聖女再生、失敗

森崎亮人

プロローグ

プロローグ


 ――人類は、ついに覚醒を果たした。


 [西暦2019年]

 人類はついに人体に存在する“経絡”を発見する事に成功した。

 “気”“オーラ”“チャクラ”“マジック”――。

 呼び方は多種あるが、経絡を覚醒させた者は超常的な能力を発揮させる事が出来るようになる。

 火を操り、空を駆け、姿を消し、老化を停止させ……その能力は個体差があるが、伝説上の超人の姿がこの現代に再誕していた。


 [西暦2022年]

 当初、経絡の覚醒とは特殊な機材を用いた上での手術が必要であった。

 その為、覚醒者の殆どは事前に厳しく審査された上で国家の象徴、アイドル、ヒーローとして存在していた。

 だがしかし。“覚醒者”と呼ばれる人間が世界に少しずつ増えていくに従い、両親が覚醒者ではないにもかかわらず、新生児の中に生来の覚醒者が生まれるようになってきた。

 人造ではない、自然に誕生する覚醒者が生まれ始めた事で、その立場在り方が変質していった。


 [2025年――人類新世紀元年]

 新生児の覚醒者は“新人類”と呼ばれたが、社会はその対応に時間をかけてしまっていた。人類には備わらない“超能力”を持った人間達を、完全に持てあましていた。

 だがしかし、そんな人類社会をあざ笑うように、既に成人した人類からも、手術などを介さず自然に覚醒する人間が出現し始めてしまった。

 この年、“人類新世紀元年”と定められる。

 後にこの呼び名が世界最大の皮肉となる。


 [人類新世紀3年]

 それまでの覚醒者、新人類と違い、奇形として覚醒する人類が現れ始める。

 奇形――元は人間でありながら、人体に無い器官を持つ新たな覚醒者達は“亜人類”と呼ばれる事になる。

 そしてそれにより、元より深まっていた“新人類”とそうではない未覚醒者“旧人類”の確執が世界中で深刻化し、取り返しがつかない状況が引き起こされた。

 最大の転機となった“新世紀の魔女狩り”と呼ばれる大量殺人事件。狂乱したある旧人類の男達が、突如街中新人類の女性に乱暴を働く。往来での出来事に助けが入らぬままに、新人類の女性の“ジュツ”が暴走。彼女のジュツは精神同調の類であったが、狂気と恐怖、暴力的な思考が広範囲に同調され、街は殺戮の坩堝と化した。


 経絡の発見、覚醒者の誕生から10年も経たぬまま、当たり前のように社会は円熟を迎える事は出来ぬままに、人類同士――いや、新人類と旧人類はお互いを拒絶し、世界規模での戦争が勃発する。


 [人類新世紀10年]

 地球上、圧倒的に数でまさる旧人類が、大半の地域で勝利を収める。いかに新人類が超常的な力を持とうとも、数のそろった近代兵器群の前には太刀打ち出来なかった。

 その戦争の結果、新人類達は殺害され、あるいは一部の区画(その広さはまちまち)に押し込められる事になる。


 [人類新世紀22年]

 日本、T県に作られた新人類隔離区画“比良坂”。

 塀で覆われ、逃げだそうとする者は容赦なく射殺される地獄のような街では、日本の法律も秩序も無い。

 力が支配する土地、力による秩序。

 それは1つの小さな、そして歪んだ世界となっていた。

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