第36話「イックンのイックンの為のイックン業」

やぁ!2章だよ!

タ「そして俺のターン!」

――――

 「なんや、その包丁は! やめろ! アユム! わしは神剣や! 鍬くわやない! やめてーーーー、指をさして『神のピコハン(笑)』って! いじめやん! 『苛めかっこ悪いって』って、なんでも言うとおりにできるエロい人もいっとったで! ちょーかっこつけてええ感じやったで!!!!」


 そこでイックンは目を覚ます。

 水中だった。イックンは神剣である。本来寝る必要性などないのだが……。仮の体たるモンスターの体を得たイックンは寝ることを覚えた。当初は爽快そうかいな気分だった。だが最近悪夢を見る。最低な気分だ。


 「おはよう………」


 のっそりと地上に上がると、どうやら朝の時間帯だったらしく、料理工場から畑を管理する冒険者が出てきていた。

 ちょうどいいのでイックンもイカ型人間に化ける。

 イカ人間と言ってもペンキになって進むとか物凄い物にはならない。

 普通の人間の様に足と手が2本。どちらも青白い。髪の毛と髭ひげが以下の触手の様にうねうねしている。服は着ていない。なので股間の小象もフラフラしている。


 「イックンおはよう! そして服着て………みっともないものが見える」


 仲の良い料理人はイックンにそう告げると、苦笑いしながら畑に向かう。

 ダンジョン作物は生育が早いので、細かな手入れと収穫が必要だ。これが結構な重労働である。

 放っておくと畑自体が駄目になるので管理する側も割と大変である。


 畑の管理といえば、害虫については数日に一度ワームさんが現れ美味しく頂いている。

 そうここ10階層は比較的地上に近いので虫の侵入がある。

 10階層から下に行くとほぼいなくなるのだが……。


 あとは地上でやっているような害獣対策だが………たまに各種コボルトが盗みに現れるので料理人に始末され、素材としておいしく頂かれている。


 「そういや、暗黒竜先輩との貿易は続いとるん?」


 つなぎを身に纏まといビビジルトを収穫の手伝いをはじめるイックン。

 収穫したばかりの癖のある状態のビビジルトを、好奇心から臭いをかいで顔をしかめるイックン。


 種芋も準備されているがアユムではないので植えても食べられるようになるまで2日かかる。

 更に、旨味も薄い。甘味も薄い。魔法力の循環方法なのだろうか?

 それとも植物の特徴に応じた何かがあるのだろうか?

 アユムは何をしているのだろうか。イックンは神剣である。長い年月この世界に漂って力の流れに身を任せてきた。こう見えて神剣として歩んだ歴史が長く、知識豊富なイックンが理解できないと言う事象は……、実は並大抵のことではない。


 「ああ、続いてるよ。最近服飾関係でデザイン画とか書いて送ってくるよ。35階層は何をやってるんだろうな? 実力が付いたら行ってみたいよ……」


 料理人の回答を聞きながらビビジルトを籠かごに入れるとイックンはそこで思考を中断する。

 加工食品にすれば比べるまでもなく地上産の作物よりうまいので問題はない。

 この場に集まった仲間たちと一緒に作り上げる加工食品に、本来神剣であるイックンが知らず知らずに誇りを持っていた。


 「朝飯だぞーーーーー!」


 調理場から威勢の良い声が響く。


 イックンとその仲間たちは背負った籠かごを料理場の近くに降ろすと、配膳済みのテーブルに座る。

 そしてワイワイとくだらないことで盛り上がっている。「お前、チカリん親衛隊に入隊したんだって?」「ばっばかちげーよ、俺はロリコンじゃねーよ」等々、10階層まで来ることができる選ばれし料理人たちとは言え年若い男たちである。「会員NO.1009だなんて、そんなことあるわけねーじゃん」「うわ。こいつさりげなく見せてる! 超自慢してる!!」。

 ………この小説は健全な小説です。決してロリコン推奨の小説ではない!

 「なぁ、親衛隊って入会金いくら? 特典は? 年会費は? 入会制限とかあるの?」

 ………繰り返す!

 ロリコン推奨ではない!

 もちろん、15歳で成人となるこの世界においてチカリ(16歳)は大人だ。そうチカリ(135cmAAAカップ)は大人なのだ。大人の淑女にファンクラブが付くのはいたって健全なのだ!!

 ……うん。……よし。誤魔化した!!「やべーよな。うちの妹より小さいんだぜ」「お前の妹って12歳だっけか?」「ああ、可愛いのよ。チカリんもな……」………もういいや。


 「わし、人型になってから毎朝楽しみや」


 黄金色のスープに黒く染まったビビジルトが2つ、同じく黒く染まったモンスター肉がひと固まり。そしてトウモロコシ粉から作ったパンが一つ。


 「そうか、素材は美味いんだがな。今一種類と調味料がな……悔しいが、素材に負けてるようで……精進せねばな」


 イックンの隣に座っていた料理人が憎々し気にビビジルトにフォークを刺す。

 抵抗なく刺さるフォーク、ビビジルトは口の運ばれると表面の塩味を舌の上で感じる。そして噛むと簡単に口の中でほぐれてビビジルトの汁が舌の上で踊る。口の中は旨味の洪水だ。そうしてもう一噛みすると甘みが増す。収穫時の臭さは下処理で消えていた。そしてその旨味体験を繰り返すといつの間にか口の中からビビジルトがなくなる。魔法で水を出して少々口残った塩味を洗い流すとパンを食む。パンそのものを堪能した後、肉をサンドする。イックンは思い切り口を開き、パンごと肉をかみ切る。よく煮込まれた肉だほろほろと崩れる。肉はパンと共にイックンの口内を美味さという刺激で蹂躙じゅうりんし続ける。


 イックンは不意にアユムの所で飲んだコーンスープが欲しくなる。

 しかし、ここにはない。


 「確かに、もうちょっと他の物もほしいかな………」


 イックンのつぶやきに料理人たちは目の色を変え、そして声をそろえる。


 「「「「じゃあ、その触手を1本!」」」」


 思わず椅子を横にずらし逃げ腰のイックン。


 「せや! 36階層の魚型モンスター仕留めてきたる! な、せやから手をはなして。お願い」


 料理人達から解放されイカモンスターに変身したイックンは自宅にダイブする。


 「あ、夕方の作業までにはもどってきてくれよー」

 「はいな!」


 イックンの為だけに作られた道を通り36階層向かったイックンだが一番初めに眼にしたモンスターを狩って後、36層を優雅に回遊し、10階層に戻った。


 「36階層のモンスター持ってきたで!」

 「「「「おお! 海の悪魔だ!!」」」」


 そこでイックン不在時に地上から出張して来ていたハインバルグが吠える。


 「野郎ども! 戦争だ!!!」


 生きの良いうちに捌く。そして冷凍倉庫に入れられてゆくモンスター。

 時々手順を間違えたり、手を冷やさずに魚モンスターに触れたり等した若手がハインバルグの張り手で吹っ飛んでいるのが見えたが些細な事である。


 「うまっ! なんやこれ! あのモンスターこないうまいんか! スープの味も深みがましとる! 最高や! 明日も狩ってこよかな……」


 イックンは気付かない。


 「……美味かった。でかいから大味かと思った。予想以上だ……」


 料理人たちも大満足である。鈍い光を目に宿しながら料理を堪能し次の料理について討論している。


 「なぁ、やぱり一本もらえないか………」


 料理人の一人に肩を掴まれたイックンは戦慄せんりつする。その眼は確信に満ちていた。『なぁ、美味いからさぁ』と語っているようだった。


 無言で立ち上がり自宅にダッシュするイックン。

 神剣は真剣に恐怖した。

 ……人間コワイ。


 次の日、イックンは反省した料理人たちから謝罪を受けた。


 しかし、イックンは気付かない。料理人たちは確信を得ていたことを。

 イックンは気付かない……。

 狩ってきたモンスターがイカ型だったことから、……料理人たちがイックンの味を連想してしまった事を……。

 そしてイックンは自分の形を意識していない。

 さて、理性と興味どちらが勝つのだろうか。


 「料理長! 我慢です! 美味そうですが彼は味方です! もしかしたら神剣だから鉄の味が強いかもしれないでしょう!」


 イックンはその体を守ることができるのだろうか?

 そして、神剣なので切り離したら神鉄になることを誰が発見するのだろうか?

 発見されたら鍛冶師もイックンの体目当てで寄ってくるぞ!

 気を付けろイックン!

 甘い言葉を巧みに操る人間にそそのかされるなよ!!

 ……前振りはここまで言っておけばいいかな……。


 「今日は魚の気分やな………でも、アユムの所のトウモロコシもいいな……」


 10階層は今日も美味しそうな空気に満たされていた。


 「コボルトがきたぞ!」

 「後ろにワイルドキャッツがいるぞ!」

 「「「「野郎ども! 狩りの時間だ!!!!!」」」」


 コボルトはモンクコボルトだったが……料理人に一瞬で料理されました。

 うん。見なかった。危ないものは見なかったことにするのが一番です。


 「イックンの触手分けてもらえないだろうか…………」


 ……頑張れイックン!

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