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 ここまで聞いてて、ますます、この話はホシノヒカルの妄想なんだな、みんな思ってた。たとえまったくの作り話だったとしても、ここまで淡々と人の殺し方が語られていくのを見てると、ホシノヒカルが、いつか本当に殺しをはじめるんじゃないかっていう不安も感じていたよね、実際。

 モニター見てた刑事のなかにはさ、彼女を拘束して事件として調べるべきだというのもいたんだけど、そんなことは、とうてい無理。警察って法律の範囲でしか動けないからね。なんの証拠もないし、そもそも、まだ、事件ですらなかったんだから。


「はいはい。サクサク行きましょう。次は、この子なのです」と、また、ホシノヒカルは三枚の写真を取り出した。

 ヤマザキとツムラは、三枚の写真に見入ってしまった。

 歳よりちょっと幼くみえる女性。くっきりとした目ときれいな鼻筋。そして、黒髪。一枚目は、勤めてる会社に出社するところだろうか。周囲の先輩たちに爽やかな朝の笑顔を振りまいてる。二枚目は、両親と一緒にどこかのビーチリゾートに旅行中って感じ。そして、三枚目は、カレシっぽい同年代の男子と手をつないで街を一緒に歩いているところ。幸せそうで楽しそうで、やっぱり笑顔が印象的だった。

「似てるなって思っているんでしょ。ハナサワリカちゃんと。彼女がそのまま大人になったみたいだって」

「そうそう。そっくりなんだよな。ホント同じタイプ。ほら、こうして並べてみたら同一人物じゃん。この子もめちゃくちゃかわいいな。すごいね、こんな美人OLが世のなかにいるんだ。な、ツムラ」

「ですよね。いるもんなんですね」

「知らないなら教えてあげるけど、連続殺人鬼ってのはね、わりと同じタイプの子を殺していくものなの。自分が大好きなタイプの子。ヒカルの場合は、黒髪、ぱっちり大きなお目々、すらりとしたスタイルで、足が長くて、姿勢のいい子。そしてかわいらしい笑顔。男の子がね、ひとめぼれしちゃうタイプ。ヒカルの場合は、その線でちゃんと統一してるんだよ」

「なるほど。ヒカルちゃんは、そういうの几帳面なんだね。めちゃくちゃ真面目なんだ。なるほどなるほど。一応いっとくけど、シリアルキラーの特徴くらいのことは『クリミナルマインド』とかで勉強したから、ヤマザキわりと知ってるかな。いや、知ってる? むしろ熟知してる、いや、むしろ天才プロファイラーかもしれない? な、ツムラ」

「はい。熟知してますね。署でめちゃくちゃ流行りましたもんね、『クリミナルマインド』。ヤマザキさんなんか、仕事そっちのけでずっと観てましたし」

「せやね。ゆうても、まあ、曼珠署のエースやし」

「はい、ヤマザキ刑事はエースですからね」

「で、この女の子は、誰なんだっけ?」

「えーとですね。この子は、ハセガワミヅキちゃん。二十三歳。日本橋の証券会社に勤めてたんだよ。ちなみに結婚を約束したカレシもいたんだよ」

「あ、データベースにありました。ハセガワミヅキ。2015年に死亡。んー、こちらは自殺ですね。遺書も発見されてます。こりゃ、カレシもかわいそうだわ」と、パソコンを操作しながらツムラがいった。

「うーん。ヒカルちゃんさ。彼女ってば、自殺なんだって。どーすんの? これ」

「うん、知ってるよ。マンションから飛び降りたんでしょ。それもクリスマスに。ちょうど通勤時間だったから、あたりは大騒ぎだったんだって」

「それでは、この件、自殺ってことで終了。自殺自殺。こんなにかわいいのに自殺。世のなかおかしいよな」

「でも、そうなるように仕向けたのが、わたしだとしたらどうです?」

「なによ、なによ。ヒカルちゃんが自殺に追い込んだっていうの? そんなんできるわけねーじゃん。自殺させるとか。魔術師か! エスパーかってえの」

「うん、魔術とか超能力とかそういうのじゃないんだけどな。まあでも、心を操って自殺させるって、意外に簡単にできちゃうものなんだよ」

「ココロ操っちゃうの? ココロって気持ちと感情とかってこと? ヒカルちゃん、それができたら王様になれるってば。あ、女王様か。心操って自殺させられるんだったら、最強魔導師じゃんか」

「魔導師じゃないんだけど、まあ、そこがふつうの人とヒカルの違いなんだよ。ハセガワミヅキちゃんは、子どもの頃からかわいくて、ヒカルもそうじゃないですか。だから、ミヅキちゃんみたいな子の気持ち、すんごく深いところまで理解できちゃうんだよ」

「まあ、ヒカルゃんかわいいからね。わかるよね、ミヅキちゃんの気持ち、手に取るようにね。な、ツムラ」

「そうですね。ヒカルちゃんならお茶の子さいさいっすよね」

「そうなのです! で、ハセガワミヅキちゃんってば、心療内科の通院歴があったんだよ。ま、これもヒカルと一緒なんですけどね。ほら、かわいい女子は、いろいろと大変だからね」

「なるほど。大変だよね、かわいい女子ってのは、いろいろ大変だよね」

「ヒカルは、そこまで調べて、彼女を確実に自殺させることができる、って確信したんだ。どうやるかわかる?」

「いやいやいやいや、そんな、他人を自殺させるなんて、わかんないっすよ。ヤマザキ、人生長いけど、そういうこと考えたことないから。想像もつかないっすよ」

「実は、めちゃくちゃ簡単なんだよ。まず最初に疲労させる。次に孤独にする。そして最後に絶望させる。この三段階でダメージを与えていくんだ。それで、たいてい自殺しちゃうんだよ」

「えー。なんかカッコいいじゃん。ヒカルちゃん、理路整然系? なんか犯罪の先生みたいだわ」

「そう? ヒカルこう見えてもめちゃくちゃ勉強したんだよ。どうしたら、誰にもばれずに人を殺すことができるか。殺しってわかんないように。そのなかでハードル高かったのが、自殺させることだったんだ。ヒカルは、チャレンジングな課題にこそ、萌え萌えになるんだよ」

「なるほど。萌え萌えなんだ。それで、自殺で殺すことにしたのか。深い、深いな。で、どうやって自殺させたの? 勉強させてください」

「まずね、第一段階の疲れさせる。人が疲れるって仕事とか睡眠不足とかだと思うでしょ? でも、そんなの他人がどうにかできるものじゃないんだよ。でも、ミヅキちゃんみたいな女の子って、ちょっとしたことがストレスになるの。ヒカルは、彼女に計画的にストレスを感じさせるようにしたんだ。小さなストレスが少しずつ積み重なって、大きな疲れになるようにね」

「はあ、よんわかんない。ヤマザキやっぱ勉強不足なのかもしれない」

「んとね。彼女の部屋に忍び込んで、少しだけ部屋の物の位置を変えていったんです。あんまり生活に関係ないような物。朝出かけたときと、ほんのちょっとだけ位置が変わっているんの。テーブルの上の花瓶とか、ゴミ箱とか、鏡の角度とか、雑誌とか、アクセサリーとか。そういうのを、ほんのちょっとだけ、2センチくらいズラしたんだよ。気づかない程度ってのが大事。だって気づかれたら、警察呼ばれたりカレシに相談したりされちゃうじゃないですか。だから、気づかない程度」

「んー、よくわからないんだけど。気づかなきゃなんの意味がないんじゃない? 意味ないよねー。気づかないんだから。何も起きてないのと一緒だから。俺なんか、自分の部屋の物が2センチくらい動いてても絶対にわかんないし、ストレスにもならない自信ある。ってか、カミさんが模様替えとかしても、気づかない自信あるわ。なんなら、目の前で動いてても気づかないかもしれないから。な、ツムラ」

「はい。ヤマザキ刑事の机の上とか、何がどこにあるかわかんないですからねー」

「オジサンたちには理解できないのかなぁ。気づかないことが大事なんですってば。意識に上らない程度の変化が続くじゃない。頭では気づいてないんだけど、体とかはちょっとした変化でも感じとっちゃうんだよ。たとえば、ゴミ箱の位置がズレてると、歩いてるときに蹴っちゃったりするじゃない。あれよ。体の無意識には『あれ? 変だぞ』っていう体験が刻まれていく。それが、少しずつ、少しずつ積み重なって、その違和感みたいなものがストレスになって、心に積み重なっていくんです。それが、ミヅキちゃんを内側から少しずつ壊していくのです」

「あらあら、オジサン的には、またまた、ちょっと怖くなってきたわ。なるほどね、気づかなくてもね。体は気づいてしまうのね? やっぱ、怖えよー、ヒカルちゃん」

「それでですね。半年くらいそれを続けたんですよ。そしたらミヅキちゃんってば眠れなくなったみたいです。いつものように忍び込んだら、ゴミ箱のなかに飲み終わった抗不安剤とか向精神剤のシートが捨ててあるようになった。レンドルミンとかデパスとか。ミヅキちゃんってば、また心療内科に通い始めてたんですね」

「なるほど。でも、俺なんか、クスリの名前とかわっかんねえな。ぜんぜんわっかんねえや。ぜんぜん。俺たち基本的に健康だからなぁ。バカがつくくらい精神的には健康だからなー。な、ツムラ」

「はい、そうですね。図太くて図々しくないと、刑事やってらんないですから」

「そうなんですかー。すごいですね、デカって。で、ここで大事なのは、焦らないことなんだよ。クスリを使うようになっても、焦らず、ゆっくりと丹念に続けるのが大事。ヒカルちょくちょく時間作って、物をズラし続けたんだ」

「でもねヒカルちゃん。よくよく考えたらね。部屋に侵入するってのは、少し、なんていうの? 無理スジ? 無理目? リスク高くない? さすがにそれだけ頻繁に出入りしてたら、誰かに見つかっちゃうでしょ」

「そう思うでしょ。でも、ぜんぜん大丈夫だったのです。たぶん、誰かに見られてても毎回違う印象になるようにしてたからかな? 変装ってわけじゃないけど、違うタイプの服装で、ときどき男子の格好とかして。ほら、防犯カメラとかもあるから、同じだと怪しまれるからね」

「そうか。毎回、聖ポワンカレの制服とかじゃないんだ。そうだよね、そりゃそうだよね。それじゃあ、気づかないよね」

「とりあえず、疲労させることは成功したので、次は、第二段階です」

「あ、そうか。孤独にさせるってやつな」

「そうゆうことです。孤独にさせるには、ミヅキちゃんが周囲の人たちから孤立させるのが一番ですよね。自分のことを仲間だと思っている人たちが態度を急変させる、みたいな」 

「うーん、それ、辛いよね。辛い。辛すぎる」

「でしょ。でもね、そういうのって、なんかつまんないじゃない? たとえばですよ、たまたまミヅキちゃんだけがしってしまった同僚の女の子の秘密があるとするじゃないですか。その子が風俗でバイトしてて、店から帰るときに偶然ばったりと出くわした、とか。ミヅキちゃんは、その子に『絶対に誰にもいわないからね』って約束するんだけど、次の日には、会社ぜんたいにしれわたってるの。その子が会社辞めることになったりして。で、誰が、秘密をばらしたんだろって詮索が始まって。すると、それ、ミヅキちゃんだわ、ってなって。ミヅキちゃんって、そういうのバラしちゃうような子なんだねって。それから、逆に、会社じゅうの女子からハブられるみたいな。そんな孤立のさせ方。そういうストーリーって、すぐに思いつくし、ミヅキちゃんを観察してれば、その通りに実行して、孤立した状態をつくるのは、けっこう、簡単にできちゃうんですよね」

「おお。それ、怖いね。ぬれぎぬ系ね、それ一番怖いわ。会社で立場なくなったら、厳しいじゃん。いられないじゃん。な、ツムラ」

「はい、厳しいですね、いられなくなっちゃいますね」

「でも、そんなことは誰でもできちゃうんですよね。つまんない。だから、もっと面白いことないかなって考えたんです。で、彼女を思い出から孤立させることにしたんですよ」

「んん? あーダメだわ。ぜんぜんわかんなくなってきた。それ何語?」

「簡単にいうとですね、大切な過去にまつわる物をですね、彼女の生活から少しずつ消していくんですよ。カレシからのプレゼントとか。写真とか」

「えー、そんなんバレるじゃん。バレるよ。絶対に気づくってば、な、ツムラ」

「そうですね、いくらなんでも、それは気づきますね」

「そうじゃないんだなぁ。大事なのは、あるときふと『あれ、そういえば、あの指輪どうしたんだろう』みたいに気づくってことなんですよ。いつも身につけている物とか頻繁に確認するものだとすぐにバレるんだけど、大事にしまっている物って、あんまり確認しないじゃない。それに、記憶も曖昧になっているし。ミヅキちゃんは、精神的にもだいぶ参ってきているし。クスリも飲んでるし」

「なるほど、なるほどね。弱っちゃってるからね、ミヅキちゃん。かわいそうにたいへん弱ってるからね」

「ヒカルが消したのはね。まず、ミヅキちゃんが引き出しにしまっていた写真なんだよ」

「それはカレシとの旅行の写真とか?」

「違うよ。現在進行中のカレシとの写真とか、別に、思い出ってわけじゃないじゃないし、けっこうすぐに気づくじゃない」

「おー、そうゆうことか」

「少しずつ、なくしていくんですよ。七五三のときの写真とか、子どものころの家族旅行でミヅキちゃん自身が写っている写真とか、元彼の写真とか。次に、物ね。昔のカレシが忘れていった靴下とか、もらったネックレスとか」

「それは、いくらなんでも気づくでしょ。ちゃんと意識として気づくでしょ」

「うーん、おかしいなって思いますよね。でも、そういうのが少しずつ続いていくと『あれ、もしかしたら、そういう過去は存在しなかったのでは』と思うようになるんですよね。最初は、めちゃくちゃ探しますよね。『あれ? ここに入れたはずなんだけど、どうしたのかな』って。でも、出てこない。出てこないってことは、もともとそんな過去はなかったんじゃないかって疑いだす。それが、しばらく続くんだよ」

「誰かに相談するでしょ、ふつう。それか警察に相談するとか。そういうの多いよ、警察。な、ツムラ」

「あ、はい。そういうの多いですね。むしろそういうのばっかですね、曼珠署の事件なんて」

「たぶん、警察にも相談してたはずよ。警官きてたこともあったし。ヒカルは絶対に部屋に忍び込んだ形跡残さないから。大丈夫だったのですけど」

「……あ、記録ありましたね。生活安全課の連中が、確かにハセガワミヅキちゃんの部屋に行ってます」と、パソコンの画面を見ながらツムラがいった。

「ずるいよ。ずるいよ生活安全課。ヤマザキも誘ってくれればよかったのに。会いたかったなぁ、ミヅキちゃん」

「なんの異常も認められなかったってなってますね。誰か侵入した形跡もないって。だからミヅキちゃんの記憶違いじゃないかってことになってる」と、ツムラ。

「ね、そうですよね。だってわかんないもん。あと、カレシにも相談したみたいですよ。でも、ほら、元彼の写真がなくなったとかいえないじゃない。だから、いうことに小さな嘘がまじっちゃってて。まあ、クスリ飲んでることとかカレシもしってたんで、あまり真剣に聞かなかったみたいなんですよね」

「ん? あれっ? ところでヒカルちゃんさ、ずいぶん遠回しなことやってない? そんなことが可能なんだったらさ、ほら、ミヅキちゃんオリジナルの毒薬あるじゃない。ハナサワリカちゃんを心臓麻痺で死なせたって猛毒ヒカル一号。あれで、いいじゃん。その方法のが簡単じゃない?」

「え、ありえないよ、せっかく連続殺人するのに、同じ手とかありえないから。つまんないじゃないですか」

「えっ、つまんないとかあるんだ。人を殺すのにつまんないとか。頭のいい子はわかんないな」

「そうやって、相談できる人もいなくなって、彼女は孤立していったんです」

「なるほど、孤独になってる。ここまで、ヒカルちゃんの計算通りなのか。そして、第三段階か」

「そうだよ。ここで、絶望を与えさえすれば、彼女は人生を断ち切ることができるのです。彼女に残された最後の希望を断ち切るのです」

「えっ、結婚? もしかして結婚?」と、ヤマザキがつぶやく。

「正解! さっすがヤマザキ刑事です。そうなんですよ、結婚を奪うのです」

「えっ、まじ。まじか。もう、十分に疲弊してるじゃん。もう、精神的にも追い込まれて、カレシにも不信感持たれて、ギリギリじゃない? はしっこじゃん。地球でいえば、こう、海の果てを亀が支えてるあたりじゃん。そのまま滝になって落ちちゃうとこじゃん。このくらいで許してあげようよ。最後の希望まで奪わなくていいじゃん。なあ、ツムラ」

「はい。そうです。これじゃあ、ミヅキちゃんが、ミヅキちゃんがかわいそすぎます」

「彼女にとって、最後に残された希望がカレシと約束した結婚なんだよ。ミヅキちゃんは、その約束だけをよすがとしてこの世につながっていたのです。それで、それを奪うのは彼女を自殺させる計画の仕上げなのです。どうするかっていうと、とても簡単なんだよ。だって、相手の男がいなくなればいいだけだから」 

「まー、そーだけどさー。そんな簡単にいなくならないでしょ。カレシ略奪ですか? ヒカルちゃん。若さを武器にロリコン男子を誘惑ですか。オニすぎる」

「クラサワタカオ 二十四歳 敷島重工勤務」と、ホシノヒカルがつぶやいた。

「なにーなになになに、それ。婚約者?」

 ツムラはパソコンに名前を打ち込んだ。

「その人、交通事故で死んでますよ。2015年十二月に」

「そうなんですよ。結婚という最後の希望を奪うのは簡単なんですよ。相手がいなくなっちゃえばいいだけなんだから」

「えっえーっえーっ。ハセガワミヅキちゃんを自殺させるために、ヒカルちゃんは、この婚約者を殺したっていうの? えっ、偶然だよね偶然。こんな怖いこといくらなんでもしないよね。女の子ひとりを自殺させるために、べつの人を殺すなんて」

「ええとですね、ヤマザキ刑事。事故に見せかけて人を殺すなんて、とっても簡単なんだよ。でも、クラサワタカオについてはノーコメント。だって連続殺人とは関係ないから」

「もう、俺、交通課の現場検証とか信じられなくなったわ。こんなかわいいヒカルちゃんが、そんなに簡単に、人を事故に見せかけて殺したりできちゃうんだったら、事故にみせかけて殺された人なんて今までずいぶんいたんじゃね? なんか、殺人になってない殺しっていっぱいあるんじゃね?」

「いえいえ、そんな。ヒカルが殺ったなんていってないじゃないですか。とにかくですね、ミヅキちゃんは、そうとうがっくしきちゃったみたいなんだ。ホントかわいそう。もう、彼女が自殺するのは必然だよね。ヒカルは、また正解を出しちゃったんだよ」

「んー。ヒカルちゃんの話聞いてると、ホント、その通りに殺してきたように聞こえてくるから怖いわ。んでも、自殺だからな。遺書もあるし」

「ヒカルはですね、ミヅキちゃんが、いつ自殺するかもしってたんですよ。カレシが事故死してから七日後、クリスマスの朝しかないじゃないですか。街は電飾でピッカピカでどこもかしこもキラキラしてて。ミヅキちゃんみたいな子は、ロマンチストなのです。だから、その日に死ぬんじゃないかなって思ってたんだ。クリスマスの朝、通勤時間。ヒカル、そろそろかなって思ったんですよ。学校にいく途中だったかな。キレイに着飾ったミヅキちゃんが空から降ってくる映像が、ミヅキの頭のなかにはいってきたんですよ。リアルだったな、あれ。ヒカルは、落ちていくミヅキちゃんに『メリークリスマス!』っていってあげたんだよ」

「うあ。ぞーっときた。ぞーっと。やっぱ、ヤバいなーヒカルちゃん。なんか、そういう、むしろべつの才能あるんじゃね? 女子高生ミステリー作家とかなればいいじゃん。それなら、曼珠署のエース、ヤマザキ刑事がいろいろ取材の手伝いとかするわ。いいえ、むしろさせてください。な、ツムラ」

「はい、そうですね。なんでもお手伝いしますよ」

「だから、作り話じゃないんですってば。ホント。それとも、もう話やめます?」

「いえいえ、そんな。ここまでしゃべってもらって、もう、俺たち、最後まできかないと眠れないもの。気になって眠れないもの」

「じゃあ、続けますよ」

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