今でも



「あたし、好きなんだよね」


沈みゆく夕日の儚さに、けして引けを取ることの無い儚く小さな声だった。


『誰、が?』


いつも通り、とはどの様なものだったか

不意に襲い来る緊張感になす術もなく襲われた僕は、彼女の瞳にきっと情けなく映っただろう。



「誰って言ったら、嬉しい?」


そう言って振り向いた彼女のこれ以上無いほどの笑顔に、誰が見ても不釣り合いな涙が浮かんだ。


本当にこれが最後なんだと

いつまでも現実味のない夢であって欲しかったと


「好きだったなんて、言わせないで」



あれほどにまで悲しい涙を僕は今まで知らなかった。

幼い僕があの悲しみを知ってしまっていたら、生きていられないのではないかと思うほどの、

彼女は一人で抱え込んで、そうしてほんの一部を、僕に、


きっと、今でも、君は

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