<ラスト・ハーレム・ナイトⅡ>~色不異空のデュエルナイト~







<ラスト・ハーレム・ナイトⅡ>~色不異空のデュエルナイト~






 よく勘違いをされることが多いが、色欲とよばれるものは種の保存に不可欠な三大欲求の一つである性欲と同義ではない。


 ‘下種脳’どもの理屈では明確な区別のない二つだが、‘欲望の奴隷’として生きるかどうかという意味合いを考えるのならこの二つの区別は簡単だ。


 欲望に溺れるのなら、誰にでもあって当然の生理的欲求は‘人類の自滅プログラム’を誘発する色欲となる。


 そういう意味では‘欲罪の真魔’として‘リアルティメィトオンライン’の中で象徴として創られた‘色欲’は‘暴食’と並んで解りやすい存在だ。


 ‘宣誓’によってミスリアに巣食うその‘色欲’を祓おうとした時、ノックの音がした。

 扉の向こうで幾つかの気配。

 ‘ラホルス’で探ってみればそれは‘淫気’を伴う三つのよく知った気配だった。

 

 鋭く硬質でいながらしなやかなソレはシセリスの。

 軽やかで躍動的なくせに繊細なソレはユミカの。

 透き通って明るいけれど静謐なソレはシュリのものだ。


(このタイミングでの来訪とはな)

 

 予想していたことだがやはり‘欲罪の真魔’を操るものがいるようだ。

 ‘嫉妬’と同じく‘色欲’も独立AIならば、やはりPSYが関与しているのかもしれない。


 基本的に稼動中のASVRシステムは外部からの監視はできても干渉はできない。

 ASVRの前身である洗脳システムも個人への生理的な情動操作はできても、独立AIは操作できなかった。

 それを可能ならしめるのはオレのようなPSYだけだ。


 今までの事を考えれば‘色欲’を使ってオレに干渉しようという何者かがいる可能性は高い。

 状況から考えればそれがこの状況自体をつくりだした黒幕であると考えるべきだろう。

 そうでないと楽観的に考えて対処を誤れば即それは破滅につながる。


 加速する思考で状況を分析しながら、オレは‘気’を練りながらドアを開いた。


「御主人様。 こちらにミスリアがお邪魔していませんか?」

 そういって纏め上げた銀の髪から落ちる前髪をはらいながらオレを欲情にうるんだ藍色の瞳で見るシセリスには既に濃い‘色欲’の影が纏わりついていた。


 一流企業の秘書を思わせる貴族的な北欧美女といった雰囲気はそのままに凶悪な色香をくわえたその目線は、それだけで経験のない坊やどもなら腑抜けになりそうな‘淫気’を放っている。


「ああ、来ている」

 オレにまで纏わり憑こうとしている‘淫気’がシセリスが‘色欲’の支配下にあることを物語っていた。


 その後ろに立つユミカとシュリも同じようで抑えられない‘淫気’に紅潮した顔でオレを見ている。

 

 ユミカの明るい栗色のポニーテールの下で露になった細い首筋はピンク色に染まり、いつもは健康的な美しさに明るい無邪気さを添えている淡い琥珀色の瞳は淫美に濡れ光り。


 シュリもまたいつもは幽玄な趣をもつ黒い瞳を欲望にけぶらせ、ただでさえ妖艶さを感じさせた綺麗な顔立ちはとろけたようになって艶を増している。



(PSYの誘導によるものなのか、それとも何らかのシステム内のフラグを立ててしまったのか、‘色欲’は増殖していたというわけか)


 それは予想してしかるべき事態ではあった。

 ‘隠者の森’の‘水晶の小屋’に始まった女達の異常な状態。

 男達が見る夢の中にしかないような都合のいいハーレムもどきの状況。


 今にして思えば、それは‘リアルティメィトオンライン’の‘色欲の真魔王’の紹介と酷似した状況だった。

 もっともそのイベントで‘色欲’に侵されたのは男たちでいわゆる逆ハーレムというやつだったのだが。


 だからといってそれに直ぐ気づかなかったのは迂闊だった。

 ASVRの性質上、稼動前からオレが目をつけられていたのでない限り、‘下種脳’どもに彼女達が直接干渉された可能性はないのだ。


 冷静なつもりではあってもやはりだいぶまいっているのかもしれない。

 自分が狂っているという可能性を本気で検討しなければならない、またいつ素性がバレて殺されるかもしれない、という状況は予想以上のストレスだったようだ。


 だがそれで潰れるようならとっくにオレはくたばっている。

 いや、例え死んでも‘下種脳’に屈服する気はない。

 ならば、足りずとも考え、及ばずとも抗い、人として生きるしかないのだ。


(先ずは彼女達に憑いた‘色欲’の活動を沈静化させることだ)

  

 この状態が続くと彼女達の脳が異常状態を常態と認識する可能性がある。

 迅速に女達の意識を落とす必要がある。


「やっぱり。 わたし達も──よろしいですか?」

 一応は許可を求めてはいるかたちだが、有無を言わせぬほどせっぱつまった声音がシセリスの‘色欲’の侵食度合いを表している。


「ああ。 入ってくれ」

 オレは練っていた‘気’をまとめながら女達を招き入れる。

 

 この調子ではルシエラとレイアも‘色欲’に支配されているはずだ。

 そのうち現れると見たほうがいいだろう。

 ならば敵の戦力が集中する前の各個撃破は基本だ。


 オレは彼女達が部屋へと入ると同時に練っていた‘気’を‘淫気’発ちこめる女達の身体へと這わせていく。


「ミスリアあああああっ! ごしゅ……じ……んああああ♥」

 ベッドの上で失神しているミスリアを呼ぶ声が嬌声に変わり、シセリスは腰砕けになり四つん這いでベッドの淵に手をついてへたれこむ。


「ふあああああ♥ やぁ♥ くうう──っ!!」

 ユミカがオレにしがみつきながら崩れ落ちていき、頂点に達してあふれでた‘淫気’がオレへと絡み付こうとして弾かれて消えていく。


「だ……め。 ぃやあああ♥ や♥ ────ッ!!」

 そのユミカの横でシュリは内股になって股間を押さえながらびくびくと震えて膝を折る。


 既にあふれる寸前だった‘淫気’はオレの‘気’がもたらす刺激に耐え切れず、女達は三人三様の敗北の悲鳴を上げながら快楽に屈した。


  女達の絶頂によって溢れ出た三人分の‘淫気’もオレの練る‘気’によって霧散していく。

 ‘ラホルス’によって暴き出された‘色欲’が女達の中で新たな‘淫気’を生み出していく。


 女達の身体の内へと自分の‘気’を滲入させて‘色欲’の‘淫気’が女達を侵食しないように満たしていく。


「ああっ! 来ます──ッ!! くる────!!」

 シセリスが四つん這いのまま背をそらしむせび泣きながら絶頂を訴える声と同時に扉が開く。


 今夜、宿のこの階はオレ達のパーティーが借り切っているので開く前から誰がそこにいるのかは判っていた。


 ウエービーな明るい赤味がかった金髪と少しきつくみえる紅紫色の瞳を持つ小麦色の肌のグラマラスな南欧系の美女と。

 白絹のような光沢を持つ髪を一つに束ねた蒼白い月を思わせる肌の赤い瞳のスレンダーな東欧系美女。


 レイアとルシエラだ。

 やはり彼女達にも‘色欲’の影が纏わりつき、あふれる‘淫気’に己を見失っている。


 ふらふらと室内に入ってくる瞳に理性の光はなく体内を焦がす‘色欲’の影に満ちていた。


 新たに練っていた‘気’を束ねて踊りかかってくる‘淫気’を打ち消しながら二人の身体へと流し込んでいく。


「ひうううううっ!! ぃぐうっ──!!」

 あっけなく‘淫気’が弾けとび、レイアが獣のような声をあげて達する。


「あおおおおあっ!! ────っ!!!」

 後を追うようにルシエラも絶頂を迎え、二人分の‘淫気’が溢れ出し、オレに襲い掛かってくる。


 5人分となった‘淫気’だが、その量も質もオレの‘気’に及ぶ事はなく、打ち砕かれ霧散していった。


 通常ならあり得ない話だが‘リアルティメィトオンライン’を反映したこの世界で限界を超えて設定されたステータスは圧倒的だった。


 5柱の‘色欲’が生み出す‘淫気’を完全に押さえ込み、女達への影響を抑えながら尚あまりある‘気’をコントロールして‘淫気’を浄化していく。


 眠る必要すらない人間離れしたこの体もこういうときだけはありがたいものだ。

 オレは女達の絶え間ない敗北の声を浴びながらそんな事を考えていた。




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