第88話「闇の勢力」
とあるシャドーは語った。
「ジュワッ(あれ実体弾じゃなかったんだよ!)」
ニャンダーが放った集束型魔法力ミサイルのことである。
「ジュワッ(ほら俺は魔法力生命体じゃん。核を撃たれなければ死なないわけじゃん。だからさ体を通過したら物理的に干渉して全てをそらそうとしたのさ! でも、酷い! 騙し打ちだ! 魔法力弾だったんだよ! 物理なのはあの大きな弾頭だけだったん! ひどい目にあった……)」
めそめそと泣き始めるシャドーを慰める、黒いナイトスケルトン。
「バウ(助かって本当によかったよ)」
「ギャッ(全弾引き受けたその姿、勇者みたいだった!)」
「ジュワッ(うわーん! 余裕だと思ったんだよーー!)」
「コケ!(どんまい! でも助かったよ、勇者!)」
次々に集まりシャドーを慰めるモンスターたちを、冷たい目で見下す魚がいた。
「君たち、我らが神の軍団という栄誉を拝しているのに、ここ最近敗走続き。ふがいないと思わないのかな?魚的に不思議でならないよ」
これ見よがしに放たれた言葉、黒のモンスター軍団は魚を一瞥すると憐みの視線を投げかけて無視した。
「バウ(次があるさ! 次が)」
「ギャッ(とりあえず、ご飯食べよ!)」
「ジュワッ(あ、それいいね!)」
「コケ!(この間10階層の人間と取引して色々保存食もらったんだ! それたべよ! あ、全員分あるからみんなもおいでよ!)」
ガヤガヤと和気あいあいと言った雰囲気で黒いモンスター軍団はこの集会フロアを出ていった。
「がう(デスマーマン様、信用しないと信用されないと、自分は思うのであります)」
黒いギガベアは敬礼しながらそう言うと、いそいそとモンスター軍団を追いかけていった。
広いフロアに魚が一人取り残された……。
「……信頼……ね。…………してるさ、ちょっと発破かけただけじゃないか……はぁ……」
魚は肩を落とし奥の小部屋に向かう。
重い扉を開くとそこは明るい部屋だった。
ソファーとテーブル、シミ一つない豪華な絨毯が敷き詰められていた。
魚はそっと冷たいお茶の入ったティーポッドをテーブルに置きそっとソファーから離れた。
「だらしがないですね」
侍従神エラは不機嫌そうにティーポッドを手に取ると空いたグラスに注ぐ。
「……お恥ずかしい限りです……」
ゆっくりと頭を下げ謝罪の意を示す魚を興味なさそうに横目で見る侍従神エラ。その視線は冷たい。
「……うーん、やはり地上の物は美味しい。天界は食べる必要がないから味が衰えてしいますからね……」
上機嫌でお茶を口に含む侍従神エラ。
「……30階層の権三郎農園の新作にございます……」
「あら、という事はダンジョン作物なのですね。という事は天界に流通する日も近いのかしらね……」
天界では食事の必要はない。しかし、食事という娯楽は確かに存在する。
必要としないことを管理業務で激務である神々が果たしてするかというと、娯楽としての食事を求める神々は少数である。辛うじて奉納される事の多い酒だけは多くの神が娯楽として楽しんでいた。そこに最近ダンジョンマスターからダンジョン作物が一部流通が始まっている状況である。
「……さて、困ったことになったわね……」
「……返す言葉もございません」
頭は上げないが魚は侍従神エラからの圧力が増したことに気付き冷や汗を流す。
「……返す言葉がないですって?……ではなぜこのような状況になっているのですか?」
侍従神エラが指を鳴らすと球体上の鏡が中空に表れる。それは先日行われた着ぐるみファイトの会場を映し出していた。
映し出されたのはメイちゃん(大志)とダックスフンド型の着ぐるみである。
戦闘の部は終わっており芸術審査のシーンである。
審査員の前で芸をするシーンでメイちゃん(大志)は魚が渡した補助魔法道具を使用せずにハート形の光を巧みに操り女児の人気を集めている。
魚は滝のように冷や汗を流している。
「あれだけの物資を与え、あれだけの知恵を与え、そして加護まで与えた……しかし、罪人は、死すべき定めを持つ神の子は、生きていますね。そして今後も生き残るための力を得た……」
映像では勝名乗りを受けたメイちゃん(大志)とダックスフンド型の着ぐるみが抱き合って健闘をたたえ合っていた。
ピシッ パーン
鏡にひびが入り次の瞬間弾けた。
「次回こそは必ず! あのニャンダーという「責任は誰がとるのですか?」……現場指揮官である私の不徳がいたすところ……今度は事が表ざたになっても私が……」
黒のモンスター軍団を批判してしまえば楽であった。使えない部下の部下を非難して矛先を変える。所謂、問題が起これば部下の責任、成果を上げれば自分の手柄、というやつだ。
魚の脳裏にその様の言葉が浮かんだがすぐに消えた。黒い感情から知性を得た黒いモンスター達、心には魚と同じく黒い感情を抱いているが彼らは懸命に今を生きている。処分して次の可能性にしてしまってもいい。今魚的には魚が再起する方が大切だ。だが、魚の知性は、感情は、彼らが成功するために厳しくはできても切り捨てることはできなかった。
「仲間を思う心、それは美徳です。私も、主もその心は愛おしく思います」
プレッシャーが引く、魚はほっとした。だが次の瞬間。
「ですが、どうやって成果をだすのですか?」
「私が前線に「貴方が出るという事はここのダンジョンマスターに我らの関係が露見するという事になります」……しかし……」
それしかない。ニャンダーが強化された。リスクのある力だが流石は神の眷属と扱われている人形王。亜神の領域であるダンジョンで大ぴらに介入はできないが補助はできるとばかりに強力な武装を提供してきた。
「あれは現有戦力では足止めすら無理だとわかってしまった。しかし、あの猫が再び大志に接触すればさらに地球で使える魔術を、身を守る術を身に着けてしまう……。死すべき定めの者が、我が神が定めた理を、同じく神の不正により破られてしまいます。しかし、ニャンダーとかいうあの体を維持する為には2週間に一度は外気にさらさねばならぬそうです。現在一度地上に戻っています。ですが、次回こそ……」
「……故に私が参ります。母上にも把握されていない術があります。……それは、神エラよ、あjなたより賜った加護により発言した力……」
凍り付く時間、数分が数時間に感じていた魚は意を決して立ち上がり術を披露する。
「……わかりました。ですがこちらも安全対策を打たせていただきます。いえ、安全策を打たせていただいていました。が正しいでしょうか……」
「……」
「おや?落ち着いていますね。もしかして知っていたのですか?小賢しい」
言葉とは反面、ふふふ、と楽し気に笑う侍従神エラ。
「次負けたら、あなた達には自壊してもらいますよ」
魚は黙ってうなずいたのであった。
※書籍化2巻発売しましたので、仕事の合間で申し訳ございませんが頑張って更新していきます!※
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