「ワナビ」という言葉の変遷

 あるプロ作家が作家を目指す人たちに向かってこんなことを言いました。

「ワナビにだけはなるな」

 違和感を覚えた人、あなたは正しいし、間違ってもいます。

 そもそものワナビという言葉は「wanna be」、つまり「なりたい」という意味です。以前は「ワナビー」と本来の発音と同じく最後をのばしていたのですが、いつの間にか「ワナビ」になっていました。

 ワナビというのは元々、「作家になりたいにゃんね~~~」と言いながらごろごろ寝転がって何もしないような人に対する蔑称でした。つまり、言うだけで何も行動に移さないタイプの、本当に軽蔑すべき相手への罵倒です。

 冒頭のプロ作家が用いたのは、この本来の意味の「ワナビ」です。

 ところが、いつの間にやらワナビの示す範囲は、作家志望者全体にまで広がっていました。

 現在では、作家になりたいと公募に出す人間に対しても、当然のように「ワナビ」呼びがなされます。

 本来の意味なら、きちんと一作書き上げて賞に出すというアクションを起こした時点で、ワナビではなくなったということになります。

 しかし、言葉――それもジャーゴンというのは意味が変わってしかるべきものです。

 ワナビという呼称が広まったことで、作家志望者が自らワナビを自称するようになります。謙遜や自虐で自分を貶めていたのでしょうが、それがだんだん浸透していくと、簡素な蔑称として、ワナビという言葉が機能し始めます。

 言葉の意味は変わります。現在機能している意味を第一に考えることは当然ですし、必要です。

 ワナビという言葉も、最初の完全な蔑称から、曖昧な総称へと変わったことで、言う側にとっても言われる側にとっても、非常に使いやすい言葉になっています。

 なので、ワナビという他称、自称は、現在の意味で使われるのなら、別段問題はないと個人的には思います。私も自分をワナビだと自称する場合も多いです。

 ただし、その言葉には本来、明確な軽蔑が含まれることだけはどうか忘れないでください。相手をワナビ呼ばわりする時は細心の注意が必要ですし、不要ならば使わないほうがいい言葉です。この辺りの齟齬で空気が悪くなってしまう場面というのはことのほか多いです。

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