裏切り者達の戦争
ベクセルmk. 7
第1話 地獄にようこそ
法歴2030年。神秘と科学の入り雑じった東の島国、日本。
突如、強大な軍事力を手に入れたキョウトとの戦争により、日本は東京王国、東北連合、九州合衆国、大東海共和国、キョウト帝国の5つの国家に分裂、戦争をする事となった。
更に王国の国家監査機関は、国民の10人に1人と言われるほど多くの密告者を配置し、国内を徹底的に監視する事で国民の言論の弾圧・反乱分子の摘発を行い、密告される恐怖により国民同士を疑心暗鬼に陥らせる事で国内を統制していた。
《橘流人大尉、亡命を企てた疑いがあり逮捕》
その監視は王国軍すら対象に含まれていた。
~~~
「少尉~少尉~!」
陽気だが、年季の入った男の声が東京王国首都、東京都を構成する1つの区画、練馬に存在する陸軍基地内に響く。
男の名前は上林。第4機動魔装中隊所属の中尉。
東京王国軍所属、第4機動魔装中隊。最新の魔導兵装を使いこなし、圧倒的な敵撃破数を誇っていることから、王国最強の軍隊と謳われていた。
その一方、味方の支援要請を無視し、自らの任務達成のみを優先する事から、自軍の兵士からは「死神中隊」「選別中隊」などと揶揄されていた。
「ああ、いたいた。少尉~!グランツ・ランドルフ少尉~!」
黒い軍服を着た上林は、目的の人物を見つけると、近くまで歩いてくる。
「なんですか、中尉。シミュレーター中に大声を出さないでください」
そこには金髪に碧眼の青年が、戦闘服姿で立ち尽くしていた。目付きは鋭く、身体は同年代の青年以上にがっちりとしていた。
「おっほー。シミュレーター最高記録更新、おめでとー」
「まだまだです。あの女はこんな記録、瞬きする間に更新出来ます」
「相変わらずだねー。・・・・・・とっ、そうだった。任務だ」
~~~
東京王国の領土は首都である東京を中心に神奈川、千葉、埼玉、茨城、山梨、群馬で構成されている。
というのも、現在日本で存続している国家周辺の土地以外は全て、人間の住むこと出来ない人外魔境と化してた。
熱帯雨林の如き森を切り拓き、進むのは練馬基地発長野行きの軍用列車。その車両に揺られながら、グランツは今回の作戦について考えていた。
「今作戦はキョウト帝国軍一個大隊の撃滅だ」
東京23区練馬基地。第4機動魔装中隊のブリーフィングルームに割り当てられたその場所で、隊員たちの前で作戦の説明をするのは緋乃アスカ少佐。
齢24で第4機動魔装中隊の中隊長に任命された、氷細工の様な美貌を備えた、才色兼備な女性将校だ。
「現在キョウト帝国大隊は岐阜の高山を突破した。我々は松本で奴等を待ち伏せする」
「大東海共和国の介入は?」
アスカに対して天川中尉が問う。
岐阜は大東海共和国の領土の1つだ。そこに勝手に踏み込まれれば、流石に何らかの介入をしてくるだろう。
「今のところは無い」
「はー。東京とキョウトに挟まれてるってのに、随分と逃げ腰だねー。奴さんは」
上林が呆れた口調で言う。
「・・・・・・他に質問はないか?」
少しドスの利いた声で言うアスカ。それに対しグランツは手を上げて聞いた。
「敵の種別は?」
その質問に対し、嗜虐的な笑みを浮かべながら、こう答えた。
「鬼だ」
「鬼って我々でいうところの使い魔的なものですよね?」
グランツの隣にやってきた青桐夕が効いてくる。
「少し違う。我々の使う使い魔は基本、魔法演算の補助程度しか出来ん。例外もいるにはいるが、ごく僅かだ」
夕の問いに答えたのはアスカだった。
「対して鬼は普通に戦闘が可能だ。皮膚は呪装弾すら弾き、殴れば戦車の装甲すら容易く拉げる。云わば彼奴らは・・・・・・兵器だ」
~~~
装備品のメンテナンスをしているとき、グランツは違和感を覚えた。
(火薬の臭い・・・・・・いや、赤色魔結晶!)
結晶魔法。自らの魔力や、他の何かを結晶化する魔法だ。
結晶魔法で作られた結晶は魔結晶と呼ばれ、軍は愚か市民層にも普及している。
グランツも結晶魔法は得意な為、その場にいれば、魔結晶の臭いでどのような魔結晶なのかが分かる。
メンテナンスを切り上げ、鎧型魔導兵装(魔装鎧)を起動する。
「おいおい!車内で一体なにやってるんだ!」
「信じる必要は無い。だが、一応言っておくぞ?」
グランツの隣に座っていた上林が叫ぶ。それに無表情で答える。
「赤色魔結晶を見つけた。純度は70、時限式で作動するように加工されている」
魔結晶の質は結晶の純度で決まる。ちなみに、純度70の赤色魔結晶は普通に使用すれば、この車両を吹き飛ばすほどの爆発を発生できる。
グランツの周りにいる隊員達も、直ぐ様列車内から離脱できるように準備する。
「『ビスマルク』!」
グランツが叫ぶと、ビスマルクの左肩部に装備された対大型魔装用3連装魔導砲の砲塔の1つが列車に穴を開ける。
背部と腰部に取り付けられたスラスターが産み出した推力に任せて、列車から脱出する。
後方が、激しい轟音と爆炎に包まれた。
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