第92話「戻らないあの子……前編」

【警告、右肩武装の破損を確認】

【警告、左主砲大破を確認】

【警告、操作魔法道具に致命的な障害を検知、10秒機能を停止します】

 ニャンダーの視界に拠点攻略型武装の破損状況を報せる警告がひっきりなしに映し出されている。


「わかってんのよ! 邪魔!!」

 ニャンダーが右腕でパネルを叩くと白い煙を上げて左右の武装が外れる。


 何度目の対決であろうか、この黒い鎧が現れてからニャンダーは5階層で足止めを食っていた。

 先日はランカスとシュッツの助力を得ても打ち破れなかった。

 その実力はまるでダンジョン下層の階層主の様だ。

 それが浅い層にいる。

 とてつもない脅威のはずだが、一般の冒険者には見向きもせずニャンダーにのみ固執しているので冒険者組合としても本格討伐に不意きれなかった。何よりそれほどのモンスターが広場ではなく通路を狙って現れるのだ。狭い通路で個人戦。その上モンスターは冒険者の中でも圧倒的な強者であるランカスとシュッツをものともしない。そこで費用対効果を考えた冒険者組合はニャンダーの支援を諦めた。

 黒い鎧の姿はまるで西洋甲冑である。全身鎧の形をとっているがそれがまるで一つの生命体の様である。ヘルムの後ろからポニーテールの様な飾りは正に髪の様だ。

 右手にランスを握り、左手に盾を持つ。そして両足のブーツ脇から噴出される圧縮空気で黒い鎧は高速移動でニャンダー達を翻弄する。

 現に、初回は当たっていた拠点攻略型ニャンダーの攻撃が徐々に当たらなくなっていった。

 そして現在、集積型ミサイルすらも全てかわされる。

 黒い鎧は毎回執拗にニャンダーを狙う。

 毎度おなじみの黒いモンスター達はモルフォス達が抑えている。流石に拠点攻略型ニャンダーとはいえ挟み撃ちにされるとひとたまりもない。

 人形王がつけた黒子たちは歯がゆい表情でついてきている。彼女らはあくまで黒子である。コムエンドのダンジョンマスターとの間に人形王が関与できるのはここまでと事前の調整がなされていたかである。

 10度目の攻略であった。

 冒険者たちの知らない罠エリアに誘い込まれ、落とし穴が発動した。黒いモンスターと対峙していたモルフォス達はそのまま黒いモンスターと共に落下していった。

 空中に浮遊していたニャンダーとブーツから噴射する空気で同じく空中に浮遊する黒い鎧と、黒子たちを除いて……。

 そして次の瞬間、ダンジョンマスターも認識していない罠が発動した。

 両脇の壁に魔法陣が浮かびニャンダーと黒い鎧を転送した。

 これについてダンジョンマスターを責めることはできない。何故ならば設置されていたのは地球の魔術と魔法の混合術式だったからだ。地球からの転移者が【異世界人】として明確に存在するこの世界で予測外の技術は存在する。

 これに慌てのはお目付け役……いや監視役としてついていた黒子たち。

 彼女らは拠点攻略型ニャンダーの技術流出と悪用の監視、更に装備自体の性能測定が任務であった。それが消え去ったのだ。慌てもする。

 その後、人形王経由でダンジョンマスタ2柱と連絡を取った黒子たちだがニャンダー達を追う事は出来なかった。

 まさかのダンジョンからの転移術発動という事態を受けダンジョン上層部は慌ただしく動き出したのだった。

 

※書籍化2巻発売しましたので、仕事の合間で申し訳ございませんが頑張って更新していきます!※

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