2巻発売記念!「2章を思い出そうキャンペーン!」(3/4)


『ダンジョン農家! ~モンスターと始めるハッピーライフ~ 2。 夏だ!祭りだ!超級だ!』

発売記念SS『タヌキ信仰』

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 俺の名前はルーカス。

 初級冒険者で……、自らの未熟さから右腕を失った。その為今は休養中だ。

 冒険者になって数年、仕事も順調でレベルも上がっていた。

 だがきっとこのままでは偉大な先輩たちを追い越せない。だから焦ってしまった。

 俺は右腕を失ってそのことに気づいた。

 俺は、俺達はもっと慎重であるべきだった。

 低層のダンジョン産業に従事しつつ先輩冒険者の言葉を聞き、自由時間で探索を繰り返しゆっくりと経験を積むべきだった。

 俺は冒険者は休みながらも義手を付け冒険者組合の雑事を手伝う。

 メアリー様の再生術の順番待ちは半年先である。

 半年先でもあの方の奇跡の回復魔法を受けられるのだ。早いと考えた方が良い。

 だがしかし、それまでに俺の体が右腕がない事を正常な状態だと記録させてはいけない。

 その為に義手を着け右腕を使う。そしてあるべき姿を想いながら生活せねばならなかった。

 俺は俺のことで精一杯で仲間たちの変化に気付かなかった……。気づいてやれる余裕がなかった。

 リーダーのフィアルと魔法使いのハーティは何かにとり憑かれた様に功に焦っていた。ヒルメだけはいつも冷静で正しい行動をしていた。

 それは醜い嫉妬だった。俺はこんなにも苦しいのにあいつらは冒険を続けている。ヒルメのいう事を聞いていれば、失敗を活かせれば、あいつらは成長するだろう。それが俺には耐えられなかった。おいていかれるようで……。

 醜い。

 本来ならばヒルメと一緒にフィアルやハーティを諫めなければならなかった。俺の言葉なら冷静になってくれることは理解していた。だが、しなかった。その結果、フィアル達は南の森へ単独パーティで向かい。夕方になっても戻って来なかった。

 焦った。

 俺が、俺ならばあいつらの無謀を止められた。

 なのに俺は止めなかった。こうなることは容易に想像できていたのに……。

 なのに俺は後悔している。予想道りの結末に。後悔先に立たずである……。

 冒険者組合でポーション整理を手伝っていた頃に、南の森に向かったやつらが戻らないことに組合の幹部たちが探索部隊を送る相談を始めていた。

 自分の情けなさに手が止まる。

 頭に罪悪感が居座り重く重くのしかかる。そして俺の正義感が心臓を刺すように圧迫する。


「おっ、俺も!」

 探索に行く! と言いかけたところであいつらが帰ってきたことを伝える兵士が駆け込んできて幹部たちは三々五々各自の業務へ戻っていった。

 安心した。心からほっとした。力が抜けて立てなかった。組合の仕事を教えてくれる先輩が肩を叩き奥で休む様に気を使ってくれた。俺はその気遣いに甘える。

 少し休むとあいつらが戻ってきたと聞いてフロアに向かうとタヌキと何やらやり取りをしているあいつらがいた。そしてタヌキは去っていった。

 寂しがっていたあいつらに俺は声をかけ、……そして謝罪した。

 あいつらは今回の事で流石に反省したらしく謝罪してきた。お互い謝り合った。

 仲間を想う心、仲間を妬む想い、そしてクラス20にも出場できない現状と適正レベルの階層で全滅しかけたことで発生した焦り。その日俺達は組合の隣に併設された酒場で各々想いをぶつけあった。理論的ではなかった。感情的だった。でも感情を想いをぶつけあわないで命を預けられるだろうか? できない。

 俺達は本当の意味で着実に成長することの大切さを知った。

 そして、なぜだかあのタヌキが俺達が予備予選すら通過できなかった格闘大会の決勝戦に立っていた。

 俺達は思った。あれは聖獣の類(たぐい)に違いない、と。

 俺達を救い。努力すればタヌキだってできると示してくれたのだ。間違いない!

 追伸:先日ようやくタヌキ信仰の村を発見した。皆で行くつもりだ。そこであのタヌキに会えるといいな……。

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