第40.5話「モンスター農家スカウト!そのご」

 両開きの扉が開かれるとそこは森だった。

 入ってすぐの所に広場があり切り株の椅子がまばらに置いてある。

 その真ん中でムウさんこと1.5m位の黒い熊が背を向けて体育座りで待っていた。


 チラチラっ


 ムウさんはチラチラとアユムたちが中に入ってきたことを確認すると顔を膝に埋める。黒い毛玉の感性である。


 「…………あれだね。いじけてるね」

 「…………何故デショウ。リーダ、元気出シテ」

 「がう(本気で言ってるのか? ナイトウさん)」


 ナイトウさんはフルプレートガチャガチャ鳴らしながらむうさんに声をかけ続ける。


 「ボウ(ナイトウさん。本気で気づいてないな…………)」

 「ボフ(ムウさん、可愛そう…………)」

 「ボッ(…………普通に考えて、リーダに無断で群れを離れる決断して。報告忘れ、勝手にいなくなりそうだったからっすね……リーダとしてはやるせないっすよね……)」


 空気の読めないモンスター達がムウさんの気持ちを読んでいる。


 「がう(ナイトウさん。ごめんなさいって言って。ほら)」


 アームさんのもふむふぉの頭に押されてナイトウさんがムウさん(毛玉)に謝ると毛玉から顔が現れる。


 「がお(…………自分そんな事気にしてないし、ちょっと眠いから寝てただけだし)」


 ((((あ、めんどくさい子だった! 渋い子じゃなかった!))))


 「ムウさん。」


 アユムがムウさんの隣に腰を下ろし丸まった背中に手をのせる。


 「15階層でバイトリーダしませんか?」


 アユムは天然であった。なので、気にせず話を進める。ムウさんの気持ち置き去りである。いや、この場合置き去りにした方がよいのかもしれない。


 「がお(ごめん。ここのリーダだから無理です。誘ってくれてうれしいのだけど……。あとみんなで木を育てる事業もしてるし……)」


 そう言ってムウさんが見回すと木々の間からモンスターたちが現れる。虫系が多い。あとは色違いの熊も居る。


 「がお(…………行きたい奴がいたら、ついていっていいぞ)」


 意を決してムウさんが発した言葉は少なからずモンスターたちの間に動揺を生んだ。

 だが、結局だれも動くモンスターはいなかった。

 ここのモンスター達は誰の影響なのか、それともダンジョン作物の摂取量の違いなのか誰もしゃべらなかった。ただ、全員が一斉に首を横に振る。


 「…………うーん。研修扱いで15階層に来てもらっても良かったんですけど……。ムウさんの人徳に負けたみたいですね」


 決意をはらんだモンスターたちの瞳にアユムはスカウトを諦めた。


 「がお(…………アユム。ならばムフルの木の育成ならシフトでお手伝い兼研修で行かせてもらえるだろうか、人員の管理から作業指示までうちで行うから……)」

 「ありがとうございます! じゃあ、具体的なお話をしましょう」


 その後むうさんの20階層実験農園での指導をして、15階層派遣の具体的な決めごとをし、アユムたちは帰宅した。


 帰り道。ワームさんは沈んでいた。


 「ボッ(…………なんすか、あのイケメン。エリート臭漂わせやがって………俺っちの方があの子を愛してるっす)」


 スカウトに行ったら微妙な距離感の2人がいたらしい。

 もちろん割り込んで意中の彼女だけスカウトしたつもりが雄の方まで来ることとなった。最大の敵はアユムだった。『良ければ、あなたも来てもらえませんか? ワームさん照れて話しかけられないみたいなので♪』。いや、最大の味方だった。彼女と向かい合うと恥ずかしいので雄の方をスカウトもしていと言っていたのは、ワームさんでした。こうして離れたくない雄と2人になるのが怖いワームさん、そしてもっとワームさんの同種に就職してほしいアユムの意向が合致したのだった。


 「ボッ(雄のやつ、いいやつだったっす。でも負けねぇっす)」



その頃のグールガン(その二)―――――――――――――――――― 


 「無事の航海に!」

 「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」


 クラーケンの素材で大金を入手した漁師たちは浮かれている。

 外海を漁場とする漁師達は街でモテた。命を懸けて仕事をするので金回りが良く、明日の命の保証がないので金遣いもよい。そして屈強な男たちはだいたい独身である。


 船員たちは荷揚げを完了させて、全員港での自由時間3日間を謳歌する前の打ち上げを楽しんでいた。

 港の倉庫で簡易の料理ときつい酒を片手に生き残ったことを大いに堪能する。


 「ほい! クラーケン焼きあがったぞ! おい! 手空いてるなら調味料仕入れてこい! なんだったら好きなもん買ってきていいぞ。ただし女は買ってくるなよ! 遊ぶのは日付が変わってからだ」


 簡易の料理場を取り仕切るグールガンは自らも強い酒を片手に鉄鍋を振るいクラーケンを捌く。


 「やべーよ。俺胃袋まで掴まれちまったよ。この後女に会うから、この胸のドキドキは女と会うドキドキだと思いたい」

 「おめーもか、俺もなんだよ。でもグールガン先輩は奥さんもいるしな…………」


 漢オトメが増えました。

 グールガンさん。気を付けて。本当に気を付けて!


 「あ? 酒が飲みたい? おう! 呑め呑め! あ? 俺の酒が美味そうだって? じゃーねーな」


 無防備な男グールガン。

 罰のはずが、堪能する男グールガン。


 できればここからの中継は次はしたくない。

 きっとオトメが増えてるような気がするから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る