。国民の皆様、直ちにこの場からの退去をお願いします。もう一度繰り返します。直ちにこの場からの退去をお願いします。もし、従わなかった場合こちらも然るべき処置を取らせていただきます』

ここまでを一息で言ったところで、周りを見渡す。これを聞き数人が撤退したみたいだが本当に目にはわからないレベルだ。

『もう一度告げる。直ちに、退去を要請する。もう二度は言わない。今すぐに退去を……』

「うるせえ!!お前らになにがわかるんだよ!!」

目の前にいる人たちの罵声が、四方から聞こえてくる。もともと、どんなデモであってもこのような騒ぎが起こるのは当たり前なので今更驚きもしない。

「お前らみたいなのがなぜ、人の上にいるのだ!!」

「当たり前の暮らしはできるけど、毎日同じ毎日に退屈したわ!!」

「何が機械化だ!!こんなつまらない世の中になど生まれたくなかった!!」

『しかし、私たちにはどうしょうもできません』

そうやって言っても一向に罵声は止まない。あまりにいろんな声が聞こえるため、頭が痛くなってきた。様々な年代の人がいる。正直銃を使うのは気が引ける。過去の過ちをもう二度と起こしたくなかったからだ。しかし、もう何度言っても聞かないみたいだし……これだけの人数がいるデモははじめてだったから、どれくらいの人数が犠牲になるかわからないが、多少の犠牲はつきものだ。国全体の事を考えた時何が必要か。何が不必要か。そう考えると答えは明白だ。そうやって銃を取り出そうとすると、今まで黙っていた桜さんがいきなり銃を地面に投げ捨て、マイクを掴みこういった。

「退去しろと言っている。おまえらにはこの声が聞こえないのか」

いきなりの声に周りは静まり返ってしまった。その言葉を発する声からは全く感情を読み取ることができなかったが、言葉とは裏腹に怒っているようには聞こえなかった。

「あなたたちの言いたいことはよくわかりますし、やりたいこともわかります。でも、それが正しいことだとは私は思いません。私たちは確かに警察という立場であるがゆえ、人の上にいます。しかし、私たちに言ったところで何か変わるでしょうか。犠牲者が出るだけです。得るものは何もないのにただ犠牲だけが増えるだけです。きっと、あなたたちには他にやるべきことがあると思います。今、ここで無駄に犠牲を増やすより、やるべきことをやるべきです。私からはもう何も言いません。では」

静かな、しかしなぜか逆らうことが出来ないような声で彼女は話した。ここにいる人たちも同じことを思ったのだろう。どんどん、人が減っていく。みるみるうちに人はいなくなった。正直、こんなにすんなりと終わるとは思っていなかった。なかなか、銃を取り出すまでには発展したことはなかった。とはいえ、完璧になかったとは言えない。いくらか、犠牲がでてしまった。それなのに、今回は……

「桜さん、ありがとう」

しばしの無言ののち、彼女は口を開いた。

「お役に立てて光栄です。あのようなことであれば、これからもやりますよ。しかし、むやみに犠牲を増やしてはいけないと思います。デモを行う人たちはきっと死ぬことを覚悟して行っていると思います。しかし、残された家族のことを考えてください。だから、銃なんてむやみに取り出してはいけません。そして二度とあのような過ちは起こしてはいけません。わかりましたか」

「お、おう」

そう言われ、無意識に返事してしまう。

「わかったなら、よかったです」

そう言って、初めて笑った。

「それはいいとして、戻りましょうか。早めに終わったのですし、早めに休養をとりましょう。工藤さんも声を出しすぎて声ががらがらですよ」

そして、二人は車に乗り署に戻って行った。




「おう、二人ともお疲れ様。初めてのわりには良くやってくれたみたいだね。お土産がないのが少し気に食わないけれどまあ、今日は頑張ってくれたしね。二人とも家に帰ってゆっくり休みなよ」

帰って来てそうそう待ち伏せをしていたかのようにそこにいた鈴木さんは珍しく労いの言葉をかけてくれた。本当に珍しくだ。

「桜さん。本日はお疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」

「ありがとうございます。そちらも今日の疲れを癒してください」

そう言い二人はお互いがお互いの顔を見て、それから笑いあった。




「えっ、テロですか!?」

俺はここが署だということを忘れ、思いっきり叫ぶ。

「そうなんだよね。一応対テロ用のロボットはそっちに向かっているんだけどね。まだ、そこまでの機能は備わってないのかどれくらいの規模かはこっちに送られてこないからね。良ければ、二人で行って来てくれないかな」

鈴木さんはいつものように軽口のような感じで言う。

「俺は構わないですが、桜さんが……」

「私も構わないですよ」

気づかないうちに背後にいたようだ。

「この国に生きとし生ける市民のため精一杯任務を全うするのみです。鈴木さん。その仕事私にやらせてください」

彼女はいつものように、いやいつも以上に凛とした表情で言い放った。

「まあ、彼女もそう言っていることだし早く行ってきなされ」

「はい、行ってきます」

そうして、俺は彼女に連れられ現場へと向かうこととなった。




現場に近づけば近づくほど緊迫している感じが伝わってくる。耳が痛くなるほどの銃声。そして、轟音。その全てから耳を塞ぎたくなる。

「工藤さん。工藤さん」

そんな余計なことを考えているから声をかけられているのにも気づけなかった。

「あっ、ごめん。何をやるかだよね。基本、テロリストの撃滅はロボットがやってくれているだろうから俺らは逃げ遅れている人たちの救出。これが最優先だ。これだけは機械だけじゃどうにもならないからね」

「はい、わかりました」

そして、俺らは銃撃戦のところへ走っていった。


「逃げ遅れている人が想像より多すぎる」

俺は思いっきり唇をかみしめた。桜さんも隣で頷いていることからきっと同じ考えなのだろう。

「もう、私がテロリスト撃滅に向かうしか……」

「それはさすがに危険すぎる!!」

確かにある程度の防具に身を包まれているとはいえ死なない保障などないのだ。そんな危険な場所に彼女を行かせるわけには行かない。

「でも、これじゃ拉致があかな……」

そう言おうとする彼女の目の前で民間人が頭を撃ち抜かれたのだ。それは、彼女のスイッチを入れるのにこれほど適しているものはなかった。

「工藤さん、今すぐあいつらを殲滅させる許可を、皆殺しにする許可を…!!」

彼女のあの様子ではもう止めることは不可能だ。止めようとすれば俺まで殺される。そんな気がした。

「あっ、ああ。せいぜい無茶はするな。絶対に死ぬなよ」

その言葉を果たして最後まで聞いていたのかは怪しいほど素早い動きでこの場を去っていた。




「あらかた、銃撃の音は止んだか?」

周りは先ほどの耳をふさぎたくなるようなうるささはどこへ消えたのやらというほどに静まりかえっていた。

「桜さんは、一体どこへ?」

辺りを見回してもそれらしき人がいない。というか、人が一人も見当たらない。

「あの、工藤さん後ろです」

俺は悲鳴が出そうなのをぐっとこらえ、後ろを振り返った。後ろを振り返るとそこには血まみれの桜さんが立っていた。

「えっと、それ…」

「ああ、これですね。私の血は一切混じっていませんのでご安心を」

本当に一人で殲滅したのだろうか。ざっと見ても20はいたはずだ。

「それでも、それでも犠牲になった人は戻ってこない……」

そして、彼女はうつむき両の目から涙を流した。

「私がもっと早く、もっと強ければ……」

次から次へと涙が止まらない彼女を俺は優しく抱きしめた。







戻ってきたころ、伊藤桜はコンピューターでなにやら作業をしているようだ。

「まさか、本部のパソコンがここまで解除しやすいとは軽く驚きだわ。色々と準備してきた意味がほんとうになかった。それにしても、私の知りたい資料がどこにも見当たらない。探すにしても資料が多すぎるし……やっと、見つかったわ。どれどれ……」

そうやって開いたデモについてのファイルをゆっくり見ながら目的の情報を探す。さすが、全てが機械で動いている国。入っている情報の量は並大抵ではない。

「やっと、見つかった。このデモに関与した警察の名簿。この中の何人か警察をやめているみたいね。あとは、亡くなっていたり……えっ、嘘でしょ」

そのファイルには信じられないような文字が書いてあった。

「そんなことってあるの?でも、この世界では管理されているデータが全て。だから、間違っているわけはないし……信じたくはないけど。しょうがない、よね」

私はそう自分に言い聞かせその部屋を立ち去った。そのすぐ後に誰かが入ってきたのは知るよしもなかった……




そのころ、パソコンに向かいいつものように書類を整理していると誰かからメールが来た。

「こんな遅い時間にだれからだ。なかなか、仕事関連以外からは連絡など来ないし……えっと、あぁ桜さんからだ。何だろう」

あの桜さんがメールを送ってくるなんて何の用事なんだろうと首をかしげながらもそのメールを開く。

『今から外に出られますか。会ってお話したいことがあります』

このメールにはどういう意図があるのかがわからないが、こんな夜に一人ではいさせるわけにはいかないと思い急いで向かった。




急いで向かうと桜さんがベンチに座って待っていた。

「遅くなってごめん」

聞きたいことがたくさんあるのだが、とりあえず挨拶だけはしておく。

「こちらこそ、真夜中におよびしてすいません」

そして、相手からはありきたりな回答が返ってくる。

「今日は、大変だったね」

「はい」

「……」

会話が続かない。桜さんは言いたいことがあるはずなのに相手からは何も言ってこない。

「あのさ、話って何」

だから、自分から切り出すことにした。そう簡単には話せないことなんだろうと思い、こちらから声をかけた。彼女はすぐには口を開かず、少し考えるような素振りを見せながらも重い口を開いた。

「そうですね……話というか、私はあなたに復讐するために呼びました」

今度は僕が口を閉ざす番だった。復讐という言葉を聞いてすぐにはピンとは来なかった。いや、無いわけではなくむしろ心当たりがありすぎるくらいなのだが、そのうちのどれかわからなかった。

「心当たりがないようですね。では、これを見てもまだあなたはそうしていられますか」

そうして、過去のデモの資料を見せられた。それを見た途端自分の顔が青ざめたのがわかった。

「やっと、お気づきのようですね。あなたは、このデモで銃を住民に発砲しましたね。一人が死亡し、複数人が怪我をしました。あなたの銃に打たれ、死んでしまった彼こそが私の父親で、唯一の肉親です」

そう言われ、いろいろと思い出した。今日とは違いこちらが何度言っても引こうとはしなかった人たち。基本、銃は住民に向けるためではないのに、発砲したいくつかの弾が住民にあたってしまったこと。確か、その件は上司がなかったことにしてくれたはずだが……

「なかったことになんてなりませんよ。たとえ、その事故が世間一般的には知られてなくても、家族が殺されたことを誰が忘れますか。このテロの詳細は、警察本部で調べさせていただきました。私が警察に入ったのもそのため、と言えばお分かりですよね」

そこまで調べられていると言い訳すらも思い当たらなかった。

「だからか……この前のデモやテロの時、あれだけ必死だったのは」

「当たり前でしょ!!!!私は唯一の肉親である父親を失ったのよ!!それだけなの……」

「戦争もね。たくさんの人を犠牲にするものだと思う。でもね、でもね。テロはもっと残虐な行為なんだと思う。戦争はお互いが武器を持っていて殺し殺し合いの世界かもしれない。でも、テロは無抵抗な市民に大人も子供も関係なく巻き込むもの。そんな、テロを許すわけにはいかない。これ以上他の人にも同じ目には遭って欲しくはないの。これで、わかった?」

「最後に何か言いたいことは」

そう言われてすぐに言葉がでるはずがなかった。唯一出たのは、

「悪かった……」

ただ一つ償いの言葉だけだった。こんなこと言ったって許されるなどとは思ってもいない。しかし、謝らないではいられなかった。

「そう思ってるなら死で償ってください。今更謝られても遅いんです。私がこれまでの間どれだけ。そう、どれだけの間辛い思いをしたと思ってるんですか」

そう言って銃口を向けてくる。銃口を向けられ引き金をひかれるまですごく長く感じられた。きっと、ほんの一瞬の出来事なのかもしれないが……俺の体はまるで地面に吸い込まれるように倒れた。

「お父様。復讐が完了致しました。もう、これでそうこれで本当に終わったのです」

しかし、その言葉は闇の中に吸い込まれていくだけだった……




「さて、私は帰りますか」

そう思いながら死んだ彼の死体に背を向けるとおもむろにケータイが鳴りだした。

「なんでなの……」

そこには工藤翼の死と近くにいた人のデータが載っていた。

「あぁ、そうだった。この国は機械で管理されていることを。この国がこの国である限り殺人なんて出来るわけがなかった」

そう呟き、先ほど使ったまだ少し温かい銃を自分にむけ引き金を引いた。

「お父様ごめんなさい」

そして、発砲する音が、静かな夜の街に響き渡った。







動かなくなった二人の人間の近くに工藤翼の上司の鈴木がやってきた。

「ここまで計画通りに動くとはね。伊藤さんを本部にいれて正解だった。パソコンも簡単に開けられるようにしていたから成功したのかな。これで邪魔なやつがいなくなったし、彼がいなくなったことにより俺は上の位に就くことができそうだよ。君たちの死はけして無駄にはしないからね」

そう言い、二人の元から去っていた。

彼の、鈴木のその言葉を聞くものはいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

叶わない復讐に身を染めて Allen @Alenn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ