アンチ・チートは伝奇世界の神をみるか? ハードボイルド・ウイザードⅡ
OLDTELLER
<ウイザード VS Mr.チート>~策謀欺瞞のデスゲーム~
360度の地平線、見渡す限り草もなく木もなく、ただ赤茶けた大地が広がっていた。
目の前にいるのは、一人の少年、前髪に一房の銀を刷いた金髪に赤と青の瞳を持つ最強の名を冠する冒険者だ。
そして、日本から異世界訪れた渡り人達を一つにまとめようとした英雄志願で、現実世界では何者かになることを絶望していた平凡な少年でもある。
「僕はあんたを倒してみんなを救う!」
心の底からの叫びを上げて、少年は剣を掲げオレに対峙した。
「知ってるか? 一目で判る個性なんてのは個性じゃなくただの見せかけだ」
オレは相手を揺さぶるだけの挑発をかました。
「黙れ! もう何も言うな!! 刻め、ブライトストリーム!!」
虹色に輝く剣が力任せに振るわれ、斬撃が剣が放つ輝きと同じ色の光跡となってオレへと飛ぶ。
リクエスト通りに無言で光速の斬撃を無言でかわしながら、手に持った杖を無言で振る。
こちらは目に見えない衝撃波が杖から放たれ、少年を撃った。
「こんなもの効かない!」
しかし、少年は少しよろめいただけで剣をふりかぶる。
オレはその声が終わるまでに6発の衝撃波を叩き込むがそれでも大したダメージもないように少年は、身体の前に再度剣を掲げた。
普通ならそこまで平気でいられるわけがない衝撃だ。
岩を穿ち砕くようなものではないが、ひびくらいは入る攻撃をその程度ですませているのは少年が身に纏う白い金属鎧‘アントラプへゾロン’のせいだろう。
少年の言う平行世界であるこの世界と酷似したMMOゲーム─リアルティメィトオンライン─では、レア中のレアであるユニークアイテム。
白銀の神狼と呼ばれるワンダリングユニークから低確率でドロップする魔術によるダメージを8割も軽減する鎧だ。
そして、それ以上に厄介なのがこいつの目だ。
左の青い瞳は問題ないが、右の赤い瞳は只の眼ではない。
リアルティメィトオンラインで精霊神の試練を乗り越えるイベントがあり。
その過程で眼を失い精霊神の眼を得るイベントが派生することがあるが、こいつの眼はそれだ。
それを得るとあらゆる精霊系魔術を見るだけで跳ね返し、神呪系の状態変化も受け付けなくなる。
さすがに周りから歩くチートだとか規格外とか言われるだけのことはある。
まともにこいつと戦って勝つことはできない。
ならば、せいぜい知恵を使うしかないだろう。
「防げ、ブライトイージス」
それでもダメージがいくらかはあるのだろう、声と同時に少年の前に黄金に輝く紋章のようなものが表れる。
あらゆる攻撃を防ぐ無敵のスキルでこれも億を超えると言われたリアルティメィトオンラインユーザーの中で所持しているのは数百人と言われるレアスキルだ。
だが、その無敵の盾が展開したときは、すでにオレは横に回りこんでいた。
連続で杖から衝撃波を放つが、やはり痛そうな顔をさせるのがせいいっぱいのようだ。
この杖はレアアイテムというわけではないから、それもしかたがない。
盾が展開するのが判っていれば回り込めばいいが、打撃力不足はどうしようもなかった。
「くっ! こっちは当たれば終わるんだ。そんな攻撃!!」
そう言っている間にまた7発当てるが、今度はひるまずに剣を掲げる。
「万象を喰らえ! イデアブレイカー!!」
剣から今度は闇色の光が溢れ出し扇状に広がった闇が大地を消滅させる。
完全に呼吸を盗み放たれる寸前に避けてはいるが、その攻撃は120センチちょっとの杖の下半分を喰らい尽くし杖をロッドに変えてしまった。
「本気で殺す気か? 小僧」
オレは攻撃をせずに、声に殺気を込めその一線を本気で越えるのかを問う。
「殺そうとしない相手を殺すのか? 弱いものをいたぶり殺すクズに成り下がるのか?」
心理攻撃ではあるが、本気の問いでもあった。
調子に乗ったガキだが、オレはそんなバカが嫌いではない。
冷めた面で‘下種脳’の常識を口にする、周りに流されて自分でも知らないうちに腐りかけているガキや、あきらめきったような顔で何が楽しいのかも判らなくなったくせに周りに併せて楽しそうなふりをするやつらに較べれば数段ましだ。
だがそういう不器用なガキのいくらかは、欲望に溺れて‘下種脳’になるのではなく、衝動に駆られて保身も考えずに獣のように罪を犯す。
こいつもそんな‘愚種脳’に成り下がるのだろうか?
オレは、どうしてこいつとこうなったのかを思い出しながら小僧の歪んだ顔を見ていた。
そう、ここに至る道程を。
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