第64話「英雄を目指したもの」
聖剣。
響きだけ聞けば聖なる剣だが、その実鍛冶の神が神剣を作る途中で作った試作品だ。
意識を持つが神剣の様に自由自在にその姿を変えることはできない。
無論自我はあるが、方言をしゃべったり喜怒哀楽を激しく主張したりしない。
神剣がその力を常時・無尽蔵に振るえるのに対し、聖剣は己の力と適合者の力を消費する。一度使い切ってしまえば1年以上互いに力を使えなくなる。だが、それだけに最大出力のみ神剣と同等かそれ以上の威力を発揮する。
この世界に神剣と呼ばれる剣は3振りある。対して、聖剣は世界各国に40振り存在する。
どちらも希少だが割と大国となった国の王が所持または保護するのは聖剣である。
故に、各地の伝承に伝えられる神より賜りし勇者の剣は大体聖剣である。
(私は、聖剣などより優秀である)
イットが初めて聞いた聖剣の言葉だ。
突然しゃべりだした剣に、しかもイットにしか聞こえない声で、イットは対応に戸惑う。喋ると変人であり。剣と仲良くしている姿は空気を読まないイットでも何かを拗らしていそうで嫌であった。
(私は、神剣などより優秀である)
(何故、いきなり話し始めたお前?)
イットは声に出さずに問う。剣と向き合っているので何とか刃物マニアにとどまる姿である。
(あの女より神剣の香りが、ほんの少しだがする。適合者よ。神剣に我らが力を見せつける機会が近い。心せよ)
(………つまり、神剣を見返したいから、俺に協力しろって事かな?)
(然り)
イットは少し考えて答える。
(超級モンスターを倒せるって事かい?)
(正しくは、神剣より活躍できるという事だ。伝承に伝わる勇者や英雄は下級神が現世での体を使った者だ。人間であるお前には倒すことはかなわない。だが、同じ人間が神剣を使うのであればそれより活躍はできるだろう)
(………ぶっちゃけるね。君)
(事実である)
(………悪く無い返事だ。でも俺が活躍して君に何の得があるんだ?)
(………………………………………………………………………………………………………あの神剣のほえ面を拝めるのであれば。私は折れても満足だ)
聖剣が漏らした聖なる者らしくない感情にイットはどこか共感を覚えた。
それが何だったのかイットは知らない。
その後エルフに入ってイトリアとして、女として生活し、イットは思い知った。
【女】として生きる者達に、【女】として生きることを選ばなかったのはイット自身だったが、イットは自分が聖剣の同様のほの暗い嫉妬を覚えていることに気付いていた。
そしてコムエンドに侵入して、イットはここに決意を固める。
(聖剣よ)
(……我を呼ぶとは久しいな)
別なことに集中していたのであろう、聖剣は一泊間を置いて反応した。
(私は活躍するぞ)
(うむ。より神剣の臭いが近い。奴はやはり人間を使い手に選んでいる。勝機は十分にあるぞ)
聖剣はそれまでイットに協力的ではなく、話しかけられても曖昧な答えばかりだった。神剣使い手の情報を集めていた様だ。イットの決意と共に聖剣の中でも結論が出たらしいこれまでになくイットに向き合っている聖剣がいた。
(そして、俺は英雄と称えられる席で【女】であることを宣言しよう)
(ほう……)
聖剣がイットに興味を持った。
(アユムは強くなっていた。だから俺も称えられて、そして女としての俺も手にする。誰に文句も言わせない。俺は『女』としても『英雄』として、誰にも劣らない事を証明する!)
(…………よかろう。つらく、苦しい事だがこれよりお前との融合度を上げて行こう。それこそ…………超級モンスターを葬れるほどに…………私も、貴様も力を使いすぎて壊れるかもしれんがな)
(安心しろ、仲間が色々おぜん立てをしてくれるらしいし…………ふふふ)
(………………何をもったい付ける?)
(計画ではどうやら神剣使いを踏み台にするようだ)
(ほほう! くく、くくくく、くくくくくくくく。‥……………これが、可笑しいという感情か。愉快愉快よ。いいだろう勇者イトリアよ。お前を真の使い手と認めよう。これより我ら一心同体。これまでの様に甘くはない。心せよ)
(初めは気にくわない剣だったけど、今はいい反応だよ相棒)
こうしてイットは聖剣使いとして一つ上の領域に踏み入った。
それは人間として踏み越えてはいけない一線であった。
コムエンドに再度入った日。その夜に起った出来事であった。
(勇者イトリアよ。超級モンスターが動き始めたぞ)
(そうか聖剣。アルフノールがこのタイミングでコムエンドに強硬侵入したのは正解だったな)
(うむ。)
(………時に聖剣よ。お前名前はないのか?)
(私は聖剣、製造番号83号それ以外ない)
(ではお前に名前をやろう。『リア』でどうだ)
(ふむ。普通は勇者イトリアの剣とかになるものではないのか?……まぁ、いいだろう勇者よ。受け入れよう……)
(……お前はこれから俺、イットの半身。昔捨てた女としての名前『リア』を持つ相棒だ。俺はお前を半身と認め、決戦にひっ書の覚悟をもって挑もう)
(……不思議な感覚だ。特別な負担なく、俺とお前の融合度が上がっている感覚だ。……これならば神剣を使い潰した後。超級モンスターさえ倒せそうだ)
イットと聖剣リアが語らっているうちに、コムエンドを謎の結界が地中から全てを包む。
力ある存在の外部からの侵入を拒む結界だ。
師匠達は即日動きだす。
(神剣と神剣使いが超級モンスターと接触しているな…………イカの形などとりおって。おちゃらけていられるそこまでだ。苦しんだげく、聖なる者としてお前を見下すのは私だ。精々弱らせてくれ……)
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