第35話「アユムが一人アユムが二人……ああ、一人足りない」

 『さぁ、今までの経緯をまとめてみましょう!

  まずはきっかけ!

  それはこのアユム君がダンジョン作物の性質を変えてしまった事にあります!

  皆さんご存知でしょうがダンジョン作物とはダンジョンがモンスターに使われるような濁った魔法力を肥料として実らせた、いわば作物版モンスターです。

  それをこのアユム君は浄化したダンジョン作物を作り上げてしまった。びっくりです!

  それを食したこちらのキャットドラゴンについては自己進化。しかもモンスター特有の混濁した思考がない【新種】の生物にしてしまった。いわば奇跡の作物をつくってしまったのです!

  これは、ここのダンジョンマスターから提出されたレポート並びに実際の作物を解析した事実です。

  さて、こんなおいしい成果が目の前にぶら下がって何もしないなんて、そんな奴がいたら神なんかじゃない! そうだろ皆!!』


 幼児ことマスク・ド・ブラックはこぶしを振り上げたまま吠える!

 そして、耳に手を当てリアクションを想像しながら鷹揚にうなずく。

 まぁ、実際にパブリックビューイングはその想像通りの反応なんだけどもね。


 『そこで動いたのが、白の神アーランとその天使グールガン!

  レポートが認められ天界の保護がかかる前にどっちか盗もうとしたわけです!

  いまだキャットドラゴン並みに【新種】になっているモンスターも居ないのでまずそちらを狙ったのですが! 見事に失敗………』


 ホワイトがブラックの話を受け継いで喋っている。最後に首を大げさに横に振をお手上げのポーズ。


 『サンキュー! ホワイト!

  見事に失敗した天使グールガンだが、ここで最後の賭けに出る!

  地上での天使化! しかも他の神の領域での力の行使という犯罪行為に打って出たところ!

  なんとアユム君神剣使いだった!! と言うどんでん返しの中!

  農地を奪われた失意の農家兼神剣使いアユム VS 追い詰められた天使グールガン!

  が幕を開ける

  予定だった!!

  だが!!』


 そこで言葉を切って、ホワイトとブラックは先ほどとは別のポーズをとる。

 イライラします。


 『『血みどろの戦いなんて天界では見飽きた! 故に違う勝負をさせるために我々が 来た!!』』


 何故両サイドか爆発。はじけ飛ぶトウモロコシ。気づいてご両人、アユム君のヘイトが貴方達に向いてますよ。


 『なお、白の神アーランですが他神のダンジョンへの不正関与の疑いで自慢のヒゲ永久脱毛の刑にすでに処されております』


 ホワイトの発言にグールガンが口を抑え、小刻みに震えている。


 『では、今回のお題を発表します!』

 『ワクワクします! 前回はダンジョン早攻略競争でしたからね! 今回はなんだ! 神器作成コンテストなのか! モンスター討伐競争なのか! 変わり種では農地開拓競争もありましたね!』


 最後の言葉にアユムは反応してしまう。

 しかし、【ダンジョン早攻略競争】って世の英雄が聞いたら泣くなこれ。


 『今回はこれだ! えっと【たたいて・かぶって・ジャンケンポン対決!】 です!!』


 歓声で揺れる天界。お茶を楽しむ師匠達。農業関係じゃないんだとやる気を失うアユム。ちょっとワクワクしているグールガン。ま、それぞれの反応であった。


 『ではまずピコピコハンマーを用意しましょう! アユム君、神剣借りるね~』

 「あ、はい」


 幼児の言葉に反射的にアユムが頷くと大地に刺さってふてくされていた神剣イックンは次の瞬間幼児の手の中に納まっていた。


 『いややいやや。わし、由緒正しい神剣やん! 1万年前、反旗を翻した邪神討伐でとどめの一撃を見舞った神剣やん! ピコピコハンマーなんていやや! 断固拒否するで! 変化したらん!』


 叫んでいるうちにピコピコハンマーに変えられて隆起した土の台に置かれる。


 『お前何もんや!!!!』


 神剣イックンがいくら頑張ってもピコピコハンマーから元に戻らなかった。

 そして幼児がさらに一撫でするとピコピコハンマーの隣に【神様建設】と書かれた黄色いヘルメットが出現する。


 『お前……まさか……………………アーたんか? 俺や神魔戦争では対立したけど、昔なかよーやっとったイクスや! お前、神の盾アイギスやろ? なんでこない場所でメットやってんねん! 何か言うてや!!!』

 『イックン…………何も言うな。今回も私と君は敵対関係にある。…………事情は語らぬが華という事もある…………』


 台の上に設置されたピコピコハンマー(神剣)とメット(神の盾)は仲がよろしいようで。


 『ではしばし、ベットタイム! その間に選手紹介&インタビューコーナです。早速赤コーナー、神剣使いあーーゆーーーむ! 人間ながらに人外師匠に囲まれて常識さんとお別れしたのは1年前! ついにこの神様バトルの場に出てきた! きっと農業神様がみている! これに勝ったらご褒美があるかも!!』


 ブラックの言葉で火が付いた。アユムの瞳に情熱の炎が宿る。


 『では早速インタビューしてみましょう』


 ホワイトがマイクの様なもの片手にアユムに近寄る。アユムの背中から気迫を具現化した様な青いオーラが立ち上っている。


 『アユム選手意気込みはいかがですか?』

 『やります! 農業神様のご褒美楽しみです!』


 15階層を滅茶苦茶された恨みはもうすでになかった。


 『相手は天使、上位存在ですがその辺どうおもわれますか?』

 『小さな問題です』


 言い切ったアユム。男らしい。


 『最後の質問です。お姉さんのことどう思いますか?』

 『マスク被らなければ奇麗だと思います!』


 何故だかガッツポーズのホワイト。


 『ホワイトさん。最後なんで聞いたんですか? あ、うん。無視なのですね。ええ、そっちがその気なら私も閻魔帳に書き込んでやるのです……………。さて続いては青コーナー! 白の神所属天使! 家族からの無視に耐えられず仕事に打ち込むし苦労人! たまには娘の顔を見に帰れ! ぐーーーーーーーるがん!!』


 「俺のだけ私信なのはなんでだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 グールガンさんそのうち子供から『おじちゃんだれ?』って言われちゃうよ? ほどほどにね。


 『はい、インタビューおねがいしまーす』


 ホワイトがアユムから【奇麗なお姉さん】と呼ばれたのがうれしかったらしくスキップ踏んでやってくる。


 『グールガン選手! お久しぶりです! 初出場の意気込みをお願いします!』

 『追い詰められた天使の実力を見せます!』


 悲哀に満ちた瞳で語るグールガン。


 『相手のアユム選手は人間です。格下相手に油断はないでしょうか?』

 『油断した結果追い詰められました。今回は慢心はないです』


 そうですよね。アームさんを進化に追い込んで自我を失わせてサンプルとして持ち帰ろうとしたら逆襲されちゃってますしね……。


 『では最後に天界のご家族へ一言!』

 「お父ちゃん頑張るぞ! 学校で自慢できる戦い見せてやる!」

 『以上、【お口臭い】でショックを受けたグールガン選手でした!』

 「ねぇ! なんで最後に一言知ってるの! ねぇ!なんでそれ付け加えたの!?」


 ホワイトが戻ってきたところでブラックが何かを確認して正面を向く。


 『投票結果が出ました! じゃん』


 いや、こっちに見えませんて…………。


 『グールガン選手1.23倍対してアユム選手11倍です! これは思わぬ大差です! そしてアユム選手に200掛けた私。素晴らしい勝利の予感されています!』


 賭けの胴元が賭けに参加する罠。


 『ホワイト、これはどういった事でしょうか?』

 『ブラック、簡単です。種族特性差に皆さん着目したのでしょう。やはり人間と天使では天と地の差がありますので………』

 『なるほど、ではこの勝負アユム選手がどのような対抗策を講じてくるのか見ものですね!』

 『ああ、そろそろ始まる様ですよ!』


 ホワイトの言葉が終わるとダンジョンの照明が薄暗くなりファンファーレが鳴り響く。


 ファンファーレが終わるとまずはアユムにスポットライトが当てられる。

 光の中、土の台へ進むアユム。


 「がう(アユム! がんばーーーー!)」

 「ボウ(仕事が恋人♪ の天使に負けるな!!)」


 アユムホームである15階層では次々に歓声が沸く。師匠ズは肉と酒で盛り上がっていた。


 『農地を奪われた失意の農家兼神剣使いアユムがその沸々と湧き上がる闘志を抑え込みながら入場です』


 土の台まで進むとアユムを包むスポットライトが落ちる。

 代わりにグールガンに当たる。 当然ブーイングが響く。


 『追い詰められた天使グールガン、悠然と入場です。彼の表情から負けることは一切感じられない自信があふれております』


 2人が台を向き合うと照明は台を中心に2人をつつむ。


 『では恨みっこなしの【たたいて・かぶって・ジャンケンポン対決!】3本勝負! 開始だ!!!!!』


 何処からともなく太鼓の音が鳴り響く。


 かわされる気迫が籠った視線。両者示し合わせたように腕を振るう。


 『『じゃーんけん、ぽん!』』


 アユム………ぐー。

 グールガン………………………………………ちょき。


 咄嗟にグールガンはメットに手を掛け………………………………。


 「爆裂魔法」


 る前にアユムの魔法で吹き飛ばされた。

 悠然とメットを被り、ピコピコハンマーを振り回すアユム。

 その瞳に一片の慈悲もない。


 「まて! おかしい! おかしくない? 」


 パコ―――ン


 爽快なピコピコ音がグールガンを遮る。


 『一本!!』

 「異議あり!!」


 グールマンの剣幕にブラックは一時対決を中断する。

 アユムの方からは見えなかったがどうやら天界となにやらやり取りをした後。


 『今アユム選手がとった行動ですが法の神様の判断によると【有効打】との事です! さっさと2回戦始めてください!』


 「まじか……そんなのがありなのか……。アユム3本勝負の1本目から奥の手を出すのは早かったな。2回戦以降俺も同じ手を取らないとでも思ったか?………」


 睨み合う両者だがアユムは依然として余裕の態度を崩さない。グールガンはその態度に焦りを募らせる。


 (やるしかあるまい!)


 覚悟を決めてアユムに向き合うグールガン。

 再び二人は息を合わせて腕を振り上げる。


 『『じゃーんけん、ぽん!』』


 アユム………ぐー。

 グールガン………………………………………ちょき。


 結果は変わらなかった。と言うかグールガン!

 反射的に魔法を構築したグールガンはアユムより自分の方が先に魔法を発動できることを確認して魔法を放った。


 「爆裂魔法! うぉ!」


 結果反射魔法を事前に仕込んでいたアユムに反射されて吹っ飛ぶグールガン。


 悠然とメットを被り、ピコピコハンマーを振り回すアユム。

 その瞳に一片の慈悲もない。


 「まて! おかしい! おかしくない? 今度もなんか違う気がするぅうぅぅぅ!」


 パコ―――ン


 『一本! 勝者アユム! あんどみー! 11倍ウハウハなのです!!』


 騒がしい周囲を押しのけてアユムはグールガンに近付く。

 グールガンはばつの悪そうに大地を見つめる。


 「敗者を笑いに来たのか?」

 「いえ、ただこれを……」


 慈しむような瞳のアユムから静かに手渡された紙に視線を落としたグールガンは次の瞬間土下座していた。


 『損害賠償請求 グールガン様』


 とんでもない金額が記載されていた。


 「なんでもするので何卒、ご容赦いただけないでしょうか!」


 グールガンの言葉が15階層に木霊し、この事件解決に至ったのだった。


(1章完)


ここまでお読みいただきありがとうございます。

感想とかもらえるとさくさyこの上なくうれしいです。


さて、読んでる人も耐えてくれたかと思いますがグールガンについては私も耐えました。このちゃぶ台返しの為に。


イックン? 彼はお星さまになったんだよ……尊い犠牲なんだ。気にしたらダメだ。

ちなみに、ホワイトとブラックの姿は特別な意味はありません。

神様はその在り方が姿となる為変化し続けているとだけ言っておきます。


はい、1章終わったので誰も待っていなかった座談会です!さぁ行ってみよう!


御題「ダンジョン農家で言いたいこと」


悪魔ちゃん「期待させておいて放置プレイの件について」

暗黒竜先輩「巨体過ぎて放置プレイの件について、もっとください」

イックン「投げやりなキャラ設定に怒りを感じる件について、神剣の取り扱い改善を真剣に考えて!うぷぷ」

~~~神剣が踏まれています、しばしお待ちください~~~

暗黒竜先輩「ウラヤマけしからん!」

賢者の娘「見せ場があっただけまし。私なんて猫被ったまま名前もそんなに呼ばれず終わった」

一同「扱い憧れの先輩枠のくせにうっざ」

賢者の娘「いやいや、同級生枠でも行ける所存」

イックン「無理や、10歳はなれてそれはない。アユムも大人になったら現実見えてくるパターンや………………ぐはぁ! ぶったね! お父さんにもぶたれたことが無いのに!」

賢者の娘「黙れ、消すぞ」

イックン「お口にチャック…………って縫おうとすな! やばい! こいつほんまやばい!」

悪魔ちゃん「(見なかったことにする)でも、幼馴染たちがそろそろ絡む予感がするし私出番じゃない?」

暗黒竜先輩「ストーリ盛り上げないって言ってたのに出番あるかな? 出オチキャラでしょ貴方達?」

悪魔ちゃん「え?」

暗黒竜先輩「え?」


空気が悪くなり世界の声(録音係)が逃亡したため終了。


注意:すべてキャラクターの主観です。何がどうなるかなんてその場の勢いと気分で決まります。何度でもいいます。何か気にしたら負けなのです。そういう小説の様なものですので何卒ご容赦ください

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